夜闇、傷と血。 神様はいない。この世を救うことはできない。そんなことができているのなら──とうにわたしは、ここから逃げ出せている。
理不尽に耐えて、悪いことにすら手を出して、どうにか日々を凌ぐ。それがわたしの当たり前で、日常だった。
路地裏の人が傷つくことなんて、日常茶飯事だけれど。そのひとつひとつに手を差し伸べては身が持たない、と理解もしているけれど。それでも、眼の前で虐げられる人を、見逃すことはできなかった。
結果的にわたしも被害を被ったわけだけど。それくらいなら痛くもなんともない。……大丈夫。頑丈なのが取り柄なのだ。
郵便配達のお仕事がある日は、絶対に路地裏に近づかない。思い出してしまうから、怖くて泣いてしまうから。何年経っても、その記憶だけは色褪せなかった。
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