この世界はいつだって不平等だ。
気をつけてくださいね。あなたは魔力もないただの人間かもしれませんが、異世界から来たという点でいえばこの世界でおそらくたった一人の、希少な人間なんですから。
そういう『珍しいもの』を蒐集したがる好事家というものはけっこういるらしい。どこから情報が漏れたかは知りようがないけれど、優しい学園長の忠告も虚しくわたしは手足を縛られて連れ去られてしまった。
獣の爪痕のような細い細い月があるだけの、暗い夜だ。既に学園の敷地から離れてしまった。潮の匂いが近づいてきたような気がするから、これから船にでも乗せられるのかもしれない。
口も布で塞がれているから助けは呼べない。荷物のように転がされたまま、わたしを乗せた荷馬車はそろそろ海岸に到着して止まるだろう。非力なわたしには誘拐犯であるたった一人の男をねじ伏せる力はない。仲間と合流されればますます抵抗はできなくなる。為す術もないとはまさにこのことだ。
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