悪党番 登録名メモリの記録小さなホワイトノイズの向こうで軽やかな笑い声がする。それだけを聞けばまるで公園かどこかのようだが、実は違う。小さなボイスレコーダーがこれから流すのはある拡正義が秘密裏に録音した悪党番の声。合間見えた拡正義曰く、その悪党番の様相はわずか10歳に満たない少女のようにみえたそうだ。
…こんにちは。
わたしね、あなた達に聞きたいことがあったの。やっと会えたから、わたしに教えてくれる?
ねぇ、どうしてわたしを助けてくれなかったの?
わたし、がんばってぎゅってしてた。おかあさんが大きなお声でわたしを怒ったときも、おとうさんが大きなお手手でわたしをぶったときも。ずーっと思ってた。だれかたすけてって。
あのね、おかあさんとおとうさんが大きな声を出すときは…出さない日は、あんまりなかったけど。うでと足をぎゅってしておいのりするの。早くおわりますようにって。
それが、わたしのいつも。
でも、その日はちがった。
おかあさんとおとうさん、にこにこしててね。ここにいてねってお姫さまがいるおへやみたいなところにつれて行ってもらったの。おかあさんもおとうさんもずーっとにこにこしててわたしうれしかった。少してね、おじさんが来たの。みたことないおじさん。その人は、その人たちはわたしにたく山さわった。
いやだって言ったよ。やめてって。でもおじさんたちはやめなかった。そしたら、おじさんはあたしに痛いことをしたの。おとうさんがぶつのとはちがう、痛いこと。とっても痛くておなかからわたしがやぶけるかとおもったくらい。そのときわたしがんばってとっても大きな声で言ったの。おかあさん助けて、おとうさん助けて、だれか助けて。でもだれも来なかった。
体の中も外もたく山痛くて痛くて。たく山声をあげて、たく山じたばたしても何もかわらなかった。だからもうがんばることをやめたの。でも、わたしは死ななかった。
次に目をあけたら、おじさんたちもおとうさんもおかあさんもいなくて、ママがいた。ママはね、血まみれだったけどとってもとってもきれいで昔おかあさんがよんでくれた絵本にでてきたおきさきさまみたいだった。
おじさんも、おじさんのお友だちも、おかあさんも、おとうさんもママが殺してくれたの。だから、わたしを助けてくれたのはママ。ねぇ、おしえて。どうしてあなたたち(拡正義)はわたしをたすけてくれなかったの?
……うん、前にきいた人も同じことを言ってた。仕方ないって。じゃあ、わたしがこの人たちを殺すのも、仕方ないって思わない?
ちがう?じゃあどうしてわたしを助けてくれなかったの?わたしがおかあさんとおとうさんに、あいされなかったから?
ねぇ、どうして?
あ。
そっか!わかった!あなたたちよりママのほうがつよいからでしょ?助けてくれなかったんじゃなくて、助けられなかったんだ!あなたたちが弱いから!
ママの方があなたたちよりずうっと強くて、みんなの力になって、やさしくて、たく山のことを知ってるもん、仕方ないよね。うんうん。
わたしもね!たく山たく山おしえてもらったよ!今からあなたで見せてあげるね!」
「人間の殺し方」
これを持ち帰った拡正義は、五体満足ではあったものの半身半生で帰ってきたのだそうだ。未だ療養中で、復帰の目処は立っていないとか。
この声の持ち主は、その軽やかな声で自分はメモリだと名乗った。私はメモリ…
「ママが助けてくれた、ママだけのメモリ」
悪党番所属、登録名「メモリ」の記録。