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    sarasa_orihara

    @sarasa_orihara

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    sarasa_orihara

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    梵天×武道。ゆるい監禁表現あります。

    梵天LOVERS

    夢を見た。
    廃れたボウリング場でマイキー君と再会する夢。ヒナとの結婚式の招待状を渡そうとした時、背後から銃で撃たれた。膝から崩れ落ちる様に倒れたオレの鳩尾にマイキー君の蹴りが入りそのまま意識は暗転した。

    真っ白なシーツに覆われたベッドの上で武道は目を覚ます。ベッドサイドのテーブルに置かれたデジタル時計は朝の七時を表示している。徐々に脳が覚醒し、さっきまで見ていたものが夢ではなく現実に起きた出来事だと気づく。
    ここは梵天の隠れ家の一つで、都内のどこかにあるマンションの一室だ。組織の首領である佐野万次郎と再会した夜、彼は武道を連れ去り監禁した。更に武道が気を失っている間に右脚の腱を断っていた。銃弾を受けた背中と足の傷は丁寧に治療が施されたが断たれた脚の腱はそのままだ。左脚は健在だが一人で車椅子に乗り移れる事が出来る位で一人では歩けない。着替えもままならず身に纏えるのは大きめのワイシャツと下着のみ。逃走しようにも現状ではマンションの外に出たところで捕まるだろう。だからという訳ではないが武道はここから逃げ出したいと思った事はない。過去にタイムリープ出来ないなら、現代で佐野万次郎を救うしかないと決意したからだ。
    武道はベッドの近くにある車椅子に手を伸ばす。届きそうで届かない。あともう少しで指先が車椅子に触れそうな所でベッドから落ちてしまった。
    「いて……」
    仕方なく這いつくばって車椅子の元へ進もうとすると寝室のドアが乱暴に開いた。
    「何してんだ、ドブ」
    現れたのは綺麗な顔からは想像もつかない汚い言葉を使う三途春千夜だ。彼は主に武道の傷の手当をしている。
    「すみません」
    「あ? 朝から面倒かけさせんな、クズが。傷口見せろ」
    三途は床に這いつくばっている武道を抱えベッドへそっと戻した。言葉は乱暴だが武道の扱いは優しい。手際良く傷口を消毒し手当していく。
    「いつもありがとうございます、三途君」
    「気安く呼ぶな。相変わらずクセェよ、てめぇは」
    「……」
    「……そろそろガーゼも包帯も取れんじゃねぇの」
    「そしたら三途君の手を煩わせるのも少なくなるね」
    「は? 存在が煩わしい奴が何言ってんだ?」
    「ごめん」
    三途は武道の言葉に大きな舌打ちをしたが、その態度とは裏腹に今度は車椅子に優しく乗せてくれる。寝室を出てダイニングルームに向かうとテーブルの上にはコンビニの袋が置いてあった。中に入っているのは、おにぎりやサンドイッチだ。朝ご飯はだいたい三途が買ってきたコンビニ飯を二人で食べている。毎朝嫌いな人間と一緒に食べないといけないなんて大変だなぁと思っていたが、最近になってそうではないかもしれない事に気が付いた。
    ある日テレビを見ながら三途と二人無言でおにぎりを食べていた時、武道は自分が好きなポテトチップスのコマーシャルを見て「久しぶりに食べたいなぁ」と小さく呟いた。その時は無言のまま過ぎていったが、翌朝に三途がそのポテトチップスを買ってきてくれたのだった。武道は嬉しくて「ありがとう」と微笑んだ。三途から「ドブ臭せぇから笑うな」と言われたがいつものキツさが薄れていた気がしてそれも嬉しかった。監禁されて初めて心からの笑みが零れたその日を境に、三途が少しずつ優しくなっていった。言葉遣いは相変わらず汚いままだが。

