Passenger 電車が減速するひとときが、何とも言えず好きだ。
と、ラーハルトは思う。
どうせ大した事故じゃない。
線路わきで未知の救難信号を傍受したとか、つむじ風に煽られた世界樹がごっそり毒の花粉を飛ばしたとか。
『永遠の若さを手に ○○化粧品』
『欠陥品アウトレット 全品半額』
『洗濯革命 ナノ分子の強力浄化』
『歴史ある舞台○○ ついに終演』
賑やかな看板が、緩慢に通り過ぎていく。
線の塊だった高速の車窓が、徐々に収束し、像を結ぶ。
踏切のむこうで俯く会社員。薄汚れたベランダにはためくシーツ。
売春宿のネオンと、歯医者の自撮りポスター。
どこまでも続く四角張った世界と、その奥にあるくたびれた営み。
ささいな日常が、不意打ちのように視界に飛び込んでくる。
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