塊魂 肉の塊が食べたいんですよ。形なんか何にも気にしないでナイフを入れてざくざく切った牛の肉、ロースなら最高ですがこの際バラでもいい、とにかく塊を、一口でなんて食べられない大きさの塊を、サンチェいらない、コチュジャンいらない、胡麻油と塩、あとは胡椒をひとふり、外側だけかりっと焼いたのをそんな味つけで、
「食べたいんですよ」
「そうか」
返事があるとは予想していなかったらしい、ジェホンは口をつぐんでサンウクを凝視する。見られた男は、静かになってよかったと考えている。何しろ普段から手狭な部屋の、心持ち程度に端の方で、決してコンパクトではない体をだらしなく床に拡げて、ジェホンは先刻からぐだぐだと、あれが食べたいだのどこに行きたいだの
「サンウクさん、喉が乾きました」
ぐいと顎をあげてのけぞり、ジェホンは下からサンウクの顔を覗く。床に転がった頭のそばで、あぐらをかいて雑誌を広げていたサンウクは、思う存分ジェホンを見下ろす。
「水を飲め」
「コーヒー、冷たいの、ミルクたっぷりで」
「お前は」
ぐっと息を吸い、腹に力を入れて、ことさら低く低く、うなるみたいに、
「俺の邪魔がしたいのか」
凄んでみたけれど、転がる男は軽々しく受け流し、
「素直な気持ちを口にしているだけです」
ああ、お肉、食べたいなあ。
サンウクは理解している。ジェホンはそんなに腹を空かせていない。喉もきっと乾いていない。音楽も喫緊の予定も存在しない、ぽかりと空いた時間の中で、彼はただ存分に、暇を持て余している。「ひま」という言葉が人間になったのが、今のチョン・ジェホンなのだろう。正に暇人。
あけっぴろげな額に「肉」と書いてやろうかと真剣に考えながら、サンウクは半ば無意識に腹に手をやる。転がる男のはらのうちに興味はないが、牛の肉の塊ならサンウクもいつでも食べたい。
「行くか」
ぼそりと呟けば間髪入れずに
「そんなお金ありません」
飄々と返され、サンウクはつややかな額を手のひらですぱんと小気味よく叩いた。