Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    あのにむ太郎

    いかがわしい絵とか?

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    あのにむ太郎

    ☆quiet follow

    自創作の設定のほぼ全てがおれの頭の中のやつの自己満SS。
    一頃めっちゃ投稿してた主と従者の創作。

    あんまり見なくても良いけど、見てくれる人がいればそれはそれで嬉しいのであげる。

    創作の方を知らんけどこれ読んでくれる人がいてくれた場合は、

    アイザック・ワーグナー
    名家の坊っちゃん。気のいいあんちゃん気質。

    神城貴丙
    アイザックの従者。淡白。

    だと思ってくれればまぁなんとなく分かるかと…。

    死ぬという事が如何に恐ろしいか貴丙が死んだ。
    只の金持ちの家の息子の俺、の、従者。
    神城貴丙が死んだ。
    権力争い云々だののごたごたが収まって一安心って時に、街中で通り魔だかどこかの家の刺客だか分からない奴に刺されて死んだ。
    俺が刺されそうになったから、俺を庇って死んだ。
    きっちり刺客を行動不能にしてから死んだ。

    俺はもう何週間も日付感覚時間感覚、全てを失った状態でただ放心していた。
    飲み食いしなきゃ死ぬので、その度一瞬正気になり泣けてくる。
    何故泣いてるのか分からない。
    『大切な人が死んで悲しい』だなんてちゃちな言葉で片付けたく無かった。

    メイドが部屋に貴丙の私物を持ってきた。
    俺は今異常者なんだからな、こんなもん見て自殺でもしたら責任とれるのか、なんて支離滅裂な事を考える。
    数冊のノート、数冊の文庫本、筆記用具、その他諸々。
    そして遺書。
    声もあげられなかった。
    見なければならないだろう。
    『アイザック・ワーグナー様宛』の封筒を。

    『死んでしまって申し訳ないです。
    この家に来た時ワーグナー様に誓った、一生お守りするという使命を果たせなかったと思うと心苦しく思います。
    驕るようで少し恥ずかしい言い回しになりますが、ワーグナー様は自分にそこそこ愛着を持っていたようですので落ち込んではいないでしょうか?
    もしそうでしたら、落ち込んでもしょうがないので気を強く持ってください。
    ワーグナー家へのご恩を返せず死んだ事をお許しください。

    神城貴丙』

    全く乱れず、癖のない文字の羅列があった。
    何を考えていたのか分からない文字と内容で変な気分になった。
    こんなもの見たってお前の何も分からない。
    どうして俺に何も話してくれない?
    貴丙の気遣い、もとい身分を弁えた行動に、貴丙が死んで尚情緒を乱させる。
    向こうでお前に罵倒されても構わない。
    そんな気持ちで日記に手を伸ばす。
    マメな奴だとは思っていたが、この家に来た日から死ぬ前日まで、多少何日か書いて無い日もあったがほぼ毎日分の内容が記してあった。
    お前の為にお前の母国語を学んで良かったな。

    『〇〇〇〇年 〇月〇日
    何もない俺がじいちゃんの知り合いの息子の従者として雇って貰える事になった。
    屋敷の人と顔合わせをした。
    皆が優しかった。
    ドイツ語を覚えなければならない。
    家長は旦那様。家長のご子息は坊っちゃん。』

    あの頃は共通言語が無くて意思の疎通が難しかったな。

    『〇〇〇〇年 〇月〇日
    今までだってじいちゃんとばあちゃんに大切に育てて貰って嬉しかった。
    でも、それとは別の嬉しさだと思う。
    「俺の為に生きろ」なんて身勝手な事を言う人が身の回りにいなかった。
    自分の為に生きるのが少し難しかった。
    従者としての勤めを少しでも果たせるようなるべく長生きする。』

    身勝手な事を言ったのは俺だ。

    『〇〇〇〇年 〇月〇日
    自分が死ぬ事、痛い事は何ともない。
    ただ屋敷の人が死ぬのが怖い。
    目の前でエンゲルベルトさんが殺された。
    初めて人を殺した。』

    エンゲルベルトは庭師だ。
    貴丙によく気をかけていた。
    貴丙が屋敷に来て2ヶ月と13日、初めて俺は命を狙われた。
    ワーグナーの分家であるやつらに屋敷を襲撃された。
    今でもはっきり覚えてる。
    貴丙が俺を屋敷の一番の階の一番奥の部屋に押し込んで外鍵をかけた。
    叫び声や破壊音、銃声が聞こえて、普段から自分はいつ死んだっておかしくないと平気で思ってたのが如何にふざけた考えであったか自覚した。
    部屋の外にいる貴丙に、中に入らないと危ないだとか平気かだとか声をかけ続けた。
    貴丙はいつもと変わらない口調で、震えもしない声色が変わりもしない、しっかり通る声でただ「大丈夫です」とだけ返した。
    聞きなれない足音が迫って来た。
    何か鋭利な物が壁に刺さる音。
    叫び声。
    体が床に叩きつけられる音。
    倒れこむ音。
    呻き声。
    銃声。
    「坊っちゃん、大丈夫ですか」
    「異変は無いですか」
    「誰も来ませんか」
    「もう暫くの辛抱です」
    静かになった廊下から貴丙が声をかけてきた。

    『〇〇〇〇年 〇月〇日
    慣れたく無いけど、慣れた方が楽だとは思う。
    どうせ暫くすればこんな事悩まなくなるからもうどうでもいい。
    こんな生活をしていながら、人生で今が一番楽しい。』

