No TITLEざわざわと姫君達の声が聴こえる。
開演前に流されたBGMはレオがわざわざ書き下ろしたもの。少しずつテンポを速めて鼓動にリンクさせ期待感を煽っていく、レオはやはり天才なのだなと司は己の胸に手を当てて思う。
刻刻と迫る緊張に息を吸って吐くのも一苦労だ。
積み重なった歴史を背負う。時代を担う。
(私が壊すわけにはいかないのです……絶対に)
照明が落とされた会場にサイリウムの光が揺れて待ち焦がれているのが見える。期待を孕むカウントダウン。
コクリと唾を飲み込んだ司の肩にポンッと手が触れられてビクリと振り返ると自信に満ちた凛月の横顔が通り過ぎていく。反対の肩にも温かい温度が触れて見上げると嵐が片目を閉じて合図を贈り、直ぐ様に凛月の後を追っていった。次いでペシリと後頭部を叩かれて少し前のめりにされると司は文句を挙げたくなったが、お構いなしに泉は鼻で笑うように司を見て真っ直ぐに舞台中央へと勇む。
むぅと唇を尖らせ頭を撫でた司はそれでも悲鳴のような歓声が上がる舞台を誇らしげに見つめた。
眩しいスポットライトを浴びて力強い歌声を響かせる先輩方は世界で一番美しい。華麗で鮮やかで優雅。理想の塊。
けれど、焦がれているだけでは虫と同じ。共に戦う騎士となった今、手を震わせ足を竦ませている場合ではない。
チラリ、後方に視線を送ると思っていた以上に近い距離にレオの顔があって驚く。勢い良く振り返っていたら確実にぶつかっていた距離。身長も然程変わらないから、バチリとぶつかった視線が気まずい間を生んだ、と思いきや、レオはふにゃりへにゃりと溢れそうな笑顔を司に向けてその間を埋めてしまう。
「締まりが無いですよ……レオさん」
あまりに緊張感の無い笑顔に司は脱力して肩の力が抜ける。何だか呼吸がしやすくなった気さえした。
「だっておれ達が笑ってないとお姫さまだって笑えないだろ?だからスオ〜も笑え!」
司の両の頬をレオに摘まれて、ムニムニと弄ばれると司も仕返しとばかりにレオの頬を抓る。
「レオさんはだらしなさ過ぎます!」
戯れ合っているとレオの笑顔は少し変化して急に大人びた表情をする。司はそれにまたドキリとしてレオの頬から手をするりと離した。離れた手を追うようにレオの手に掴まれてぎゅっと握り込まれる。
「大丈夫だよ。おれは、おれ達はみ〜んなお前の味方だ……楽しもう、思いっきり遊ぼう!」
「……仕事ですよ」
精一杯の強がりも笑顔と共に手の中に握り込まれて司は決意を新たに笑顔を作る。
「さぁ、行こう」
「えぇ、行きましょうか」
光と音の洪水に飲み込まれていくレオの背を見失わないように確実に足を踏み出す。一際大きな歓声が上がった。
偉大なる王の後を継ぐのは恐怖だってある。己の未熟さに石を投げられるかもしれない。
(けれど、私は一人ではないのです)
レオが走って一番端に辿り着くのを見つめながら司は堂々と中央へと歩んでいく。
騎士たちはまるで敬礼をするように一人一人司に右手を差し出してゆく。司が舞台の真ん中に辿り着くと同時にレオの右手が差し出され、最後に司が右手を天に掲げると王の誕生を祝うメロディーが流れ出した。
未だ発展途上、伸び代しかない。温かな視線と喝采の祝福を受けて今、此処から……。