白鳥の湖 偽りの愛を勝ち取った時、黒鳥はどんな気持ちだったのだろう――。
どことなく凛とした空気が漂う廊下。かすかにピアノの音が聞こえる。
バレエなんて縁遠い世界だった。それなのに今、プレストンは劇場の中、関係者しか歩かない廊下を歩いている──今日からここが職場になるのだ。
バレエ団の裏方で働いていた叔父が体調を崩して仕事をやめることになり、ちょうど職がなくフラフラしていたプレストンにその仕事の話がやってきたのがほんの数週間前。すんなりと話が決まり、そしていまこうして木の廊下を歩いている。時折すれ違うダンサー達は、同じ人間とは思えないほど颯爽とした雰囲気を纏っていて、プレストンはいつも以上に猫背になってしまう。
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