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    torokerukaree

    @torokerukaree きれいなほうのカレーサンです。

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    torokerukaree

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    小説書くののリハビリその4。妊夫について真剣に考えてみたinドラロナがテーマです。リハビリなのでぽちぽちと書いていきます。目標は完結させる事だから……。
    妊夫ネタが大丈夫な方どうぞ。

    後ろの正面ああ、羨ましい。
    ああ、憎たらしい。
    ああ、妬ましい!

    この腹に、子を宿すことさえ出来たなら――。











    「えっ、アイツ結婚すんの」



    週刊バンパイアハンターの記者にして、高校時代からの友人であるカメ谷から取材後に聞いたのは、
    同じく高校の同級生である男のおめでたい報せだった。

    新横浜の駅前から徒歩数分の雑居ビルにある、ロナルド吸血鬼退治人事務所。
    その若き所長である吸血鬼退治人・ロナルドは、その知らせを聞いて、
    思わず素っ頓狂な声を上げた。



    「うん。なんでも彼女が妊娠したんだって」
    「へ、へえ……」
    「それでさ、意外なのが、あのチャラ男がすっかり更生してさ。今やもうパパの顔なのよ。
    いやあ、人間変われば変わるもんだねぇ」



    カメ谷がそう言って、からからと笑った。

    渦中の高校時代の同級生は――整った容姿とその親しみやすい人柄とで、
    随分と女子からモテていたのをロナルドも記憶している。

    モテているだけでは飽き足らず、彼女をとっかえひっかえ――だけでも飽き足らず、
    常に複数人の女子と同時に付き合っているような、
    ロナルドからすればついていくことができない感性の持ち主だった。

    ついたあだ名が、カメ谷が言った「チャラ男」である。
    (当人も否定する事はなく、むしろそのあだ名を名誉の勲章の様に誇っていた節もある。)

    ――が。
    その「チャラ男」が、すっかり心を入れ替えて改めるとは。



    「この間ちょっと会ったけど、まだ生まれる前なのに子どもにメロメロよ。
    ずーっと子どもと奥さんの話ばっかり。エコー写真まで見せられちゃったよ。
    いやあ、あのチャラ男から、パパママ教室の感想聞く事になるとは思わなかったな。
    やっぱ子どもが出来ると違うのかな」
    「……そうかもなあ」
    「ま、でもその彼女……、じゃなくて奥さんか。その人は良かったよな。
    これまでお付き合いしてた彼女たちとは綺麗すっぱり別れて、
    もう今の奥さんと子ども一筋になったみたいだからさ」



    カメ谷が取材の機材を手際よくカバンへと仕舞いながら、続ける。



    「奥さんのお腹が大きくなる前にウェディングフォトだけ撮って、
    式は色々落ち着いたらやろうって話になってるらしいぜ。
    多分お前、声かけられるだろうから、そのつもりでいた方が良いんじゃない」
    「へ? なんで俺?そこまで仲良い訳じゃなかったと思うけど……」
    「なぁに言ってんだ、クラスで一番の出世頭が」



    カメ谷が笑って、カバンのファスナーを締める。

    そうしてソファから立ち上がり、「じゃ、今日はここまでな。取材のご協力ありがとうございました」と、
    高校の同級生から記者の顔へと戻り――事務所から出て行った。

    カメ谷に出したコーヒーの空のカップを片付けながら、
    ロナルドはぼんやりと、その「チャラ男」の妻となり、生まれて来る子どもの母親となる女性の事を考えていた。



    「子どもかあ……」




    ぽつり、と呟いたロナルドの声は――誰に拾い上げられる事もなく、
    事務所の冷たい床へと落っこちて、吸われて、そのまま消え去っていった。

    さて、そんな出来事があったのもすっかり忘れてしまったころ。
    その依頼が舞い込んできたのは、盆も明けて、夏も終わろうかという日の事だった。





    「妊婦ばかりを襲う女性型の吸血鬼?」




    聞くからに不穏な内容に、ロナルドは顔を顰めた。

    依頼を持って来たのは県警吸血鬼対策課に努める兄・ヒヨシと、
    新横浜吸血鬼退治人組合のマスター・ゴウセツだ。

    二人が揃って依頼に来るなど、滅多にない――否。初めての事である。
    些か緊張したロナルドに、二人は神妙な顔をして言った。



    「とは言っても、新横浜の話ではありません。東京での事件なのですが」
    「向こうは元々吸血鬼が少ないからな。――吸対もこっちほどはノウハウがない。
    まして、こんなマジのヤバいヤツはな」



