フィガロがファウストの脚に触れる話 どうしてこんな事になったのか――。若干だが酔いが醒めて来た頭で考えるがまるで答えは出ない。
ただ事実を述べるとすれば、ファウストは自室のベッドの上に座らされていて、目の前には床に膝をついて傅くフィガロがいる。そして恭しくも強引にファウストの裸の足を掴んで離してくれない。
普段なら決して素足に触れさせる事も、床に膝をつく事もさせはしないのに、今この状況の主導権はファウストには無いに等しかった。
優れた陶器を撫でるような手つきで膝から下を撫で下ろしたフィガロの顔を信じられない目で凝視していると、それに気が付いたフィガロは挑発的な上目遣いで見せつけてくる。そして少しだけ普段よりも熱を持った頬を臑に頬ずりをしてから肉厚の舌で自身の唇を舐めた。緊張で乾いてしまった唇を潤す仕草にも見えるが、捕食者の顔で獲物を前に舌舐めずりしているようにも映った。どちらが本当かなんてファウストに分かる筈も無く、ただ少しでもこの男から離れようと後ずさるが、実際どれくらい距離が取れたかなんてたった数センチくらいに違い無い。いや寧ろ……離れた数センチを咎めるようにその数倍は引き戻される。
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