Can't Wait 'Til Christmas【御曹司社畜(付き合ってない)で、勇気を出して社畜戸田くんをクリスマスディナーに誘ったら、クリスマスの日付を失念していた社畜戸田くんにあっさりOKをもらって内心はしゃぐ御曹司】
「はい?今週の火曜日の予定?ですか?」
ここ最近は、なんだかんだで休みの度にいろいろと誘ってくれる松岡さんと過ごすことが多い気がする。松岡さんは取引先の御曹司で、出会ったきっかけはお見合いという変わった経緯ではあるが、立場に似合わず案外気さくで、社会人になってから数年来過ごしてなかった友人と遊ぶ週末というものを満喫する生活を送っていた。
日曜日の今日も本当は松岡さんが映画にでもと誘っていてくれていたのだけれど、どうしても出社して処理する必要がある仕事のため、一度断りの連絡を入れたところ、なんと松岡さんも出社し、仕事を手伝ってくれると言い出したのだ。
いつの間にか弊社の出向社員のIDを入手していた松岡さんは、基本的にはある程度は自由に社内に出入りできるとはいえ、さすがにゲストIDを持っていても、部署内に他社の人間を入れるわけにもいかないため、現在、社内の会議室を借りて残りの仕事を片づけている最中である。これが終われば松岡さんがランチをごちそうしてくれるとのことなので、それを楽しみになんとか仕事をこなしていた。
後少し、ここの処理さえ終えてしまえば残り半日は自由の身、というところまで来たところで、背後のデスクでなにやら作業をしていた松岡さんが切り出したのが、『戸田くんは今週の火曜日、水曜日の予定はもう決まっているのかい?』という話である。
「いやいやいやいや、この暮れの時期のド平日といったらもう職場に缶詰ですって」
「じゃあ、定時に上がれそうかい?」
「それも厳しいですね……」
「じゃ、じゃあさ……」
松岡さんが切り出しにくそうにどもっている。いつもはっきりと自分の意見を述べる松岡さんにしては珍しい。少し伏せ目気味に手指を落ち着くなく動かしている様子が、子どもが親におねだりを切り出そうとしているみたいで可愛らしく感じて、
(こういうところが年下らしくて妙に構いたくなっちゃうんだよなぁ……)
と思いながら、
「はい?」
と続きを促した。
「火曜日、ディナーになら、誘ってもいいかい……?」
「夕食ですか?いいですよ」
「ほっ、ほんとうかい!?」
「少し遅くなってしまうかもしれませんけど……」
「かまわないよ!」
「では、また上がれそうな時間を連絡させていただきますね」
(平日にご飯に誘ってくれるのも珍しいな)
と思いつつ、もう一息、作業を終わらせてしまおうと、PCに向き直ったところで、再び松岡さんに呼びかけられた。
「戸田くん」
「はい?」
首を傾げつつ、声のした方を振り返ると、背後にいたはずの松岡さんが僕の座っているデスクの側までやってきていた。松岡さんは、そのまましゃがんで目線を合わせてくる。ばちり、と噛み合う視線。ますます、松岡さんの意図が読めず、首を傾げる。
と、不意に松岡さんにおでこの熱を計るように手で前髪を持ち上げられ、思わず目を瞑ってしまった。だけど、いくら待っても松岡さんはそれ以上動かなかった。不安に、恐る恐る薄目を開いた、その瞬間。
ちゅ
とおでこに少し湿った柔らかい感触があって、思わず目を見開く。目の前には、いたずらっ子のように得意げに笑う松岡さんの顔がおよそ10cmの距離にあった。動けず固まったまま、
(松岡さんって顔整ってるんだよなぁ……)
などとずれたことが頭をよぎる。
「君の時間を僕にくれて本当に嬉しいよ。ありがとう」
もうすぐ仕事も終わるだろう?車出しに行ってくるよ。
と、動けないままの僕をよそに、松岡さんはなにごともなかったかのように会議室を出て行ってしまった。残された僕はといえば、たっぷり10分はそのまま動くことができなかった。
「あ、今週の火曜日って……」
◇
火照る頬とにやける口元を片手で押さえながら、急ぎ足で人気のないオフィスの廊下を移動する。今、自分の顔を見たら、耳まで真っ赤に染まっていることだろう。戸田くんに見られなくてよかった。
だって、戸田くんが、あんなにかわいいなんて。誰かをかわいらしいなんて思うなんて、産まれて初めての経験で、何度味わっても新鮮で、その度に彼を好きになっていく。
「……デート、になるのかなぁ……」
まだ恋人同士になれたというわけではない。告白はしたけど、返事はもらえていない。今はいい友人関係といったところだ。戸田くんはきっと、来週がクリスマスなんてこともすっかり忘れていることだろう。それでも。
「クリスマスデート、楽しみだなぁ」
初めてクリスマスを共に過ごしたいと思った相手だから。
「この機会を逃すわけにはいかないよね……」