    三途が帰りしばらくすると玄関のドアが開く音がした。時計を見ると正午が近い。彼らが来るのは決まってこの時間帯だ。
    「花垣」
    「元気にしてたか?」
    オーダーメイドであろうスリーピースのスーツを着こなす灰谷蘭と竜胆の兄弟がリビングに入って来た。彼らは武道が生活に困らない様に日用品や食料を調達してくれる。それはありがたい事なのだが、二人が来ると武道にとって一つだけ厄介な事がある。
    「腹減っただろ? 兄貴の行きつけのイタリアンレストランでテイクアウトしてきたから食おうぜ」
    「いいスプマンテも買ったから竜胆も飲むだろ?」
    「昼間から酒かよ。まぁ、今夜は何も仕事入ってねぇし飲むか」
    「花垣も飲むか?」
    「うん、少しだけ」
    蘭はキッチンの食器棚からフルートグラスを三脚出してきた。竜胆はテイクアウトしてきた料理をテーブルに並べる。ピッツァやパスタにサラダ、ドルチェまである。ここまでは何も問題はない。武道が悩んでいるのはここからだ。
    「花垣、口開けて」
    竜胆は八等分に切られたピッツァマルゲリータを少し冷まし武道の口元へ持ってくる。それを武道は素直に口に入れた。二人はこうやって食べ物を自分たちの手から食べさせたがるのだ。もちろん最初は遠慮した。手は自由に動くから自分で食べられると。しかし二人はきかなかった。その内に武道も慣れてきてしまい、二人が居る時にはどちらかの手で食べさせて貰っている。だがこの歳になって子供の様に食事をするのは違和感しかない。何れまた自分で食べたいと主張してみよう。
    食後の片付けが終わると蘭から何かして欲しい事はないかと聞かれた。
    「キッチンの上の棚にフライパンがあると思うんだけど取ってくれないかな?」
    武道の言葉に竜胆がキッチンに向かう。棚の扉を開けて「フライパンいくつかあるけど、どれ?」と問われたのでキッチンの方へ車椅子で近づくと、目線が低くて棚の中が見えなかった。目線を高くしようと腱が切れていない左脚で立つために車椅子の肘掛に手を置いた。しかし、グッと両腕に力を入れた筈がフワッと体が浮いた。気がつくと竜胆に抱っこされていた。
    「こっちの方が良く見えんだろ?」
    「う、うん。ありがとう」
    武道は取って欲しかったフライパンを自分の手で棚から取り出した。すると少し離れていた所から見ていた蘭が「いいな、それ」と言って竜胆に抱っこされている武道に近寄る。
    「フライパンこっちに渡して」
    蘭にそう言われ素直に手渡す。それをシンクに置くと、まるで幼子を相手にする様に両腕を広げ「花垣、おいで」と言った。
    「え? オレを何歳だと思ってるんすか?」
    「いいから」
    「花垣、兄貴の所に行ってやれよ」
    二人はこうなると梃子でも動かない。武道は渋々ながら竜胆から蘭の腕の中に移った。
    「抱き心地最高だな」
    「ちょっと蘭君、変なところ触らないで下さい!」
    蘭はクスクスと笑いながら武道を抱っこしたまま寝室まで運び、ベッドへ優しく下ろすと自分もその横に寝そべった。
    「このまま寝ちまいてぇな」
    「酒も飲んだし、仕事もねぇから帰んのめんどくせぇ」
    いつの間にか竜胆も武道の横、蘭とは反対側にゴロンと寝っ転がっていた。
    「今夜は泊まらないんですか? お酒飲んでたからてっきり二人とも泊まると思ってました」
    「可愛いお誘いだけど、今夜はボスが来る」
    「だからオレらは帰るよ。それにもうすぐ九井が支度しに来るし」
    「そうなんだ」
    武道は万次郎がいつ来るのか知らされていない。ただ彼が来る予定の日は必ず九井が武道の体を整えに来る。毎回それで万次郎の来訪を知るのだった。
    「それじゃ、オレらは帰りますか。なぁ兄貴?」
    「あぁ。またな、花垣」
    「うん。今日もありがとう」
    車椅子に乗せてもらって武道は二人を玄関で見送った。

