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    長瀨さんの倉庫

    主にうごうごするものとか投げていきたい所存

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    長瀨さんの倉庫

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    これ書いたの2009年ってマジすか

    #ベナハク
    #腐向け
    Rot

    ベナハクSSクロウは言葉に窮していた。

    目の前の相手が苦手というわけではない。寧ろ心から尊敬しているし、飾らないその性格には親しみすら覚える程だ。

    それにしても、だ。
    こうも真正面から見つめられては流石のクロウでも掛ける言葉が見付からない。
    それに加え、左隣から背筋も凍るような無言の圧力。
    明らかに、機嫌が悪い。

    そんな二人の視線の中、クロウはどうやってこの窮地を脱するか考えていた。

    (声を掛けるしか、ねぇか……)

    「そ、」
    「クロウは」

    意を決して掛けようとした「総大将」の言葉は、ハクオロの声によって遮断された。
    依然としてハクオロはクロウを真っ直ぐ見据えたままだ。

    「な、んですかぃ、総大将?」

    あまりの空気の悪さに声が上擦ってしまったが、幸いにもその揚げ足を取る者はこの場には居なかった。

    「いいな、背が高くて」
    「「は?」」

    心から羨ましそうに呟いたハクオロに、クロウとベナウィは声をハモらせた。

    そんな二人などお構いなしにハクオロはジロジロとクロウを観察している。

    「それにほら」
    「うおっ、そ、総大将!?」
    「!!」

    呆気にとられていたクロウにハクオロが抱きついた(正確には腕で胸囲を確かめているのだが)。
    ベナウィからの圧力が当社比で三割程増した気がする。否、確実に増した。

    「こんなに逞しい。私もクロウくらいの体になりたいよ」

    抱きついたまま、にへらと笑う。
    ハクオロは照れ臭そうに顔を赤らめてから「すまんな」とクロウから離れた。
    その時の顔といったら城の女性陣は元より、オボロやそのお付きの双子すら黄色い悲鳴を上げそうな程だった。

    マズイ。これは、マズイ。
    クロウの背に悪寒が走る。

    最早、ベナウィの機嫌は最悪だった。

    「あー、なんて言いやすか……、総大将は今のままで充分だと思いやすぜ?」
    「そうか?いや、しかしだな……」
    「クロウの言う通りですよ、聖上」

     クロウが言葉を選びながら発していると隣からベナウィが抑揚のない声で助け舟を出した。その口元こそ穏やかな微笑を湛えてはいるが、如何せん目が、笑っていない。

    「ベナウィ?」
    「聖上までクロウのような体になってしまわれては暑苦しくてなりません。——唯でさえクロウとオボロが並ぶだけでむさ苦しいことこの上ないのですから」
    「大将……」

    最上級の笑顔で悪態をついた上司にうっかり涙が出そうになった。

    (そりゃないっすよ、大将……)

    どうもハクオロが絡むとベナウィは機嫌が酷く上下する。例えそれがどんな些細な事でも、だ。

    (まぁ、大将的にとっちゃそのままの総大将でいて欲しいんだろうけどなぁ)

    前皇時代では有り得ない程の表情の変化。ここに来て、というよりもハクオロに出会ってからはとても良い顔をするようになった。
    その証拠に、

    「そうかな……。……うん、それもそうだな」

    暫く考えていたハクオロがベナウィに柔らかい満面の笑みを向けた瞬間。

    「……はい」

    それまでの不機嫌さはどこへやら。頬を淡く朱に染めたベナウィが幸福そうに目を細めた途端、剣呑な雰囲気から一転して甘ったるい空気が部屋を満たした。

    (あーあー、嬉しそうな顔しちゃって……)

    朗らかな空気と甘い空気とに板挟みにされたクロウは、酷く居心地が悪かった。

    「そうだ。ベナウィ、クロウ」
    「は、」
    「何でしょう、総大将?」

    ベナウィに笑い掛けていたハクオロが良いことを思い付いたと言わんばかりにポフン、と手を打ち鳴らした。

    ハクオロは先程と同じくらい——或いはそれ以上——に優しく微笑むと、

    「折角こんな早く政務が終わったんだ。良かったら一緒に城下を回らないか?」

    提案した。
    二人に。

    クロウの背に、再び訪れる冷気。
    隣のベナウィを横目で見やると先程以上の鋭い視線がクロウを貫いた。

    その目が語っている。

    断れと。

    「あ、あーっと!すいやせん総大将!俺これから小さい姐さんとハチミツ取りの約束があるんでさぁ!」
    「アルルゥと?意外な組み合わせだな?」

    当然、嘘である。しかしアルルゥとの約束はこれから付けても事足りる。
    二人が並んでいるところを想像しているのか、ハクオロは顎に手を当てて難しい顔をしている。

    暫くして、ハクオロは顔を上げると

    「そうか……。すまんな、アルルゥに付き合わせて」

    納得したらしく、少し申し訳なさそうに笑った。

    「いいってことです。こっちも楽しんでやすから」

    嘘がバレないかと冷や冷やしたが、どうやら杞憂に終わったようだ。

    「クロウは駄目か……。ベナウィも何か用事があったり、するのか?」

    不安そうな眼差しでベナウィを振り返る。
    その姿に微笑ましさを覚えながら、ベナウィはゆっくりと笑んだ。

    「いえ、これといって用事は御座いません。僭越ながら、御供させて頂きたく思います」

    その言葉を聞いて、ハクオロは至極嬉しそうに目を細めた。

    「そうか……良かった。久しぶりの休みにたった一人で城下を歩くのも味気ないからな」
    「そう、ですね」

    ハクオロの他意のない言葉にベナウィの声が少しだけ低くなったのをクロウは感じた。

    (総大将も天然だからなぁ……)

    それを知ってか知らずかハクオロは上機嫌に続ける。

    「それにしても、ベナウィと二人で出掛けるのは久し振りだな」
    「そうですね、近頃政務や戦で暇がありませんでしたからね」
    「ああ、そうだな。それじゃあ、クロウ。私達は出掛けてくるから、アルルゥを頼むぞ」
    「ういっす」

    ハクオロが戸の近くに立つクロウの隣をすり抜け、その後ろにベナウィが続く。
    丁度、ベナウィとクロウがすれ違う瞬間。

    「貴方にしては、上出来でしたよ」

    ハクオロに気付かれないような、それでいてクロウにははっきりと聞こえるような声でベナウィが呟く。
    口元に不敵な弧を描くと、若い侍大将は主に続いて部屋から出て行った。

    「そりゃ、どうも……」

    残されたクロウは盛大な溜め息を吐いてから暫く立ち尽くしていたが、やれやれと呟くと静かに部屋を後にした
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