『いたずら』「やあ、ツインズ。」
検査室に入ろうとしたふたつの背中に向かって声を掛ける。
「なあに?」「なに?」
それぞれ白のズボンに緑のパーカー、黒のズボンに紫のパーカーを着た双子たち。
同時に振り向いた2組の双眸が、じっと俺を見上げた。
「今から検査でしょ?そのまま行っても構わないけど、ちゃんと自分が『どっち』なのか自己申告しないと、みんな分からないと思うよ。」
自分の服をトントンと指で示しながら、言う。
俺の言葉に、目の前のふたりは顔を見合わせた後、鏡合わせのような動作で首を傾げた。
「おかしなことを言うんだね、先生。おれはシオンだよ。」
「で、ぼくがハル。…珍しいね、ぼくたちのこと見分けられないの?」
心底不思議そうに口を揃えるふたりに、そっと首を横に振る。
「駄目だよ。どのみち、検査の結果を洗えばすぐに分かっちゃうから。そうしたら、怒られて困るのは君たちだろう?」
言い終わるか終わらないかのうちに反応を零したのは、緑のパーカーを着た弟の方だった。
「チッ、やっぱり駄目かぁ。」
「…ごめんね、ハル。ばれちゃった。」
それを見て申し訳なさそうに謝る、紫のパーカーを着た兄の方。
「普段だったら笑い話で済むけど、どうして今回は検査の日なんて洒落にならないときに入れ替わったの?」
お互いの服を着てお互いに成りすましていたふたりに、純粋な疑問を放つ。
「……………」
幼い瞳が恨めしそうに俺を睨んでくる。
「あのね、…ハルが、注射、怖いって。…だから、おれがハルの代わりに2回注射すればいいかなって思って。おれが、ハルに言ったの。」
そんな顔しちゃダメだよ、と、弟に向かって付け足している兄の姿に、随分と健気なものだと思う。
「まあ、相手のことを考える気持ちは大切だと思うけどね。今度からはタイミングと、その後の結果までもう少し予想してみると良い。」
「はーい。…それにしても先生はすごいね。おれたちが何を着ていても、どんなときでも、すぐに見分けられる。何かコツがあるの?」
今度こそ本心から不思議そうに首を傾げる兄の方。そして、その隙に俺に向かって舌を出す弟の方。
「いや、特に何も無いよ。…強いて言うなら、よく『視る』ことかな。」
「ふぅん…」「へんなの。」
「まあ、俺のことは置いておくとして。ほら、もう時間だろう?そろそろ行った方が良いよ。」
「あ!」と同時に跳ねた身体が、ぱたぱたと走り去っていく。
今はまだあまり表面化していないけれど。この子たちも、双子とはいえ性格まで完全に一致しているわけではない。
いつか、袂を分かつのだろうか。
徐々に遠くなる、仲良く揃った4つの踵の音を聞きながら。そんな未来が、頭を過ぎった。