    九井一が訪れたのは日が傾きかけた頃だった。室内に入って来るなり「花垣、体拭くぞ」とリビングのソファに座っていた武道を担ぎ上げベッドへ寝かせた。
    武道は一人で風呂には入れない。この部屋の浴室には介護用の風呂が設置されていて武道の為に万次郎が発注したそうだ。週に一度、介護士が来て風呂に入れてくれる。風呂に入れない日は来てくれた人に頼んで手伝ってもらいながら体を拭いたり髪を洗ったりしている。
    以前、脚の腱を手術などで治せば周りに迷惑をかけなくても済むと九井に訴えた事があった。しかし返ってきた答えは「それじゃあ花垣をここに閉じ込めておく意味がない」だった。自分を閉じ込めておく意味とは何なのか、それが未だに分からない。彼はそれ以上、何も答えてくれなかった。
    「どうした? 考え事か?」
    九井が慣れた手つきで武道の体を拭いていく。
    「ううん、何でもない」
    「嘘だな」
    「……ココ君はさすがだね」
    「ついでに何を考えていたか当ててやろうか? 脚を治せばみんなに迷惑かけなくて良い、だろ?」
    「うん……」
    「まだ分からない? みんな好んで花垣の世話してんだよ。誰の迷惑にもなってないから安心してお世話されてろ」
    九井の言葉を全て信じた訳ではないけれど、確かにここに来てくれる人はどこか楽しそうで、武道はそこに救われている。
    「それを信じていいなら安心した」
    「疑り深いな」
    「ココ君はどうなの?」
    「オレ? オレは花垣から報酬をもらってるから他の奴らとは違う」
    「報酬なんて渡したっけ? オレ金なんて持ってないっすよ?」
    「報酬が金とは限らないだろ」
    「え?」
    「お礼のキス」
    以前、九井に「迷惑かけてごめんね」と言ったら「そんなに気にするなら礼をもらう」と言ってキスをされたのだった。それ以来、彼が武道の元へ来て何かをしてくれた後に必ずキスを交わしている。
    「それだけで良いの?」
    「おいおい、オレを殺す気か? これ以上のものを貰ったらボスに殺される」
    「そ、そうだね」
    「体拭き終わり。今日はここまでだな」
    「ありがとう、ココ君」
    ホットタオルで全身を拭いてもらいスッキリしたのだが、万次郎が来る日はアロマオイルでマッサージしたり洗髪もしていた。今日は何故か急いでる様に感じた。
    「悪いなこれしか出来なくて。ボスがもう少しでここへ着く」
    「今日は早いんだね」
    「早く会いてぇんだろ、お前に。存分に甘やかしてやってくれ」
    「うん」
    「じゃあな」
    「ココ君、待って!」
    武道はベッドに腰掛けていた九井の首に腕を回し感謝のキスを唇に落とした。
    「報酬どうも」
    「いつもありがとう、ココ君」
    九井は武道の頭をそっと撫でると去っていった。そして彼と入れ替わる様にして佐野万次郎がやって来た。万次郎は玄関から真っ直ぐ武道の居る寝室へ入る。ぬらりとした気配は変わらないが、廃ボウリング場で会った時より顔色も体調も良いようだ。
    「おかえりなさい、マイキー君」
    「ただいま、タケミっち」







