花の匂い“永遠のさよなら”をしても
あなたの呼吸が私には聞こえてる
別の姿で同じ微笑で
あなたはきっとまた会いに来てくれる
初めて口づけを交わした場所は、赤い彼岸花の花畑だった。
最初で最後の誕生日祝いに、当時は珍しかったビロードのように深い紅い薔薇をやった。
赤い花、アイツの着物からはいつも山茶花の淡い匂いがした。
お前を喪って、冷たくなった頬に手で触れて、唇に唇で触れて、それきり。
お前の存在がこの地上から無くなってしまっても、俺にはお前の呼吸が聞こえていた。
赤い彼岸花が花弁を震わす音、店先の紅い薔薇が水を吸う音、それと山茶花の匂い。
そうやって俺の生きる日常に、お前はいつだって居てくれた。
激しい雨音で、お前の呼吸が聞こえなくなる夜だけは、千寿郎から譲ってもらったお前の着物を抱いて眠った。
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