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    zyogasaki_

    @zyogasaki_のやましい落書き入れ。

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    zyogasaki_

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    ホワイトデーも過ぎてしまったけど吸血鬼んばんばのバレンタインネタ。甘め

    街中に漂う甘い香りと、何処か浮ついた雰囲気。
     バレンタインデーというものを経験するのははじめてだったが、恋人のためのイベントだということは聞かされていた。恥じらう気配も無く寄り添い、手を繋ぐ恋人達を見てる度に恥ずかしくも、羨ましくも思いながらくにひろは街を歩いていた。
     片手には先程買ったチョコレート。相方である国広のために購入したものだが、店に入るだけでも気恥ずかしかった。自分には似つかわしくない上品で、高級感のある紙袋はひと目で恋人に送るものであると分かるだろう。
    「なんと言って渡そうか……」
     もちろんバレンタインにチョコレートを贈ったことなど無い。ただでさえまだ国広には遠慮があると言うのに――
     それでも彼にプレゼントがしたくて街へ繰り出したのだった。




    「おかえり、早かったんだな」
     家に戻ると、リビングから顔を覗かせた国広が迎えてくれる。
     こうして共に暮らす様になってまだ幾らも経っていないが、彼の顔を見ると安心する。
    「ただいま……」
     午前中に街へ出かけるとだけ伝えていたが、何を買いに行ったのか察しが付いているかもしれない。
     くにひろは右手にぶら下げていた紙袋を手渡す。
    「あの……これ、あんたに」
     結局上手い口上は見つからず、ぶっきらぼうに紙袋を掲げただけだった。
     国広は一瞬驚いた表情をしたが、直ぐにそれを受け取ると微笑む。
    「……チョコレート、買いに行ってくれてたんだな。ありがとう」
    「やっぱり気付いてたのか」
    「まあ……俺も渡そうと思っていたからな……リビングに置いてあるから一緒に食べよう」
     国広の言葉に頷く。そして彼はくにひろの手を取ると、リビングに向かった。