    橘日向を見かけた。婚約者を奪われた女は窶れていた。定期的に部下にさせている身辺調査の写真で見た幸せそうな姿とはまるで別人だった。武道が未来へ帰る時に贈った言葉は嘘ではない。彼女と幸せになれと本当に願っていた。あの夜、彼に再会するまでは。
    ビデオテープに録画し武道のタイムカプセルへ潜ませてまで「探すな」と釘を刺したのに、それを見た上で武道は万次郎を探していた。部下からその報告を受けた万次郎は、もう二度と自分には近づくなと警告するつもりで廃ボウリング場へ行った。
    しかし十二年前と変わらない姿と瞳に覚悟が揺らいだ。武道が未来に帰ったあの日からずっと求め続けていた光が、温もりが自分の手の届く範囲にいる。無防備なままで。だからもう二度と離すまいと閉じ込めたのだ。
    万次郎は武道を監禁しているマンションの一室へ向かった。真っ直ぐ寝室へ行くと武道は車椅子を自ら動かし万次郎の側まで来て「おかえりなさい、マイキー君」と優しく微笑んだ。万次郎はそんな武道を見て心の底から閉じ込めて良かったと思った。初めて会った喧嘩賭博の時からずっと独り占めしたくて仕方がなかった。その願いがようやく今、叶ったのだ。万次郎は込み上げる嬉しさを噛み締めながら優しく武道に「ただいま、タケミっち」と微笑んだ。
    「マイキー君お腹すいてない?焼きそば作ったんだ。もし良ければ一緒に食べよう?」
    確かにキッチンの前を通った時、香ばしいソースの匂いが漂っていた。
    「タケミっち一人で作ったの?」
    「うん。カウンターチェアがあるから片足でもキッチン使えるし、包丁なくてもカットされてる野菜とかベーコンで焼きそば位なら作れるよ。これでも一人暮らし長いからね」
    武道はそう言うと少し寂しげな表情をした。どこか遠くを見る瞳は橘日向との失われた未来を見ているようで、万次郎の中にあるどろりとした感情が動いた。
    車椅子に座る武道を抱き上げ、ベッドへ雑に寝かせ彼の上に馬乗りになった。怯えているのか武道は少し震えていた。だが万次郎にはそれも興奮を高める材料にしかならなかった。黒い衝動とは全く違う武道に対する感情が日に日に大きくなっていく。愛なのか恋なのか。嫉妬なのか執着なのか。色んな感情が混ざりあって、いつも武道を酷く抱いてしまう。
    「マイキー君……、待って」
    万次郎は武道の言葉を聞きもせず喰らい尽くす様なキスを体中に施した。
    「痛くしないで、お願い……」
    涙目になりながら懇願する武道に再びどろりと感情が動く。きっとこれは己の欲望の塊なのだろう。万次郎はそれに抗わず武道を犯した。

    万次郎に酷く抱かれた武道は気を失っていた。目が覚めると武道を大事そうに抱える万次郎が隣にいた。
    「マイキー君……」
    掠れた声で呼ぶと万次郎は「ごめん」と謝った。いつもそうだ。武道を抱いた後は必ず縋るように謝る。まるで迷子になった子供みたいに不安げだ。万次郎を救いたくて武道はここに居るのに未だにどうすれば良いのか分からないままだ。ただ万次郎のそばにいる事しか出来ない自分が悔しい。
    「オレは大丈夫だから」
    「……タケミっち、オレを見て」
    「見てるよ」
    武道は万次郎の冥い瞳を見つめる。いつかこの瞳に光が差すと信じている。
    「ずっとそばに居て。オレから逃げないで」
    「逃げないよ」
    「離さないで、タケミっち」
    「離れないよ、マイキー君」
    幼子の様に抱きつく万次郎を武道は優しく抱きしめた。


    後日談

    愛情のキス(サン武)

