「今日はやけに山が騒がしいな」
山のあちらこちらから聴こえてくる喧騒は妖や獣の争う鳴き声だ。
本来夜の山というのは不気味なほど静かで、恐ろしい。国広はそれでもその闇と静寂を好み、この中で眠りに落ちるのを心地よく感じていた。だから山と山を渡り歩き、旅をしている。
これまでもこうして騒がしい夜の山を経験したことがあった。鬼である国広にわざわざ妖や獣が近くに寄ってくるということも無いが、それでも用心に越したことはない。国広は、軽い結界代わりの札を辺りに配置すると、火を消し眠りについた。
それからどれくらい経っただろうか。目を覚ました国広は当たりを見回した。火を消した名残かまだ少し温かい。あれから少しも眠っていないということである。
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