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    おたる

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    おたる

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    ドクユニの死神(落語)パロ一部だけ 死神に連れていかれて蝋燭の火を移すまで
    完成できたら本にするかもしれない

    ##マイハ

    [現状のあらすじ]
     路地裏で死神(ドクター)と出会い、他人に付いた死神が見える力と死神を追い返す呪文を授けられたブラック。別段人助けをするでもなく力を持て余していると、エイの具合が悪いのだと連絡を受ける。珍しいこともあるものだと見舞いに行くと、エイの枕元には死神がいた。足元の死神ならば消すことができるが、枕元のには呪文は効かない。どうすれば助けられるかと悩んでいると、一つの方法を思いついた。
     エイをの身体を回転させれば、枕元の死神は足元に行くのでは?
     結果は大成功、エイは元気になって安堵するブラックであったが、そこに死神(ドクター)が現れた。

    ====

    「きみがあんなことをするものだからびっくりしちゃった。でも残念だったね、寿命の帳尻は君のもので合わせてもらうよ」
     そう死神は言い、ぱちんと柏手をひとつ打つ。そうすれば周りの景色は一変し、蝋燭だらけの薄暗い蔵のような場所にふたりは立っていた。
     鉢植えでも載せるような棚の上にずらりと、多種多様な太さや形の蝋燭がひしめき合っており、蔵の果てが見えない程にびっしりと並べられている。現代社会ではまずお目にかかることはないであろうその異様な光景に男が息を飲んでいると、死神はその中のひとつを指し示した。
     指の先を辿れば太く長い蝋燭──と今にも消えてしまいそうな蝋燭が二つ隣り合っていた。太い方の蝋燭にはエイの、短い方には男の名前の書かれた紙が貼り付けられている。
    「ここにある蝋燭一つひとつは君たちの寿命なんだ。この蝋燭が燃え尽きればその人は同じように命を落としてしまう」
    「へぇ、それでこの小せぇロウソクが俺のって訳か」
     男は半信半疑といった様子で死神へ問う。急に不気味な場所へ瞬間移動をしたと思えば余命宣告のようなことをされたりと、男にとってはにわかに信じがたいことが立て続けに起こっているせいか、今一つ信じきれないでいる様子だった。
    「そう。本当はこの太い方が君のだったんだけれど、さっき君が死にかけの彼をひっくり返して死神を追い返しちゃったでしょ?だから君の蝋燭も彼のとひっくり返っちゃたってわけさ」
     くすくすと笑いながら目を細める死神に、男は苛立ちを覚え始める。
    「意味が分からねぇし冗談にしたって笑えねぇ話だ、俺はタチの悪いドッキリに真面目にリアクションしてやる気なんてねぇんだが?」
    「おやここまで来てまだ信じていないのかい。ちゃあんと説明してあげたのに酷いなぁ」
     死神がわざとらしく悲しむふりをして、小さい蝋燭を指でそおっとなぞり上げたその瞬間、男の身体にとてつもない悪寒が走った。背骨に氷を詰められるような悪寒と、腹を開かれて内臓を直接かき回されるような不快感が男を襲う。
     あの蝋燭は本当に自分自身の命、魂なのだろうと理解してしまった男は恐怖に苛まれた。青い顔をして冷や汗を流す男を満足そうに死神は見つめる。
    「それじゃあわかってもらったところで話を続けようか、本題はこれかだからね。」

    「今回君がしたことはわたしとしても完全に予想外だったんだ。あんな突拍子もない事、普通じゃあ思いつかないし思いついたとしても実行しようとだなんて思わない。そうでしょ?」
     小馬鹿にしたような物言いでにっこりと笑う死神に再び怒りがこみ上げ、男の拳には力が込められる。
    「見事死神を出し抜いたご褒美という訳じゃあないけれど、君にひとつチャンスをあげようかと思ったんだ」
     まあいらないのなら無理にとは言わないんだけど、と男の拳をじっとり見つめれば、やはり命を失う恐怖は怒りへ勝るらしく、男はしぶしぶといった様子で両手を上げた。

    「君が助かるにはさっきと同じことをすればいい。つまりは君の蝋燭に点いている火を他の、新しい蝋燭に移してやれば君はまだ生きていられるってことさ」
    「本当にそんな事ができるのか?」
     あの時は無我夢中でやったことではあるが、男が『いかさま』をしたことは自分自身がよく分かっている。だからこそ死神の言っている事が理解できなかった。罰を与えるならばまだしも、この死神は自分を助けてくれるような物言いをしている。困惑する男をにやにと見つめながら、再び死神は口を開く。
    「わたしは面白いものが好きでね。これはいいものを見せてくれた君へのお礼であり、これからもっと面白いものが見れると思っての投資のようなものだと思ってくれればいい」
    「これからだと?」
    「そう。ただ火を移してあげるだけじゃあつまらない。これは君の命だし、君にやってもらおうかと思ってね」
     死神は手袋を着けると男の名の付いた蝋燭をひょいと取り、男の手のひらへと乗せた。

     何の変哲もない小さな蝋燭であった。薄暗い部屋を仄かに照らす赤い光、手へと伝わる温かさが、今起こっていることは夢などではなく現実であることをありありと伝えて来る。
     焦燥のままに蝋燭と向き合えば、汗が伝うようにとろりと蝋がひとすじ垂れて落ちた。「はやくしないと溶けてしまうよ」と厭に落ち着いた死神の声が、死の予感と共に脳へと滑り込んでくる。
    「それじゃあ改めて聞こうか。この挑戦、やってくれるかな」
    「──ああ勿論だ。やってやろうじゃねぇか」
     すると死神は何処からか木箱を引きずり出してきた。木箱の中には大小太さ様々な蝋燭がごろごろと詰め込まれている。その中の一つを男は乱暴に引ったくると、そおっと自らの蝋燭へとかざした。

     真新しい蝋燭の芯は蝋をまとっており、ちょっとやそっとじゃ火は点かない。じりじりという音と共に漂う蝋のにおいは果たしてどちらの蝋燭からか、男は瞬きも忘れて蝋燭たちを凝視している。ほの温かく周りを照らす小さい火は、今の男にとってはさながら地獄の業火のようであった。
     男の手が震えるのに合わせて小さな炎はその身をくねらせる。炎がゆらゆら消えかける度に男の喉がひゅうと音を立てて停止する。これが消えれば命も尽きるという思いが男の身体を重く、鈍くさせる。ぐるぐるととっ散らかった思考に合わせて手もさらにがくがくと踊り出した。
     ああなんでどうして俺はこんなことになってしまったのだろうかと男は絶望するが、やめてしまおうとは一切思わなかった。むしろ死の予感は彼の原動力となり、帰らなければならないという思いをより一層強くさせた。
     男は潜水の準備をするように息を大きく吸って、そのまま止めた。すると先ほどまで震えていた男の手は凪いだ海の中にいるようにぴたりと静止し、ふたつの蝋燭をまっすぐ見据えた。

     心の中で名前を呼んだ。絶対に帰ると誓うように仲間の、幹部の、家族の名前を呼んだ。神さま仏さま死神さまと祈りを捧げられるものには全て祈った。
     小さな蝋燭がついに芯だけとなり、ぱちんと小さな音をひとつ立てて燃え尽きたその瞬間、真新しい蝋燭に火が灯った。
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