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    Satsuki

    短い話を書きます。
    @Satsuki_MDG

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    Satsuki

    DOODLEいつかのどこかのレトユリ。無双のユーリスの支援を噛み締めた。前にもこういう文章書いた気がする。230728
    罵声が飛び、側頭部に衝撃が走った。奥歯を食いしばり、ユーリスは石の飛んできた方を睨みつける。言ってやりたいことが山ほどあった。善人面したクズ共が、一体どんな顔で自分に石を投げているのかと。
    その口で、屋根もない場所に蹲る子どもに、優しい言葉の一つでもかけてやったことがあるか。その手を差し伸べて、パンのひとつでも恵んでやったことがあるのか。
    拘束された両手にかけられた縄を引かれ、ユーリスはよろめくように前に進む。美しい顔に鮮血が伝い、唇を紅く彩っている。眼の前の兵士の無機質な鎧。その背中に、どんなうまい話を持ち掛けてやれば、この場を逃れることができるだろう。なんて、馬鹿げた考えだ。全ては遅すぎる。いや、こうなるのがそもそも遅かったのかもしれない。あの時、教団の司祭を斬り捨てた時。流行病で高熱を出した時。何度も、この命が尽きたと思った。けれど生き延びた。だから少し、思い上がってしまっていたのだろう。そう簡単には、自分は窮地に立たされまいと。そうして辿ってきた道の先で、今は地面を踏みしめて歩く。一歩、一歩、と、死に近付いていく。
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    Satsuki

    DONEエアスケブいただいていた「お茶会でユーリスに初恋の話を振って失敗するレト先生のレトユリ」です。いつも青√にしてしまう。エアスケブリクエストありがとうございました!大変お待たせしてすみません!!230715
    淹れたての紅茶の、甘いベリーの香り。カチリと、目の前に置かれたティーカップが立てる、微かな音さえ好ましかった。太陽の光は少しばかり眩しい。木陰に置かれたティーテーブルに向かい、ユーリスは正面に腰かけている、無表情な教師を見つめた。出がけに、自室の鏡で整えた化粧は今日も完璧だ。襟元も、級長の証である白いマントも、靴の先まで磨いて綺麗にしておいた。この人に一切の隙を見せたくなかったからだ。最初は、自分を地上の学級にスカウトするなんて、酔狂な男だと思っていた。元傭兵の士官学校教師ともなれば、考えることも普通ではないということか。泣く子も黙る灰色の悪魔と呼ばれた青年、それが目の前にいるベレトだった。学級の課題として出撃した時は、見事な指揮と圧倒的な剣術を見せ、その経験を周囲に知らしめていた。どうやら紋章を持っているらしいが、本人はそのことを一切知らずに育っていたようだ。セイロス教のことも、レア様のことも、ガルグ=マク大修道院に来てからその知識を得たという。
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    Satsuki

    DONEエアスケブいただいていた「レトユリの結婚前夜」です。青√後の二人が結婚前夜というか直前に色々考えている話。友情出演のシルヴァン。エアスケブリクエストありがとうございました!お待たせしてすみません!!230620
    大聖堂内の瓦礫が撤去され、人々はまたそこに集い、敬虔に祈りを捧げるようになった。まだ壊れたままの屋根からは優しい陽の光が差し込み、職人たちは汗を拭って修復作業を急いでいる。新しい大司教猊下が伴侶を迎えるという報は、瞬く間にフォドラを駆けた。戦争の英雄であり、元士官学校教師にして、傭兵産まれ。そんな型破りな彼が娶る花嫁は、共に戦い抜いた将兵の一人。誰よりも義侠心に厚く、美しくて、聡明な男性。その名も、ユーリス=ルクレール。民衆は喜び、一部の貴族は眼を剥いた。だが、誰も彼も口を開けば祝福の詞だけが躍り出る。それでよかった。
    「俺の過去の知り合いについては、一応手を打ってある」
     ユーリスはそう言って唇の端をクッと上げて見せたし、ベレトもそれで納得した。尤も、ユーリスの生まれや裏稼業のことをベレトに吹き込み、彼を貶めようとする者がいたとしたら、大司教として丁重に裁きを下すつもりだったのだが。
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    Satsuki

    PASTオメガバースパロのレトユリ。ここには投下してなかったっぽいので再放送&書きたいところまで加筆してあります。そのうちまた加筆するかもしれない。多分。230131
    ユーリス・ルクレールはβ性である。
    この世界には、男女のほかに三つの性がある。貴族階級の家に紋章と共に発現しやすい「アルファ」、平民をはじめとして多くの者がもつ「ベータ」、そして極一部の「オメガ」と呼ばれる性別だ。才能やカリスマ性に溢れるアルファは紋章がなくとも持て囃され、ヒートと呼ばれる発情期によって周囲をかき乱すオメガは疎まれている。ただし、オメガの容姿端麗さは目を引くものがあるし、アルファとの相性から、由緒ある家の当主がオメガを妾や養子にとることも珍しくなかった。過去、紋章同士を掛け合わせるためにアルファ同士の婚姻が盛んに行われた歴史もあったようだが、上手くいった例は少ないようである。ユーリスはその秀麗さからオメガではないかと囁かれることもあったが、ヒートなんぞという面倒くさいものが起きたこともないし、ローベ伯爵やその他の貴族共のアルファフェロモンだかなんだかにクラクラしたこともない。貧民街にはオメガの娼婦もいたが、そのヒートにあてられたこともなかった。自身の紋章や出生についてコッソリ調べた時についでで確認した際も、ベータであろうという結果だった。だから、第二の性については、オメガ性をもつ仲間が苦しんでいるときに薬を差し入れしたり、アルファに見つからないよう匿ってやったりする時くらいにしか意識したことがない。
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    Satsuki

    DONEハロウィンぽいレトユリっぽなにか2022。「三年目の同窓会」で展示していました。221031
    「あの家はヤダ! 行きたくない!」
    「じゃあ、一人でそこで待ってれば?」
     僕がいくら止めても、友達はあきれ顔で村はずれの小さな家へと歩いて行ってしまう。シーツを頭からかぶり直し、カボチャ型の小さなバケツを持って。
    「ま、待てよ! 一人にするなよ……! 僕も、行くから……」
     慌てて追いかけた。今日は、死者が蘇るといわれている祭りの夜。昔からファーガスには、戦争で亡くなった人たちの霊を慰めるお祭りがあった。戦争があったのなんて、うんと昔の話だけど、当時の王様と大司教様が、戦争で活躍した人たちにイケーの念というものを示して? それで取り決めた祭りらしい。それに、ここファーガス西部を治めていた領主さまが子供好きで、おまけに甘いものにも目がなかったとかで、このお祭りでは子どもたちがお菓子を貰える日になっているんだ。家々を回って、お決まりの台詞を言う。そうすると、このバケツにお菓子を入れて貰える。今日だけはどの家もお菓子を準備して子供を待っているものだ。でも、僕はあの家にだけは近づきたくなかった。町はずれにぽつんと立っている、どこか異国風の家。木々に囲まれて、ひっそりとしているあの家には、男の人が二人で住んでいるけれど、あまり姿を見かけたことはない。僕たちが学校へ行っている間に、お母さんたちは挨拶をしたり、野菜を交換し合ったりしてるみたいだ。
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