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    Satsuki

    短い話を書きます。
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    Satsuki

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    書けば出る!!の気持ちでユーリスFEH実装直前に書いたFEH軸の妄想レトユリレト。ユーリスを第一部でロストしている先生とユーリス。

    第一部でロストしていると、5年間の間にユーリスは……しているようなので、士官学校時代に足に大怪我でもして素早い身のこなしができなくなってしまいそれが原因で……みたいな妄想をしつつ書きました。明るくないです。

    「よお、先生」
    「……! ユーリスか」
     ぐい、と額の汗を拭ったベレトは、どこかぎこちない笑みを浮かべて振り返ると、すぐにまた作物の方を向いてしまった。ニルヴァーナとかいう大仰な職の服を着崩して、畑仕事に勤しんでいるこのベレトは、なんとなくユーリスに対してそっけない。
     アスクとかいう得体の知れない場所に“召喚”されたユーリスを、士官学校の生徒たちが出迎えてくれたときは驚いた。年齢もさまざまな仲間、別の時空とやらから召喚されたという英雄たち。説明をされてもよく分からなかったが、とにかく呼ばれた目的は理解した。
     この戦いが、勝てる賭けなのかどうかは、ひとまず先客の中に『先生』がいたことで判断するしかなかった。この人がいてくれるなら、きっと大丈夫。そう思える程度には、元の世界でユーリスはベレトを信頼していた。同じようにアスクに召喚されていた、青みがかった黒髪の彼は、もちろんユーリスを歓迎してくれた。驚いたことに、髪の色が変わった後の彼もこの城に存在し、しかも複数人がいると知ったことはさすがにめまいがしそうになったが、そういう場所なのだと納得するしかない。扮装が普段と違っている人物がいることもそうだ。
    話を戻そう。果たしてアスクでの生活が始まった中で、このベレトだけは、ユーリスにあまり声をかけてこなかった。五年もの月日を重ねた後の人物だと言う事は知っている。その五年で、フォドラがどのように変化したのか。王国と帝国、そして同盟諸国の関係はどうなっているのか。召喚されている仲間たちは、示し合わせたように口を噤んで語ろうとしない。だが、その中でもこのベレトは特別ユーリスに対して隠し事をしているようだ……
    他の仲間たちも元居た世界での話はあまりしないようにしていることだし、無理に暴こうという気はない。しかしこうあからさまに避けられていると、どうにもユーリスの中にある好奇心がムズムズと頭をもたげてしまい、ついに自分から近づいて来てしまった、というわけだ。
    ユーリスは近くに置かれていた鍬を手に取ると、制服の上着を、ベレトの上着が脱ぎ捨てられている辺りに同じように放った。そして、何食わぬ顔でベレトの隣の土を耕し始めた。ベルトは少しばかり目を丸くしてその様子を見る。表情があまり変わらないところは、元の世界にいた『先生』と同じだ。
    「あんたが一人で仕事してるって、召喚士に聞いて手伝いに来たんだよ。ここの土を柔らかくすりゃいいんだろ?」
    あんた、士官学校でも、よく温室で土いじりしてたよな。とユーリスが口の端を持ち上げて笑ってみせると、ベレトは黙って頷いた。こんなに無口だっただろうか。いや、ユーリスの知っている通りの姿のベレトは、実に教師らしくここでの生活について甲斐甲斐しく説明をしてくれた。ニルバーナの扮装をした、別のベレトだって、眠るベッドが隣になれば『おやすみ』と笑いかけてくれた。彼だけだ。やはり、彼は元いた世界で、自分と何かあったのだろう。そして、それを悟られたくないからこうしてユーリスを無視しているのだ。
    「……あのさ先生、はっきり答えてくれなくてもいいんだけど、俺ってもしかしてあんたに迷惑でもかけたか?」
    ユーリスは何気ないような口調でベレトに語りかけた。
    「……そんな事は無い」
    ベレトは少し迷ったようだったが、言葉を続けてくれた。
    「すまない。自分は、きみに対して失礼な振る舞いをしている」
    それを聞いて、ハハッ、と軽く笑ってみせると、ユーリスは猫のような眼をキラリと光らせて、鍬を地面に立て、柄の上に両手を重ねた。
    「確かにあんた、俺様に冷たいよなあ。ま、温泉じゃ随分と熱烈な視線をくれてたようだが?」
    「あれは、違う」
     焦ったように手を止めたベレトが自分の方を真っ直ぐに見たので、ユーリスは嬉しくなる。ようやくきちんと目が合った。
    「見てたのは否定しねえんだな……ま、見たくなる気持ちは分かるけど?」
    「ちがう、……きみが、……きみが怪我でもしていないかと」
    「怪我だあ?」
     しどろもどろに言うベレトは、ユーリスの足の辺りに視線を落とす。ピンときた。この世界で負った傷のことを話しているのではない、と。
    「なるほど? お優しい先生は生徒が傷つくのが心配だって?」
     ユーリスは、所在なさげに鍬を握り直しているベレトの手元を見た。普段は剣を握り、容赦なく敵を屠っている手だ。その大きな手が、強くて、優しいことを知っている。
    「安心しろよ。俺は怪我ひとつしてねえ。元の世界でも、な。あんたの采配通りに戦えば間違いなんて有り得ねえ。だろ?」
     胸の辺りを右手で示して、ぴんぴんしている姿を見せてやる。元いた世界で、自分がどんな怪我をしたことがあるのか興味がわいたが、ベレトを追い詰めるつもりはなかった。
    「だから、せめて無視すんのはやめてくれよな。妙な話、この俺はあんたのいた世界の俺とは別人なんだ」
    「そうか……そう、だな」
     本当に、すまなかった。ベレトはそう言うと、黙々と手を動かし、畑作業に戻ってしまう。ユーリスは、ちょっとばかり消化不良のままその隣へと戻った。耕して、種を植え、なんだかよく分からない力を注ぐらしい。ふともう一度ベレトの顔を窺って、……ユーリスはぎょっとした。
    「せ、先生……?」
    「えっ……?」
     ベレトは驚いた顔をしているユーリスに、微かに笑みを返そうとした。唇が震えて、うまく弧を描けていない。瞬きをすると、新しい涙が頬へと伝って落ちた。その感触に自分で戸惑い、眼に触れる。だらだらと、いつの間にか溢れていた涙で指先が濡れた。
    「あ……すまない、こんなつもりでは……すまない……」
    「いいって、おい……平気か?」
    「すまない……本当に、……ッ……」
     手で拭っても、涙は後から後から溢れ出て止まらない。唇を引き結び、暫くの間、ベレトは声もなく泣き続けていた。どうしてやることもできず、ユーリスは黙ってその肩に触れてやる。何か、ユーリスには決して教えられないつらいことがあって、悲しいに違いない。その何かを知ることができない自分と、原因になっている自分に、一体どんな違いがあるというのだろう。歯がゆさに唇を噛んだ。耕したての土は踏みしめた分だけ沈み、ユーリスの白いブーツを汚している。
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    Satsuki

