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    zoutokani

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    zoutokani

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    兄の日だから書きかけのしょたおに(ジュナカル)
    何歳差か分からなくなっている
    ピオ先生もいる

    #二次創作(腐向け)
    secondary

    14

    プロローグ

     思い返すほど、不自然なシチュエーションであったのだ。
     カルナと二人で暮らしていた頃がある。何でもしてくれた。毎日温かい食事を整えてくれて、話を聞いてくれて、あたたかな毛布で眠ることも、季節に合わせた服を着ることも、不自由なく与えられて育った。
     色々な所へ連れ出してくれた。海も川も山も、美術館も博物館も、お祭りもお花見も。だけど一番好きだったのは、晴れた日に手を繋いで、何もない近所の公園に行くことだった。
     海も川も山も美術館も博物館もお祭りもお花見にだって、連れて行ってくれるだけ。カルナはそこには居なかった。でも公園になら一緒に歩いて行けたから、それが一番嬉しかったんだ。

     朝起きて、今日は、「かいすいよく」だと言って、沢山体を動かすからと、大きなおにぎりをお皿に並べるものだから、必死でほおばった。海に行くのはその日が初めてだったけど、全然楽しみじゃなくて、胸が詰まりそうなのを堪えながら麦茶で流し込む。
     カルナはその日も何も食べず、中身が見える透明な鞄に、子供用の水着とかタオルとか、空気で膨らますビニールボールとかを詰めて支度をしていたと思う。
     助手席に座って——カルナとの移動は、ほとんどの場合が自動車だった——海の水は塩辛いんだそうだ、波にさらわれると大変らしいから気をつけろとかボソボソ喋っているのを聞いて、そのすべてにはい、と返事をした。
     窓を開けて走っていた。潮風がハンドルを握るカルナの髪を攫ってから頬に当たる。窓の外が青のグラデーションで埋め尽くされる頃、砂浜の上に停車して、いつもなら「着いたぞ」と別れを告げられるのに、その日は「少し待て」と言った。
     ビニールボールは膨らませる必要がある。コツがいる……とかなんとか、頬を膨らませるカルナを見ていて、ずっと気になっていたことを恐る恐る口にした。
    「カルナは海で泳いだこと、あるんですか」
    「ない」
    「やっぱり。いつもいつも、せっとくりょく、がありません。あの、だから、今日は一緒に……」
    「それは出来ない」
    「な、なんで?」
    「理由を告げることはできるが、無駄だ」
    「おい、遅いぞ」
     助手席のドアが外から開けられて、強い日差しが容赦なく差し込む。逆光で良く見えない、だけどいつもの人だ。目つきの悪いお医者さん。
    「すまん」
     カルナが、お医者さん——アスクレピオスに水着が入ったバッグを渡して、私の髪を撫ぜて麦わら帽子を乗せる。
    「楽しんでこい」
     薄く笑って、膨らんだボールを手渡されて、初めて、要らない、と呟いた。慣れないことを尋ねたから、とうに心臓の音が鼓膜を叩いていて、もうどうにでもなれ、の心地だったのだと思う。
    「い、いや、いやです、カルナが行かないなら行きません!」
    「……どういうことだ、これは」
    「すまん」
     温度のない二度目の謝罪がぽつりと落ちた。アスクレピオスが、チ、と舌打ちをする。すぐ舌打ちをするのだ、この医者は。
    「オレの『かいすいよく』に対する知識不足が原因だ。アスクレピオス、すまんがおまえが教えてやってほしい」
    「違う、違いますッ、そうじゃなくて」
     カルナは力が強かった。暴れても結局持ち上げられて、助手席の外へ降ろされる。
    「どうしていつも私だけ、カルナも海、行きたいんでしょう!」
    「……面倒だ。なんとかしろ」
    「アルジュナはとても優しいから、オレが行楽を知らぬことに納得していないんだ。そうだな……帰ってきたら、おまえがオレに教えてくれないか。今晩は朝まで一緒の布団で眠ることを約束する」
    「えっ……」
     ……当時の私にとっては、これ以上ないほど魅力的な条件だった。私はまだ五歳で、カルナはいつも私が寝入るまで、ベッドの横に座ってゆったりと背中を叩いてくれていたのだが、一緒に眠るとなればアルジュナが体調を崩してしまった時とか、怖い夢を見て深夜に泣いていた時だけだった。
     つまり大抵べそをかいている。顔を見られるのが恥ずかしくて隠すことに必死になっている間に眠ってしまうから、カルナと話す余裕がない。
    「朝まで?」
    「うん」
    「ね……眠らなくても怒りませんか」
    「まあ、たまにはいいだろう」
    「馬鹿か。理由もないのに徹夜だと? 愚行すぎる」
    「じゃあ海なんて行きませんっ」
    「確かに眠らないのはよくないな。では、明日も一緒に寝るか」
    「…………今日も、明日も?」
    「ああ」
    「………………」
    「……カルナ。明後日も追加しろ」
    「分かった」
    「!」
     海の水は本当に塩辛くて。この味をどうやって伝えようかと何度も舐めて、喉を傷めながら、やっぱりカルナも一緒に来ればいいのに、とアスクレピオスに抗議した。
     違和感を感じたのは、その日の夜が最初だった。布団の中で、寝ぼけつつ『かいすいよく』の話をしたら、カルナは目を輝かせて聞いてくれた。私の話はなんだって聞いてくれたけど、あんなに楽しそうなのは初めてだったから、おかしい、と思った。
     カルナも、海で遊びたかったんじゃないか、なんて。普段は全然変わらない表情が変わるのを間近で見ながら、一緒に眠った三日間。疑惑が確信に変わっていく。
     写真なんて一枚もない。私の記憶がおかしくなってしまったのでなければ、あの時、カルナだって、せいぜい十四歳くらいの少年だったはずだから。
     車を運転していたのがおかしい。私の衣食住の面倒を一人で見ていたのはおかしい。
     「カルナも海で遊びたい」というのは、全く、おかしなことではない。
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    プロローグ

