零の様子に目ざとく反応した簓が、「なんやなんやぁ」と言いながら、ラジオブースで向かいに座っている零に詰め寄り始める。
「なんやねん零、俺らの方言使うの嫌なんか?どうせラップするときは使いよるやろ!」
「…んん~?俺は別に嫌じゃねえけど…盧笙はどうなんだよ。良いのか?」
「は、俺?なんでやねん」
苦笑いで尋ねる零となぜ名指しされたのか分かっていない盧笙とが揃って首を傾けた。当人同士が分かっていないらしい姿を見た簓もまた首を傾けたので、狭いラジオブースの中でどついたれ本舗の全員が首をかしげている、おかしな光景になっていた。
話し込み始めた三人を見たスタッフが、何かトラブルが起こったのかと心配そうに様子を確認しに来る。そのスタッフに問題はないと伝えてから、簓はチラと時計を確認して、収録時間までに余裕があることを確かめ、改めて零に向き直った。
「まずは零の主張から聞こか!なんで盧笙に嫌がられると思っとるん?そりゃまあお前は、盧笙をなにかとからかったり、詐欺ったり、家に入り浸って酒飲んだり、合鍵使って不法侵入したりしよるけど…」
「最後の2つは簓にも当てはまんじゃねえのか」
「オホン!それはまあ置いといて」
指摘を空咳ひとつでかわした簓に呆れた顔をした零だったが、ずっと物言いたげな顔をしている盧笙に対して、説明をするために口を開いた。
「…何ヵ月か前に、3人で酒飲みに店行ったろ。あの…ツマミの餃子が旨かったところ」
「ああ、あそこな!」
「だいぶ前やな」
2人が各々頷いたのを見て、零は話を続ける。
「その店、カウンター席のそばにテレビが置いてあったの、覚えてるか?」
「せやっけ?」
「あー、言われてみれば…?っていうか、それ関係あるんか?」
「ある。むしろこっからが話の本番だ」
疑わしげな盧笙に頷いてから、零が重々しい雰囲気でそう言ったため、簓も盧笙も雰囲気に気圧され座り直した。
「飲みの途中で、簓が仕事の電話とかで5分くらい席外しただろ」
「そんな細かいこと覚えてへんけど、まあお前が言うならそうなんやろうな」
「…その日は店のテレビで何かのバラエティが流れてたんだが、簓が席外してるときの5分で、番組の中でネタが始まってよぉ…」
「なんのネタ?」
「関西弁いじり」
「「あー……」」
盧笙は当日のことを思い出したからか、簓は事の顛末に察しがついたのか、2人は揃って納得した声を上げた。ちょいと盧笙を指で示した零が、話を締め括りにかかる。
「そん時の盧笙が、別の地方出身者が関西弁使って話してるのを聞いて、『けったいな言葉使いよって…』って、スゲー低い声で言ったんだよ。コイツの前で関西弁使うのは必要最低限にしようと誓ったね」
「いや!それで誓うんはおかしいやろ!!」
わざとらしく両腕を抱くようにして怖がる動きをした零に、盧笙が異議を唱えて立ち上がった。
「アレは関西弁バカにしとるのが雰囲気で分かったやろ!自分が普通や思うとる言葉バカにされたら普通に腹立つわ!」
「うーん…俺は番組見てないけど、それはもっともやな」
盧笙をなだめて座らせた簓が、盧笙の言葉に同意した。そのまま言葉を続ける。
「普通に話しとる時にポロッと使われても全然気にならんけど、未だに方言バカにしてくる奴はおるし、そういう奴が使ったらこっちバカにしとるん伝わってくるもんなぁ」
「せや…俺は、別に方言使うことに腹立っとるわけやないねん」
いくぶんか落ち着いたらしい盧笙が肩で息をしながら、零に向き直り口を開いた。
「俺は、お前が『どついたれ本舗の一員です』って胸張って堂々としとるなら、たまに関西弁使ったってなんも言わんし、思わん。」