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    Satsuki

    短い話を書きます。
    @Satsuki_MDG

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    Satsuki

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    〇レトユリ。どこかの世界線で賭けポーカーをする二人。賭博をするユーリスの夢を見たから書きました。

    カードゲーム「レイズだ」
     ベレトが完全なる『ポーカーフェイス』でそう宣言したので、ユーリスは信じられないといった面持ちになる。
     路銀が必要だった。前金が出そうな傭兵の仕事も、雑用めいた手伝いもない場末の酒場。ユーリスの提案で、二人はあまり素行の良くはなさそうな連中に混じってカードゲームに参加した。勝てる賭けしかしない、と言って憚らないユーリスらしからぬことに、負けが続いた。何のことは無い。イカサマだ。相手は二人組で、何かカードに仕掛けをしてあるらしい。ユーリスが「これで仕舞いだ」と言ったにも関わらず、相手は大勝負を持ち掛けてきた。テーブルの上の金を全部賭けようというのだ。
    「俺がやろう」
     一瞬しり込みしたユーリスの代わりに、ベレトが勝負を受けた。止める間もなく、相手はさっさとカードを配ってしまう。ああ、とユーリスは頭を抱えた。「あんた、カードなんてやったことないだろ!」と囁くと、ベレトは「きみのを見て、今覚えた」なんてさらりと言う。ああ畜生、これで素寒貧だ。ユーリスはもうどうにでもなれという気持ちでベレトの手元を見守った。あーあ、この短剣でも売り払えばちょっとは金になるだろうか。そう考え始めた時、ベレトは配られた手札を一枚も交換することなく、重ねて手の下に隠してしまった。
    「いいのか? 兄ちゃん」
    「ああ。これでいい」
     マジかよ。ユーリスは固唾を飲んで相手の手札を見た。
    「フォーカードだ」
    「くっ……!」
    このイカサマ野郎……! そう叫んで首を絞めてやりたかった。ユーリスは全ての柄のエースが揃った役を見てギリッと唇を噛み締める。ベレトの方を見ても、表情は変わらない。
    「そっちの番だぜ」
    「これで一文無しか? かわいそうに」
     その言葉に、ベレトは初めてフッと唇を笑みの形に曲げて見せた。ユーリスは一瞬その顔に見惚れてぽかんとする。ベレトはおかしそうにその顔をまじまじと見てから、ぱらりと札を返して見せた。
    「言っただろ、さっききみのを見て覚えた、って」
     全て同じ柄。そして、十の札からエースまでが揃った役。
    「ろ、ロイヤルストレートフラッシュだって……!?」
    「う、おっ……!」
     ユーリスは拳を天井に向かって突き上げてから、ガタンと椅子をひっくり返して立ち上がった。横からベレトに抱き着いて、その頬に熱烈な口付けを落とす。
    「やりやがったな!! ベレト!!」
    「ああ」
     人前で口づけられたのは初めてだった。ベレトはちょっとばかり驚いたように目を瞬かせると、すぐにテーブルの上の金を革袋の中にザッと集めて立ち上がる。ユーリスはその隣にくっついたまま、相手を勝ち誇った目で見下してやった。
    「悪いな、賭けは賭けだ。こちとら女神様に愛されてるもんでね」
    「て、てめえら待ちやがれ!」
    「こんな手、イカサマだ!」
     どっちが。ユーリスは白けたように目を細めると、ちゃちなナイフを取り出した相手に向かってスッと片手を突き出した。こら、とベレトが止める前に、「ばんっ」と、人差し指と中指を合わせた先から弱い風の魔法が飛んだ。ざわめき、ナイフが床に落ちる音を背中に聞きながら二人は酒場を逃げ出した。
    「あんた最高だぜ!」
    「ああ、うまくいったな」
    「今夜は期待しとけよ!」
     そう言って上機嫌に隣を走るユーリスに、ベレトは少し目を丸くしたあと、にこりと笑って頷いた。
    「期待している」
    「ははっ、よし!」
     預けていた馬に飛び乗って、二人は暮れかけの空の下を駆けてゆく。旅路はまだ、先が長い。
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    FP2ndhayusyo

    MOURNING今朝、卵を落として割ってしまった時に頭に流れた妄想。
    クローン研究員モブが実験中の胚を落としてしまう。
    ※捏造
    ※クローンの作り方も捏造
    ※生命倫理がない
    ※細胞がぐちゃっとなってる微グロ?
    「あ」
    手から滑り落ちたそれは、床にぶつかって、あっけなく崩れてしまった。
     私の手には、一瞬前までシャーレが乗っていた。その中には、体細胞核を移植した卵子から発生した小さな小さな胚。ある程度育ったそれを、培養液に移すところだった。足を滑らせた訳でも、何かに驚いた訳でもない。するり、と手からいなくなっていたそれは、床で悲惨にも飛び散っていた。
    「あーあ、命、一個壊しちゃった…」
    「早く拭きなよ。その汚れ、乾くと落とすの大変だからさ」
    「分かってるよぉ」
    私はkimタオルを何枚か取って、飛び散った細胞を搔き集める。胚を浸していた羊水か、細胞から出た液か、どちらか分からない液体が白い生地に染みる。ペーパータオル越しに触れる細胞は柔らかく、粘液が伸びてベトベトしている。私が不注意で落とさなければ、こんな姿にならずに、立派な生命でいられたのに。せっかく形になっていたそれは、半分つぶれて、べたついた塊になってしまった。細かく飛び散ってしまった細胞を、一つも漏らさないように、丁寧に丁寧に床から救い出す。
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