    ヒヨシが腕組みをして唸る様に言った。

    ――事件の始まりは、三カ月前。春の終わり、夏を迎える直前の頃の事。
    時刻は夕暮れ時。一人の妊婦が夫と共に神社に安産祈願に参拝に行き、
    その帰り道――突然現れた吸血鬼に背後から襲われたのだという。

    幸いに居合わせた夫がなんとか妻を守り、女性は擦り傷を負ったものの、
    母子ともに命に別条はなかった――。

    これを皮切りに、東京都内で複数人の女性が立て続けに吸血鬼に襲われている。
    中には治療に数カ月を要する怪我を負わされた者もおり、
    警視庁は犯人の吸血鬼を危険度Bに指定し捜査と警戒を続けているが――未だ、捕獲・退治には至っていない。



    「襲われたのはいずれも妊婦ばかりじゃ。お腹が大きくなった一目でそうと分かる人から、
    まだ妊娠初期で見た目ではそうと分からん人まで……」
    「ちなみに、被害者の中には誰かと一緒の時に襲われた人も何人かいましてね。
    ところが――どういう訳か、その居合わせた人というのには見向きもしないのです」
    「え? それって……」
    「居合わせた人、というのは老若男女で属性がバラバラなのですが――共通しているのは、
    敷いていうなら『妊娠していない』こと。それだけですね」



    つまり、犯人の吸血鬼は何らかの方法で被害者――ターゲットが妊娠しているかどうかを嗅ぎ分け、
    その上で妊婦だけを襲っている事になる。
    その異様な執念――執着に、ロナルドはぞっと背筋が凍る思いがした。

    次いで、生理的な嫌悪感が込み上げてくる。
    だってつい先日、同級生に子どもが出来る、なんて話を聞いたばかりだ。
    身近なものへ危害が加えられる、その可能性が――随分とクリアに感じられて、ロナルドは顔を顰めた。




    「胸糞悪いな。酷い事しやがる」
    「全くです。それで、警視庁と東京のギルドも頑張ってはいるようですが、未だ事件解決には至らず。
    そこで我々に応援要請が来た、という訳です」
    「奴さん方が俺らに応援を求めるなんて、相当切羽詰まってると見た。
    俺らだけじゃにゃあて、千葉県警とか、あっちこっちに頭下げとるみたいじゃな」



    吸血鬼のホットスポットと名高い新横浜だが、国内にそう呼ばれる街は他に幾つかある。

    過去にロナルド達が共同戦線を張った退治人嵐斬キズが拠点とする木更津も、その一つだ。

    当然ながらその地域の警察や退治人組合には、いわゆる『凄腕』と呼ばれる経験豊富な人材も多い。

    とはいえ、本来地域ごとにそれぞれの組織は独立しており、
    ロナルドからしてみれば、いわゆる横の繋がりというのは乏しい印象がある。
    にも関わらず、今回東京の警察と組合が方々に頭を下げているという事は、
    それだけ事態がひっ迫しているという事だろう。



    「まあ、そんな訳で――、うちの方からは是非ロナルドさんに救援に行って頂きたいと思いまして」
    「ああ、任せてくれ。俺なんかで良けりゃ、すぐにでも行くぜ!」




    ゴウセツの言葉に、ロナルドは間髪を入れずに頷いた。

    と、その時だ。


    「おやまあ。これはまた、珍しくシリアスな事件の臭いですなあ」



    それまで沈黙していた、ロナルドの隣に腰かけた痩身の吸血鬼――ドラルクが、
    「ふむ」と顎を摩り、言った。
    普段と何も変わらない、面白がる様な顔つきをしたドラルクを睨んで、
    ロナルドは敢えて厳しい声で言った。



    「……つー訳だから、テメーは留守番だぞ。今回は面白可笑しいポンチ事件じゃねえんだからな」
    「いやいや。だからこそ私とジョンが共に行こうじゃないか。シリアスで真剣な事件だからこそ、
    このIQ1億超えの聡明な頭脳を持つ私が必要だろう」
    「殺した」
    「ブェー!何をする!!」


    薄っぺらな胸を張って声高にそう宣言するドラルクを、裏拳ひとつでソファに沈める。

    ざらざらとした灰に変じたドラルクが蠢き、再生しながら抗議の声を上げるのを、
    冷ややかな目で見下ろして――ロナルドはいつになく真剣な口調で言った。




    「今回は俺が一人で行く。お前は留守番だ!」




    ロナルドはそう言い放ち、そうして、ゴウセツとヒヨシに向き直り――「その依頼、受けましょう」とはっきりと答えた。

    不服そうにソファの上でざらざらと灰が蠢いていたが――ロナルドはそれを黙殺した。







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