ある雨の日 重苦しい灰色の空。湿り気を孕んだ温い空気。
『あー。今日は、東京から来た転入生を紹介する』
途切れることない雨に似た、薄暗い目の男の子。
『阿藤春樹君だ。みんな仲良くするように』
梅雨が始まった最初の日。
長く続く雨を連れて、『彼』はこの町にやってきた。
「~~~っ!」
「~、~~!」
内容は聞き取れないものの、確実に罵声とわかる響き。すぐ隣の階段を駆け上がってくる誰かの足音。そこに階下の廊下を走る複数の音が重なれば、起きている事象は確定だ。恐怖に跳ねた身体を抑え、私はカウンターから立ち上がった。
この図書室は階段のすぐ隣だ。先生たちによく叱られている乱暴者のクラスメイト達は、本棚や机をアスレチックとみなしている節がある。だから本当はよくないけれど、扉を閉めて鍵をかけたい。扉が開かなければ彼らも諦めて別の場所に行く。
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