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    moka_trvg

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    たいみつホリデー展示終了したので公開します。
    水族館デートショートストーリーです。
    とある水族館がモデルです。

    神無月の まるで美術館のようだ。
     三ツ谷は館内に足を踏み入れた瞬間、そう感じた。彼もきっと同じではないかと、隣に立っている大寿を少し見上げた。
    「動く絵画みたいだね」
     額縁装飾が施されており、それぞれに『〇〇の景』と名が付けられている展示方法がそう思わせるのだろうか。他の水族館のように、全ての水槽に解説がついているのではなく、所々にメニューボードが置いてあり、チョークを使ってイラストが描かれていた。水槽と目の前に置かれているボードを交互に観ながら、三ツ谷は「この水槽、何でこの名前なんだろ」と、特に答えを求めている訳でもなく呟きながら歩を進めていく。
    「あっ、見て大寿くん!鮫!!カニに踏まれてる!!」
     深海ゾーンと名付けられているコーナーでは他より少し大きめの水槽の中に、タカアシガニとトラザメが数匹棲んでいるようだった。
    「怒らないのかな?」
    「基本的におとなしい性格だからな」
     ほら、次行くぞ、と大寿は三ツ谷の背を押し、先に進んで見えてきたのは海月のゾーンだった。ミズクラゲやチョウクラゲ、虹色に発光しているカブトクラゲがそれぞれの水槽で泳いでいる。
    「これってクラゲが光ってんのかな?」
    「簡単に言やあ、自分で発光してんじゃなくて、櫛板ってところに光が反射して光ってんだよ」
    「へー、鮫の事以外も詳しいんだね」
     今まで一緒に訪れた場所で得た知識だが、と言いかけて大寿は口を閉じる。三ツ谷は解説などを読むより、水槽を眺めている時間の方が長かった、ということを思い出したのだ。そう思えば、この水族館は三ツ谷にぴったりな場所かもしれないな。大寿は楽しそうに水槽を眺める彼を見て、ほんの少し口角を上げた。

