Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ///

    🔞

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💜 💚 👓 🍌
    POIPOI 19

    ///

    ☆quiet follow

    リヴァハン

    全年齢本の中の一つ

    ワンライお題『幸福な朝』より
    転生現パロ。ベッドの上で二人が会話しているだけのお話。

    とても拙いです。

    幸福な朝 雨。

    「…………」

     徐に瞼を持ち上げる。
     不明瞭な視界に、飛び込む漆黒。

     後ろを振り返る。
     窓硝子には、幾筋もの水の跡。

    「…………あめ」

     絶えず屋根を叩く水音が、聴こえる。
     窓を微かに揺らす風、と、

    「……雷」

     思わず目を細める。

     否が応にも、呼び起こされる記憶。
     無意識に、ハンジが若干顔を顰めた。
     鳶色の双眸に、現在の曇天と同じ鈍色が滲んでいく。

     雨と、雷。


    ――…あぁ、どうしようもなく、あの日を、思い出す。














    『…!?』

     轟音。
     突如遠くで響いた爆発音に、その場に居た全員が動きを止めた。

    『何だ!?』
    『落雷では?』

     誰かが言った。
     違う。ハンジは心中で首を振った。
     雷槍の、音だ。

     一体、何が…?

     状況が、全くもってわからない。
     しかし、何か、良くない事が起きている。
     その確信だけはあった。

    『…荷馬車が吹き飛ばされたのか…?』

     音の方向へと向かった結果発見した、何かの残骸。
     謎の巨人に、事切れた馬達と、バラバラの木片。
     途端、言い知れぬ嫌な予感が、ハンジの背筋を伝う。
     雨音以上に、自身の鼓動が煩く感じた。

     動揺に汗を垂らしながら、辺りを見回す。
     そして、川の傍らに見えた、自由の翼。視界の端にそれを捉えた途端、心臓が、再びドクリと跳ねた。ハンジは思わず息を呑む。
     誰かが―― 恐らく仲間が、倒れている。
     背後の者達にも構わず、ハンジはその誰かの元へと駆け出した。
     声を掛けつつ、急いで身体を抱き起こして――


    ―――瞬間、世界から、音が、遠のいた。


     顔に走る深い裂傷。
     言わずもがな血塗れの顔面に、力なく半開きの口。
     薄く開いたままの瞼から覗くのは、生気のない瞳。
     そして、首元には、お馴染みの白いスカーフ。

     紛うことなく、その人物は―――

    『……リヴァイ?』

     ただでさえ雨に降られて冷えた身体が、更に急速に温度を失っていく。
     嘘、だろう。見間違い、では。
     視界が一瞬、ぐらりと傾ぐ感覚がした。
     自身の中で、何かが静かに崩れ落ちる。

     あぁ、わたし、は――――


    「――…ハンジ」

     頬に、熱が触れた。

    「………あ……」

     青褪めた顔を、暖かい手が、優しく包み込んだ。

    「……リヴァイ…」

     震える唇で、名を紡ぐ。

    「…なんだ」

     難なく耳元に届く返事。
     光を失わない濃藍が、ハンジを穏やかに見つめ返す。

    「……あ…」

     意味をなさない音が漏れ出た。
     言葉に表せない、様々な感情が綯交ぜになってハンジを襲う。

    「…泣くな」
    「…え、あれ…」

     いつに間にか頬に伝う涙を、リヴァイの指が拭う。

     都合の良い、夢ではないか。

     まぼろしでは、ないんだろうか。

    「リヴァイ……リヴァイ…」

     凍ったかのように張り付いた喉で、何度も彼の名前を呼ぶ。
     生の証を手繰り寄せようと、胸に顔を埋めた。
     とく、とくと規則的な音が聴こえる。

    「……生きてる」

     ぎゅうと強く強く抱き締める。

    「生きてるね…………」

     確かに感じる温度と、鼓動。
     大丈夫だ。彼は此処に居る。私は、一人じゃない。
     途端に広がる安堵が、傷付いた心を癒していく。

    「……なんだ、苦しい」

     言いながらも、リヴァイもハンジを強く抱き返した。

    「……ふふ、ちょっと、苦しいんだけど」

     苦しい。苦しい。

    「……苦しいね、リヴァイ……」
    「……あぁ」

     苦しくて、でも。

    「幸せだ……」

    ―――時折、幸せすぎて、息ができなくなる。

     甘やかな苦しさがぐっと喉奥に込み上げて、自分はこのまま窒息してしまうのではないかと、思う事がある。

     幸福で、苦しすぎて、なんだかとても怖くて。

    「幸せに殺されてしまいそうだ…」
    「馬鹿か、クソメガネ」

     指で額を弾かれる。
     なかなかに痛くて、ハンジは弾かれた箇所を抑えた。

    「痛いよ、リヴァイ」
    「良い存在証明じゃねぇか」

     リヴァイが緩く口端を持ち上げる。
     「んふふ、お見通しか」ハンジがくすくすと笑った。
     こうした何でもない穏やかな二人の時間が、自身を甘く締め付ける。ひどく苦しくて、でも、悪くないと、そう思う。
     ハンジがリヴァイの黒髪を除けて、頬に口付けた。
     緩く微笑んで、いつもの言葉をあなたに。

    「…ふふ、おはよう、リヴァイ」
    「あぁ、おはよう、ハンジ」

     額に一つ唇を落とし、リヴァイはハンジの寝衣の裾から手を滑り込ませた。触れるか触れないかのギリギリの位置を手が彷徨う擽ったさに、ハンジが身を捩らせた。

    「……んんっ…リヴァイ、くすぐったい」

     そうか。とだけ返して、不埒な手は依然肌を這い回り続ける。ふと身体の締め付けが緩んだ瞬間、指先が一点を弾く。小さく啼き声が聴こえた。

    「……っ、するの?」
    「……するか」

     朱色が差す瞳が、期待を孕んでリヴァイを見上げた。彼はそれを見透かして、彼女の望む言葉をかけてやる。

    「雨だからな。出掛けるのは、今度で良い」
    「……うん」

     釦に手がかかる。
     暴きつつ柔らかな肌を吸いあげれば、ハンジの吐息に徐々に熱が絡まる。
     「…なぁ」リヴァイがふと、動きを止める。
     「ん?」ハンジが首を傾げて、続きを促した。大体、言いたい事はわかってはいるけれど。

    「…どんな夢を、見たんだ」
    「…………」

     沈黙が場を支配する。
     それから幾許。
     ハンジが手を伸ばして、リヴァイの顔の左半分を撫でた。

    「……痛くて怖い、夢」

     痛かった。辛かった。苦しかった。寒かった。

    ―――でも。

     ハンジが、ふわりと微笑む。

    「……でも、とっても、幸せな夢」

     何故かは、わからないけれど。

    「…なんだ、それ」
    「あはは、わかんない」


    『死んでるよ』

     絶望した。もう、駄目かと思った。
     でも。
     瀕死であったとしても。
     見ている場所や、生きる目的が違っていたとしても。
     大丈夫、私はまだ、一人じゃない。
     そう思えた瞬間であったような気も、するのだ。

    「でも、わかるだろ?」
    「どうだかな」

     自分にしては、論理的ではないけれど。
     だが、別にそれでいい。

     唇が重なる。

    「リヴァイ。好きだよ」
    「あぁ」

     痛い記憶も、胸に抱いたまま。
     雨の日の記憶を、二人で幸せに塗り替えようか。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭👏👏🙏🙏🙏❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤😭😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works