静かな夜の裏側で 今日も山内は平和である。時折猿の生き残りが現れるものの、すぐ鎮圧できており犠牲も少なくてすんでいる。20年前にあった、里一つ分犠牲になるような事件は起きていないし、これからもないだろう。
なんたって、あの英雄である雪斎様とその片腕がいらっしゃるのだ。山内の最盛期はいつかと聞かれれば、今であると自信を持って言える。地震、魔薬等で不安定だった山内に平安を、繁栄をもたらしたのは彼が率いた山内衆だ。あの大戦で命を落とした者も、生き延びた者も関係なく、戦い、勝利を勝ち取った彼らは間違いなく語り継がれるべき英雄である。あの光に照らされたかつての参謀様を見て、幼いながらにああなりたいと思った。買ってもらった綺羅絵はいつでも持ち歩き、山内当世風俗通は擦りきれるまで何度も読んだ。おかげで字だけは覚えるのが早かったと、親に呆れたように言われたものだ。
1867