    「大寿くーん、どこー?」
     大きな声は出さないものの、きょろきょろと周りを見ながら人を探している姿は自分の方が迷子のようだ、と三ツ谷はため息をつく。流石に二階にはまだ行ってないだろうと、もう一度探してみようと顔を上げた時、異様な光景が目に付いた。館内の中央部分、暗い壁に生き物のイラストが映し出されているところは何もないと思い、三ツ谷はそれを大寿を見つけてからにゆっくり観ようと思っていたのだが、その壁の一部から何やら慌てた様子の人たちが出て来ている。
    「もしかして・・・・・・」
     近づいてみると巨大な柱のように存在していた壁は、その中にも入れるように出入り口が存在していた。メニューボードに『アカシュモクザメ』のイラストが描かれている。
    「大寿くん」
     円形のホールになっているその場所は、ぐるりと壁に沿うように椅子が設置されており、その奥の方に大寿は腰かけていた。顔を上にあげて、祈るように組まれた手は足の間に置かれている。三ツ谷の声がホールに響き、ちらりとそちらを見た後、隣に座るように促し、また大寿は天井を見上げた。
    「凄いね、ここ。海底から、鮫を観てるみたい」
     寄り添うように椅子に座った三ツ谷は、同じようにアカシュモクザメの水槽を見上げる。頭部がハンマー型になっている彼らの群れを、大寿はただ静かに、優しく見つめていた。光の演出で、太陽光の差し込んだ海底にいるように思えるこの場所は、すごく居心地が良かった。
     時折、出入り口を発見した人が中に入ってきたが、二人に気付いて、すぐさま出て行くのを三ツ谷は止めなかった。少しだけ、二人きりにしてほしいと、思ったからだ。
    「三ツ谷、見てみろ」
     首が痛くなって少しだけ下を向いていた時に、大寿は水槽を見上げたまま、再び水槽を見るように声を掛けられたので、何だろう、と首に手を当てたまま軽く上を向く。
    「夜の海だ」
     白っぽい色から濃い青色に照明の色が変化し、昼から月夜へ。幻想的な世界がずっと続ている。
    「三ツ谷」
     大寿の低い声が、三ツ谷の鼓膜を震わせた。
     他の水槽に比べれば大きくもない水槽を泳ぐ鮫たちからやっと目を離し、真剣な眼差しを向けられた彼は、何を言われるのだろうかと胸を押さえ、大寿のライオンのような瞳を見つめ返す。
    「お前にスーツのデザインを頼みたい」
     プロポーズでもされるのかと思っていた三ツ谷は、何度か聞いたことのある言葉に、へっ、と間抜けな声を発した。
    「そりゃ、良いけど。え、今、そんな雰囲気だった???」
     ドキドキして損した!
     はーーーー、と止めてしまっていた分の長い息を吐き、もう無駄に緊張させないでよ、とバシバシと大寿の足を叩く。
    「続きがある。最後まで聞け」
     照れ隠しなのか割と強い力で振り下ろされている腕を掴み、三ツ谷の動きを止める。
    再び、へっ、と声が出た後、左手を掴まれ、ぼんやりと大寿が何をするのかを見ている間に、彼の薬指にシンプルな指輪が嵌められた。
    「スーツは二着。サイズは俺とお前と一緒だ。ここの、『綿津見の景』に似合うものを頼む」
    「それって・・・・・・、というか指輪っ!これっ、エンゲージリングってやつ・・・・・・?」
     いつの間に買ったのだとか、『綿津見の景』って水族館ウエディングで使ってたところじゃねーのだとか、慌てながらも指輪を嬉しそうに撫でる三ツ谷が愛しくなり、大寿はそんな彼を力強く抱きしめ、唇を重ね合わせた。
    「んっ!!!ンンーーーーーー!!」
     こんなところで、と三ツ谷は彼の背を叩き、それでも離すどころか舌を差し込もうとしているのを感じたので、固く拳を握り、ドンっ、と思い切りそれを振り下ろせば、流石にそこまでされると思っていなかったのか、大寿は三ツ谷を解放した。
    「はーーー、吃驚した。というか、今日は俺がプレゼントする日なんだから、先にそんな男前なことしないでくれる!?」
     怒りながらも、声が響くのを気にしてか、小さな声で三ツ谷は文句を言いながらも、ごそごそと鞄から何かを取り出した。その様子を苦笑しながら見ていた大寿は、そこから現れた物に少しだけ驚き、それからにやりと顔を歪ませ、左手を差し出した。
    動揺してしまった自分と違い、余裕な態度の彼の姿に「悔しい」やら「恰好良い」やらとブツブツ溢した後、す、っと息を整え、何度も触れ合った左手の薬指に指輪を嵌める。サイズもデザインも想像した通りだ。お互い婚約指輪を用意していたことが何だかおかしくて、三ツ谷は左手と大寿の左手を重ねて、幸せそうに笑う。
    「ハッピーバースデー、大寿。これからも、一緒に居てくれる?」
    「お前が別れたいって言っても離れねえよ」
     それはお互い様だ、と思った。
     そろそろここから出ようか、と先に立ち上がった三ツ谷は、それに続こうとした大寿の前に立ちはだかり、両手を握りしめた。目と目を合わせるように近付き、何度目かわからない笑みを浮かべる。
    「大寿くん、・・・・・・大寿。生まれてきてくれて、生きててくれて、ありがとう。愛してる。これからも、よろしくね」
     言い終わると同時に、触れるかどうかのキスをした。
    「行こっか!」
     ぱっ、と手を放し、慌てて出て行く三ツ谷の真っ赤な顔を、これからも忘れることはない。立ち上がり、最後にもう一度だけ水槽を見上げた金色の瞳は、少しだけ揺らいでいた。
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