    春千夜は武道と寝室は別にしている。他の幹部達は武道にベッタリで、ここに泊まる時は一緒に寝ているそうだが春千夜は客室を使っている。何故、自分以外の連中が武道を溺愛しているのか最初は理解出来なかった。だが少しだけ分かってきた事がある。それは武道の好きなフレーバーのポテトチップスを買ってやった時に初めて見せた嬉しそうに笑う顔が心に残ったのだ。童顔である武道が笑うとより幼くみえ、今まで感じた事の無い庇護欲に駆られた。きっとこれが武道を可愛がる理由なのかもしれないと思った。それ以来、妙に意識してしまい雑に扱えなくなってしまった。武道の日を浴びていない白い肌や遠慮がちに頼み事をする時の上目遣いが脳裏を過ぎる度に言い知れない感情が渦巻く。
    「クソッ!」
    柄にもない考え事をして苛立った春千夜は客室を出てキッチンへ向かった。眠れない夜はいつもならクスリをキメるが、ここではやらないと決めている。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し一気に飲み干した。冷たい水が喉から食道を抜けて胃を冷やす。苛立っていたものが少し収まった。
    客室へ戻ろうとした時、武道の寝室から呻き声が聞こえた。ドアを開けると苦しそうに魘されている。
    「おい、大丈夫か?」
    少し体を揺らし声を掛けるとゆっくり瞼を開き目を覚ました。
    「三途、君……?」
    「魘されてた」
    「……ありがとう。あんまり覚えてないけど、怖い夢を見てたと思う」
    「そうか。じゃあな」
    「待って! あの、少しだけ一緒に居てくれないかな?」
    武道は春千夜の腕を掴んでそう言った。掴んだその手が震えている。それを振り払う事は今の春千夜には出来なかった。武道はいつもベッドの端で人恋しそうに寝ていた。落ちる可能性があるから真ん中で寝ろと言っても無意識に端によってしまうらしい。春千夜はベッドの真ん中に寝転がり武道を自分の方へ抱き寄せた。
    「これでいいか?」
    「うん」
    嬉しそうに微笑む武道に春千夜は軽くキスをした。らしくないのは分かってる。ただそうしたかった。キングサイズの広いベッドに一人で寝るのは武道にとって寂しいものなのだろう。このキスはそんな思をさせてしまった償いか。春千夜は己のした行為を理解出来ずにいた。ふと武道を見ると腕の中で驚いた表情をしていたが嫌がってはいなかった。そして視線が混ざり合い引き寄せられる様に二人は再びキスを交わした。
    春千夜の胸中に渦巻く想いが愛だと知るのはまだ少し先の事。

    懇願のキス(竜武)

    竜胆は珍しく一人で武道のマンションへ来ていた。いつもは兄である蘭と来るのだが、今夜そうしなかったのは理由があったからだ。
    「竜胆君が一人で来るなんて何かあった?」
    武道は車椅子で玄関まで迎えに来てくれた。さっぱりとしているのはきっと風呂に入れてもらったのだろう。今夜はボスが来るからとヘルパーだかを九井が手配していた。だから今夜ここへ来たのだ。ボスが来る前なら誰も兄貴さえも近づいていないだろうと。
    「ちょっと確かめたい事があって」
    「確かめたい事? それなら上がってよ竜胆君。玄関先じゃなんだし」
    「いや、ここで良い」
    竜胆は車椅子に乗っている武道の前に膝を付き抱き締めた。風呂上がりでまだ体が温かく石鹸の香りが鼻腔を擽る。
    「竜胆君、大丈夫?」
    武道は戸惑いながらも竜胆を抱き返した。その温もりが心地よくて竜胆は武道の胸に顔を埋める。冷凍倉庫での仕事で冷えきった体に武道の温かさが染み入る様に広がった。そして確信した。この柔く優しく包み込む体と、反社に住む人間に対しても恐れず受け入れる武道を誰にも渡したくないと。だが武道は既にボスのものだ。それに割って入ろうとは思わない。
    竜胆は自分を撫でる武道の手を取り掌にキスをした。唇に感じる仄かな体温すら愛おしい。どうかこの温もりが失われる事が無いようにと言葉にせず懇願した。
    「り、竜胆君、あの……」
    竜胆は武道から離れ立ち上がった。恥ずかしそうにしている武道の頬を優しく撫でる。何処も彼処も柔らかく温かい。離れ難いがボスがもうすぐ来るだろう。
    「帰る。またな、花垣」
    「もう帰るの?」
    「ボスが来る前にな」
    武道は竜胆がキスをした方の手をギュッと握りしめていた。秘密を隠す様に。その仕草に背徳感が込み上げ、不思議と竜胆を興奮させた。ボスのものだと遠慮していたが、奪い取るのも良いかもしれない。あの温もりが守れるならそれも選択肢の一つか。竜胆は新たな決意を胸に秘めマンションを後にした。