    俺が貴丙を壊した。

    『〇〇〇〇年 〇月〇日
    ペン持つのもしんどいなんて、復帰にどれだけかかるんだ。
    生きているって感じ。
    坊っちゃんは無事だったので良かった。』

    こんな事をしないと貴丙の事を知れないのか。
    貴丙から聞きたかった。
    落ち着いたらゆっくり話したかった、こんな生活を送ってるけどまぁ、お互い死にはしないだろう。
    こんな甘い考えが今の俺を苦しめている。
    どんどん読み進める。
    貴丙が真剣を持った日。
    貴丙が俺の誕生日にドイツ語で辿々しくバースデーソングを歌って、片言よりも音が少し外れていて案外音痴なんだなと知った日。
    初めて俺が日本語、貴丙がドイツ語で会話した日。
    全てを思い出す。
    とうとう今月の内容まで読んだ。
    終わりたくない。
    ページをめくる。



    『〇〇〇〇年 〇月〇日
    人の日記を覗き見する最低坊っちゃんへ。』

    ドッ、と強く心臓が脈打ち、スッと体が冷える。
    掌がじわりと湿り、おかしな呼吸をする。

    『半分願望。俺にはこれを読んでる坊っちゃんが想像できない。
    けど、きっと読む気がする。
    俺だって坊っちゃんのプライベートもっと知りたいわ。』

    俺の知らない砕けた口語。

    『坊っちゃんとはまともに会話できない。
    必要な会話しかできない。
    不必要な会話がしたい。
    坊っちゃんと喋ろうとすると、いつも余計な事を言いそうになるのであまり喋りたくない。
    言う必要ねーべって気持ちに勝てない。』

    知らなかった気持ち。

    『坊っちゃんはもしかしたら、調子乗った事言うと俺を従者というより友達に近い感覚で見てるかもしれない。
    でも俺は、男の友情と言うにはちょっと湿度が高すぎる感情を持ってる。気がする。知らん。』

    心臓が凄い勢いで動く。

    『俺が怪我して坊っちゃんが心配してるのってなんか見てて面白いし、帰省した時のクソ日本土産を有り難がるのは更に面白い。
    ドラゴン巻き付いた剣で喜ぶのかよ。たけのこの里で喜ぶのかよ。いい年した男が。
    安上がりだな。』

    脳が膨らむような、頭の圧迫感。

    『半分願望ってのは、この内容を坊っちゃんが見ちまえという気持ちと知らないでいてくれって気持ち。
    友達がマジでいないからというか、そもそも廻りに同じ年頃の人間がいなかったからどうしたら良いかも分からなかった。
    坊っちゃんにもまともな交遊関係があるかは知らないけど、一緒にいればなんか満足感が常にあった。』

    変に力の入った手に爪が食い込む。

    『なんか、他人を好きになるってこういう事なんだな。
    人が死ねばそりゃ変な気分にらなるけど、正直色々麻痺して坊っちゃんの身にさえなんも無ければわりと全部どうでも良い。
    坊っちゃんが無事なら俺は仕事できてるし。
    坊っちゃんも俺がカスなの知ってるからなんも言わんし。
    坊っちゃんが大事なのか仕事してる自分に落ち着いてるのかわかんねぇとか言ったら流石に不敬だし折檻されそ。
    間違いなく坊っちゃんが大事。』

    『めっちゃ好きですよ、坊っちゃん。
    なんか最近、俺は近々死ぬわって感覚が凄いんです。
    遺書めっちゃ淡白にしてやろ。
    坊っちゃんも結構人間性終わってるから日記位なら多分見ますよね?
    不都合なとこ全部消しました。隠蔽工作済みです。異食癖あるんで全部食いました。
    流石に見られたら癪に障る部分もあります。
    坊っちゃんの事好きですし、普通に生きていければ坊っちゃんの人生に俺がいなくてもいいです。
    俺が死んだ時、坊っちゃんがわんわん泣いても満たされるとは思います。
    秒で切り替えててもおもしれ~と思います。』

    『これだけは、他の使用人とか旦那様に見せないでください。絶対。
    坊っちゃんは、家にいるのしんどくなったら逃げちまえよってずっと思ってました。
    無責任な話ですが、坊っちゃんが上品なコース料理より屋台のケバブ好きなのもオペラよりマリオ好きなのも読書よりサッカーが好きなのも、俺が一番良く知ってます。』

    『もうわけわからん文章書いてるな。そろそろやめないとヤバい事言いそうなので簡潔に締めます。』



    『楽しく生きてください。』



    筆記体みたいな形の文字。
    筆圧が異常に濃く、3ページ次位にまで跡が残っている。
    何かで濡れた紙をペン先で引っ掻いたようになり破れて読めない部分。
    茶色い染み。
    所々支離滅裂な悪文。
    普段の貴丙が絶対に俺に言わない内容。

    『神城貴丙』という、1人の人間の激情を初めて目の当たりにした。

    鼻水が出ると思って擦った手に付いたものは赤かった。

    こんな世界じゃなければ良かったが、こんな世界じゃなければ貴丙とは出会わなかった。

    こんなに苦しむのなら、なんの為の巡り合わせなのだろう?

    全部忘れる。

    温かかったという事は覚えていられるが、これくらいの温かさだったなんていう事は分からなくなる。

    結果だけほしいわけじゃないが、忘れるならせめて終わりはハッピーであってくれよ。



    死んだお前の死ぬ前の言葉でなんて救われないよ。

    この傷の癒し方は知らない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works