    DOODLE猫フェリクスは可愛いというだけの話。捕虜設定はざじさん(@zazi_333)の素敵な捕虜フェリ創作からお借りしております。そろそろお借りしすぎなので自重します。
    フェリクスは猫だった。耳から尻尾にかけては月夜の森の中のような柔らかい黒色で、喉やふわふわの腹側は雪のように真っ白い猫だった。いつだっていかにも猫らしくぴんと尻尾を立てて、キッと周りを睨みつけて歩いた。天気の良い日は池のほとりで魚を眺めたり、木箱の上で日に当たったりして過ごす。気が向くと青獅子の学級でディミトリと授業を聞き、訓練場で生徒たちが剣や槍を振るったり、弓を引いたりする様を眺めていた。
     孤高で、気難しい猫なのに、生徒たちはフェリクスのことを可愛がる。アッシュはフェリクスのために魚の骨と肉とを分けてやり、メルセデスは柔らかな膝をフェリクスに貸したがった。アネットは温室でこっそり歌を聞かせてやり、ドゥドゥーはフェリクスが歌を聞いたまま、柔らかく盛った土の上で眠っているのをそっとしておいてやる。イングリットは食堂の机の下で、そっと自分の肉をフェリクスに分けてやった。ディミトリが真似をして肉を分けてやろうとすると、フェリクスはつんとして絶対に手を付けない。彼はディミトリが自分の食事を無感情に飲み下すのを、いつも気に入らな気に見つめていた。
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