    憧憬のキス(ココ武)

    九井は左腕に痺れを感じ目を覚ました。痺れの原因は武道だった。武道のマンションで仕事をしていた九井は昼過ぎに眠気に襲われ、武道に腕枕をしてやり一緒に仮眠をとっていた。あまりの抱き心地の良さに予定より十分以上寝坊してしまった。すぐに起きて仕事を再開しなければならないが、自分の腕枕で気持ちよく眠っている武道を起こすのがしのびなくなり眺める事にした。昔、武道が小さい体で自分より体格がよく喧嘩の強い奴に立ち向かっていたのを思い出す。教会の一件から惹かれていたが、裏切りを疑われ拉致られた時に身を呈して自分を守ってくれた事が武道に心を奪われる決定的な出来事だった。今のボスは佐野万次郎で彼に忠誠を誓っているが、心を預けているのは今でも花垣武道だ。
    腕の中でもぞりと動き小動物のように丸くなる武道は、あの頃よりも痩せてか弱くなってしまったが前を向き続ける目は変わらなかった。片脚の自由を奪われ監禁されても失われない光はあまりにも眩しい。九井はそんな武道を尊敬していた。憧れに近いほどに。
    「ん……」
    「花垣はまだ寝てていい。オレは仕事する」
    昼寝から覚醒しきれていない武道の頭をゆっくり自分の腕から下ろした。フワフワと微睡む武道を見ると安心する。ボスが血塗れの武道を連れ帰ってきた時は正直焦った。しかしこのマンションへ閉じ込めるとなった時、九井は歓喜した。自分のボスでは無くなったが、側にいて守れるのだと。今は囲う存在になったが憧憬の想いは変わらない。
    「ココ君?」
    「いいからまだ寝てろ」
    九井はそっと武道の瞼にキスを落とした。

    欲望のキス(蘭武)

    夜の帳に隠れて人々の欲望が渦巻いていた街が朝の清浄な光に照らされる頃、仕事を終えた蘭は一人とある場所へ向かった。そこはボスが武道を囲っているマンションだ。昨夜はボスが来る予定になっていた。さぞかしお楽しみだったろう。今行ったらボスと鉢合わせするかもしれないが、そうなったら武道の後処理をしに来たとでも言えばいい。
    幹部達に渡されているマンションの合鍵を差し込む。玄関ドアを開き中へ入るが靴が一足も出ていない。もうボスはここを出たようだ。武道と夜を過ごしても行為が済んだらすぐに帰ってしまうらしい。部屋に上がり真っ直ぐ寝室へ向かうと、ベッドの上にはシーツに包まった武道が眠っていた。蘭は乱暴にシーツを剥いで武道に覆い被さった。
    「うわっ……! ら、蘭君?」
    明け方の陽に晒された素肌にはボスの所有の証が散らばっていた。性欲など微塵もなさそうなボスだが、武道に対してはこんなにも欲望をぶつけるのだと知った。
    「たくさん可愛がられたな、花垣」
    その言葉に恥じらう仕草を見せる武道にいたずらごころがムズムズと湧いてきてしまった。蘭は首筋にあるボスが付けたばかりの赤い印に上書きする様にキスをした。他の場所にも全部。
    「蘭君、やめて……」
    口ではそう言うが力が入らないのか体は抵抗する様子はない。最後に一つだけボスが付けていない腕にキスの証を残した。次にボスが来る時までこれが残っていたらどうするだろう?
    「楽しみだ」
    蘭は自分が付けた武道の腕のキスマークに頬ずりをした。

