nonfiction サンタクロースのカルナは嫌いだ。
……いや、そう言うとランサーの、普段のカルナのことはそうではないみたいに聞こえるか。セイバー(本人曰くボクサーでサンタさん)のカルナのことは、普段のカルナに輪をかけて苦手だ、と言い換えよう。
何故かと言われれば簡単、ヤツらしくないからだ。
そもそも発端となったヴリトラとブラックボックスを巡る騒動の時も、拳で倒そうとする愚かさを露呈させていた。常のヤツなら、単なる武力での解決は無理だと一目で看破したはずなのに。磨き抜かれたあの相貌が若かりし頃を思い出すことで曇るなど言語道断、貴様は何故ランサーとして召喚されたのか、その役割こそしっかり思い出せと、珍しくある胸倉を何度掴みそうになったことか。
クリスマスの一件は、アルジュナが若干余計な口を挟みつつも解決したようだし、過ぎたことをあれこれ言っても仕方がない。それにカルナとて恥を覚えるであろうとしばらくスルーしていたが、特段気にしていないのか、むしろサンタさん修行を継続している節さえある。槍の冴えを極めることこそマスターのサーヴァントとして為すべきことであろうが、何を考えているのかさっぱりだ。……カルナが何を考えているのかなど、理解できた試しがないが。
「自覚があるようでなによりだ」
「……なんだ、それは」
「チャイだ。飲むか?」
食堂にて、昼下がり。珍しく現界の時期がカルナと被ったので、手合わせをしていたらマスターにランチに誘われた。相変わらず肝の据わったマスターだ、戦闘直後のクシャトリヤを何だと思っているのか。
「腹が減っている、と思ったのではないか。マスターなりの気遣いだろう」
「泥遊びをした後の犬か何かか、我々は」
「似たようなものでは」
「違うだろ。え、なんだその目は。違うだろう、どう考えても。私とおまえの手合わせだぞ、特に今日は水辺での戦いとあって常にない新しい発見が多く見ているだけでもそれなりの学びが得られる、私としてはアーカイブの保存依頼を検討しているほどだが、おまえは違うのか」
「……まあ、盛り上がったな、うん。オレも多くを学んだ、お互い水辺で炎を纏った攻撃を繰り返すと湿度が増して蒸し暑い」
「おいなんだその感想。もっと色々あっただろう。時と場合によっては叙事詩に残る戦いだったと自負している、実際見学していた李書文などは興奮して、アシュヴァッターマンを誘ってそのままシミュレータ室へ向かったそうだ」
「はあ。で、飲むのか、チャイ」
「……いただこう」
ランチはエビフライ定食だった。美味だった。マスターやマシュと舌鼓を打って、カルナもその席にいたわけだがそれもまあ良い、食事に誘われたのは二人揃ってであったのだし、さっきの戦闘すごかったねぇ、思ったんだけど、二人一緒に出撃するときにこういう戦法も使えるんじゃないかな、などと非常に有意義な話も出来たしアルジュナとしては非常に満足できる時間を過ごせた。
その充実した時間の最後にカルナが言ったのだ、それならサンタのオレでもアルジュナと上手く連携が取れるかもしれないな、と。
冒頭に戻る。
アルジュナはサンタさんのカルナが苦手なのだ。
「前はコーヒーと水、あとは麦茶の三択だったフリードリンクに最近チャイが導入された。オレは初めて飲んだのだが、中々美味い。飲んだことはあるか」
「…………」
こっちだ、と案内されたので大人しくついて行くと特に作り置きしてあるとかでもなく、カウンターで「アルジュナにもチャイをひとつ」と当番の紅閻魔に声をかけていた。手を煩わせることなら先に言っておけ。
「作り置きのチャイは…………おすすめしない。おすすめしない」
「二回言うほどに」
「ビーマが色々と考案していたが、ドゥリーヨダナが毎回嗅ぎつけては騒ぎになってな」
「なんだそれ……初めて聞いた」
「まあ、暴れたくなる気持ちは分かる。心意気は買うが、味の良しあしは別の話だ」