     思い返すほど、不自然なシチュエーションであったのだ。
     カルナと二人で暮らしていた頃がある。何でもしてくれた。毎日温かい食事を整えてくれて、話を聞いてくれて、あたたかな毛布で眠ることも、季節に合わせた服を着ることも、不自由なく与えられて育った。
     色々な所へ連れ出してくれた。海も川も山も、美術館も博物館も、お祭りもお花見も。だけど一番好きだったのは、晴れた日に手を繋いで、何もない近所の公園に行くことだった。
     海も川も山も美術館も博物館もお祭りもお花見にだって、連れて行ってくれるだけ。カルナはそこには居なかった。でも公園になら一緒に歩いて行けたから、それが一番嬉しかったんだ。

     朝起きて、今日は、「かいすいよく」だと言って、沢山体を動かすからと、大きなおにぎりをお皿に並べるものだから、必死でほおばった。海に行くのはその日が初めてだったけど、全然楽しみじゃなくて、胸が詰まりそうなのを堪えながら麦茶で流し込む。
     カルナはその日も何も食べず、中身が見える透明な鞄に、子供用の水着とかタオルとか、空気で膨らますビニールボールとかを詰めて支度をしていたと思う。
     助手席 2265

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     カルナと二人で暮らしていた頃がある。何でもしてくれた。毎日温かい食事を整えてくれて、話を聞いてくれて、あたたかな毛布で眠ることも、季節に合わせた服を着ることも、不自由なく与えられて育った。
     色々な所へ連れ出してくれた。海も川も山も、美術館も博物館も、お祭りもお花見も。だけど一番好きだったのは、晴れた日に手を繋いで、何もない近所の公園に行くことだった。
     海も川も山も美術館も博物館もお祭りもお花見にだって、連れて行ってくれるだけ。カルナはそこには居なかった。でも公園になら一緒に歩いて行けたから、それが一番嬉しかったんだ。

     朝起きて、今日は、「かいすいよく」だと言って、沢山体を動かすからと、大きなおにぎりをお皿に並べるものだから、必死でほおばった。海に行くのはその日が初めてだったけど、全然楽しみじゃなくて、胸が詰まりそうなのを堪えながら麦茶で流し込む。
     カルナはその日も何も食べず、中身が見える透明な鞄に、子供用の水着とかタオルとか、空気で膨らますビニールボールとかを詰めて支度をしていたと思う。
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     カルナと二人で暮らしていた頃がある。何でもしてくれた。毎日温かい食事を整えてくれて、話を聞いてくれて、あたたかな毛布で眠ることも、季節に合わせた服を着ることも、不自由なく与えられて育った。
     色々な所へ連れ出してくれた。海も川も山も、美術館も博物館も、お祭りもお花見も。だけど一番好きだったのは、晴れた日に手を繋いで、何もない近所の公園に行くことだった。
     海も川も山も美術館も博物館もお祭りもお花見にだって、連れて行ってくれるだけ。カルナはそこには居なかった。でも公園になら一緒に歩いて行けたから、それが一番嬉しかったんだ。

     朝起きて、今日は、「かいすいよく」だと言って、沢山体を動かすからと、大きなおにぎりをお皿に並べるものだから、必死でほおばった。海に行くのはその日が初めてだったけど、全然楽しみじゃなくて、胸が詰まりそうなのを堪えながら麦茶で流し込む。
     カルナはその日も何も食べず、中身が見える透明な鞄に、子供用の水着とかタオルとか、空気で膨らますビニールボールとかを詰めて支度をしていたと思う。
     助手席 2265