    狂気の沙汰(マイ武)

    万次郎は久しぶりに生を実感していた。修羅に身を置いてからは常に死を感じる事はあっても、己が生きているという事の実感は希薄だった。万次郎に生を再び与えてくれたのは武道だ。彼が望めば眠るし食事もする。武道が嬉しそうに笑えば幸福感を得られ、抱けば多幸感に包まれる。昨夜、抱いたはかりの武道が今夜も欲しくなりマンションへ向かった。
    「ボス? 続けて来るなんて珍しいな」
    「鶴蝶か」
    幹部達は万次郎が指示した訳でもないのに武道の世話を自ら望んでやっている。時が経っても人たらしなのは変わらないようだ。
    「外そうか?」
    「いや、居てくれて構わない」
    万次郎は鶴蝶をマンション内に留め寝室へ向かった。すやすやと心地よい寝息をたてながら武道は眠っていた。シャツの襟元から覗く素肌には昨夜付けた痕がいくつも残っていた。あまりにも気持ちよく眠っているので万次郎は起こすのを躊躇った。そっと武道の隣に寝そべると、いつもは留めていないシャツの袖のボタンが今日に限ってきっちり留まっていた。それに違和感を覚え、まるで秘密を暴く様な心境でボタンを外した。袖を捲り上げると、そこには自分が付けた覚えのない赤い印があった。しかし万次郎はそれを見ても嫉妬心は芽生えなかった。それは想定内だったからだ。自分以外にも武道を抱いている奴はいるだろうと思っていた。
    「タケミっち、起きて」
    「ん~っ……、あれ? マイキー君?」
    「ねぇ、これ誰が付けたの?」
    「え? あ、これは……」
    「まぁ、誰でもいいや」
    万次郎は武道の着ているシャツを剥ぎ取るとベッドへ組み敷いた。誰がどんな風に武道を抱こうと上書きすればいいだけの事。
    「マイキー君待って! 今日もするの……?」
    「嫌なら本気で抵抗して」
    「嫌じゃ、ないけど……カクちゃんは?」
    「居るよ。タケミっちの声聞かせてやりな」
    武道は本気で抵抗はしなかった。だが幼馴染みである鶴蝶が近くに居ることが羞恥心を増幅させている様で声を上げる事を我慢していた。それが万次郎の加虐心に火を付けた。武道の欲を煽るように体中にキスを落とす。触れていない所がない位に。自分の中に流れる血が沸騰しているのではと思う程に熱く興奮していた。
    「マイキー君っ……、今日おかしいよ……」
    武道が瞳に涙を溜めてそう訴えた。あぁ、狂ってるよ。花垣武道っていう男に。そして万次郎は武道を己の欲の海に沈めた。
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    sarasa_orihara

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    真っ白なシーツに覆われたベッドの上で武道は目を覚ます。ベッドサイドのテーブルに置かれたデジタル時計は朝の七時を表示している。徐々に脳が覚醒し、さっきまで見ていたものが夢ではなく現実に起きた出来事だと気づく。
    ここは梵天の隠れ家の一つで、都内のどこかにあるマンションの一室だ。組織の首領である佐野万次郎と再会した夜、彼は武道を連れ去り監禁した。更に武道が気を失っている間に右脚の腱を断っていた。銃弾を受けた背中と足の傷は丁寧に治療が施されたが断たれた脚の腱はそのままだ。左脚は健在だが一人で車椅子に乗り移れる事が出来る位で一人では歩けない。着替えもままならず身に纏えるのは大きめのワイシャツと下着のみ。逃走しようにも現状ではマンションの外に出たところで捕まるだろう。だからという訳ではないが武道はここから逃げ出したいと思った事はない。過去にタイムリープ出来ないなら、現代で佐野万次郎を救うしかないと決意したからだ。
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