子兎を飼うだいぶ色褪せた暖簾を潜ると現れるモルタルの壁に布張りの椅子、カウンターに並んだ食器の数々が年代を感じさせるのは店主のアンティーク趣味などではなく実際に何十年も使い込んでいるからだ。
「こんばんはフミエさん、その煮物と出汁巻き卵ください」
勝手にカウンターの端の席に腰かけながら注文すると、面倒臭そうに溜息をつきながらお通しを置かれた。椎茸の白身魚すり身詰めサッと煮。たまたま今日が椎茸だったのだろうが、なんとなくフミエさんの苛立ちが目に見える形になったように感じる。
「あんた注文より先に言う事あるでしょ。此処は子ども食堂じゃないんだよ」
「ははぁ、すみません。まぁ雑用に使ってやってくださいよ」
「雑用に使えって何にも出来ない子にいちいち教える方が手間なんだよ。あんたが引き取ったならちゃんと自分で面倒看な!」
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