     窓から心地良い日差しの入るリビングは、相変わらず過ごしやすい雰囲気だ。
     国広はくにひろを連れてソファに腰掛ける。テーブルの上にはチョコレートが入っているであろう小さな箱が置かれていた。
    「そら、これはお前に」
    「……ありがとう」
     ワインレッドの包装に、暗い色のリボン。国広はそれをテーブルからそれを手に取ると、くにひろに手渡した。
    「俺のは手作りだぞ」 
    「あんたが作ったのか? すごい……」
     一緒に暮らす様になって思ったことは、彼が器用だということだ。全て自分のことは自分でしてきたのだろう。戦いの腕だけでなく家事や料理などもこなしてみせるのだ。
    「食べてみてくれ」
     国広に言われた通りに包装を開き、箱を開ける。中にはよく見かけるミルクチョコレートにホワイトチョコ、ピンク色に見えるのはストロベリーだろうか。一口大の食べやすそうなものが並んでいる。
     それをひとつ手に取り、口に含む。舌に広がる強い甘味と優しい香り。
    「……美味いか?」
    「美味い……これは酒が入ってるのか……なんだかすごく美味い気がする……」
     チョコレートの甘味に混じって、中から溢れ出したアルコールの香りが鼻に抜ける。それだけではなく、少しくらっとする……酩酊感の様なものも感じる。酒は弱く無い体質の筈だが――
    「この感じ……もしかしてあんたの……」
    「よく分かったな、少しだけ俺の血が入ってる……どうだ?」
    「道理で……病みつきになってしまいそうだ……」
     そう言いながら次のチョコレートに手を出す。いつもの血の味とはまた違う。アルコールの効果も相まっていつも以上にふわりと幸せな気分になる。
    「気に入ってくれて嬉しい……くにひろ、こっちへ来てくれ」
     ころころと口の中で溶かすようにチョコレートを転がしていると、国広が声をかけた。彼はくにひろの腰を抱き、自分の膝を叩くとそこに乗るように促した。
    「お前がくれたのも食べたい。食べさせてくれないか」
     低くて甘い声色で国広が囁く。国広のこんな声を聴くのは二人きりで居る時だけだ。
     くにひろは言われた通り、高価そうな包装を丁寧に開けた。中には凝った装飾の宝石のようなチョコレートが並んでいる。
    「……これで良いか?」
     くにひろが一つを選んで持ち上げて見せると、国広は顔を寄せ、口を開いた。その唇から覗く牙はくにひろと良く似て鋭い。
     彼がチョコレートを堪能し終わったら、今度は自分の血も……そう思いながらくにひろは国広の口にチョコレートを運んだ。
    「……美味いか?」
    「ああ、やっぱり高価なチョコレートは美味いものだな……それにこうしてお前に食べさせて貰えるのだから美味くない訳が無い」
     いつもよりも甘い雰囲気に思わずくにひろは顔を伏せると、国広は覗き込むようにして目を合わせてくる。
    「そら、俺のももっと食べてくれ」
     そう言って今度は国広の作ったチョコレートを口に運ばれた。
     先程と同じようにその味を楽しむ。それと同時にふわふわと考えがまとまら無くなる。
    「これ……結構あんたの血が濃いな……もう、酔ってしまって……」
     呂律の回らなくなったくにひろは、国広にもたれかかる。
    「少し入れ過ぎたみたいだな?」
     国広はそんなくにひろを見て満足そうに笑うと笑った。
    「国広……俺の血も、飲んでくれ」
    「良いのか? それじゃあ……」
     国広はいつも通り、くにひろの首筋を優しく舐め上げる。その後ゆっくりと牙が入ってきた。
    「ん……う……」
     獲物を捕らえるように抱きしめられると、彼と出会ったあの夜を思い出す。
     まだあの日からそれほど経っていないがこうしていると国広の番なのだと実感出来る。
    「……やっぱりお前の血は美味いな」
     顔を上げた国広が、口元を拭いながら吐息混じりに呟いた。
     くにひろと同じで、何処か酔ったような雰囲気の国広は腰にまわした腕でくにひろの横腹を撫でる。
    「……昼間からこんな風に……いけないことをしているみたいだな……」
    「そんなことは無い。せっかくの祭日なのだから楽しんだ方が良いだろう?」
     くにひろは国広の言葉に頷く。 
     大通りより外れたこの家は、昼も夜も静かで、番である二人にとっては居心地の良い場所だ。特に今日のような日には邪魔されることも無い。
     くにひろ達はそれから飽きることも無く、夜まで共に過ごしたのだった。
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    zyogasaki_

    DOODLE冬毛でもこもこむちむちの布九尾の話「きゅうん、くん……」
    「よしよし……」
     猫なで声を出している九尾は、腹を上に向け、国広に擦り寄って甘えている。胡座をかいた脚の間に収まっている姿を見ると子犬のようで、いつか国広よりも大きく育つのかと思うと寂しいものがある。
     まだ変化(へんげ)に慣れない彼は、こうして眠る前は元の姿に戻ることも多い。この姿に戻った彼を愛でるのは日課のようなものだ。

     ――成体でないとはいえ、あの気高い九尾がここまで自分に懐くと国広は思っていなかった。
     ただ一晩、飯をやって助けただけだがこうしてずっと傍に居る。
     人間の姿は弟の様で愛おしく、獣の姿は小さく愛らしい。そんな彼に好かれるのだから悪い気はしない。
     それに加えて彼は可愛らしいだけでなく、九尾としての力も強く、頼りになる。
     もう国広は彼無しの旅は考えられなくなっていた。
    ――ちりん
    「ふふ、この鈴つけて正解だったな。可愛らしいし、何より何処にいるか分かって安心する」
     彼に買ってやった首の鈴が鳴る。
     国広が贈った飾り紐に括り付けられているそれは、逸れないようにと町で買ったものだ。動く度にちりん、ちりんと鳴らす姿は猫のようで微笑ましい。 1319

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