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    katkontou

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    katkontou

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    よく分からないパチョフィン

    悲しい目にあった時に飛び蹴りをする彼の話 寮に帰ろうと放課後の廊下を歩く。マッシュ君は近くにいない。今日行われた抜き打ちテストでひどい点数を取ってしまったらしく、とうとう補習へと引き摺られてしまったのだ。
     一人で帰るのが久しぶりな気がするな、と思いながら足を動かしていると目の前から男子生徒三人が話しながら対面から来るのが見えた。彼らの顔に見覚えがある。内部進学組だ。リーダーの男は粗暴で取り巻き達もあまりいい人柄とは言えず。……彼らと顔を合わせた事もあったがいい思い出はない。
     嫌な予感がしたけれど、迂回するにはだいぶ引き返さなければいけない。仕方なく視線を下に向けながら僕は空気だと言い聞かせて歩く。
     彼らとすれ違った瞬間に右足に何かがぶつかって転んでしまった。グループのリーダーらしき人物がこちらを見て嘲笑う。どうやら足をかけられたのだ。膝に痛みを感じながら立つと、彼らはクスクスと笑いながら歩いて行った。その姿を見て昔を思い出す。マッシュ君達と友達になっていない頃、弱くて言い返す事もやり返す事も出来ない自分はこういう目によく遭っていた。マッシュ君達がいる時にはされなくても、こうして一人になった時はこうした小さな嫌がらせはまだある。それでも我慢しているのは、偏に反抗した時に生意気だとひどい仕打ちを受けたから。言い返したりすのにもやっとなのに、大変な目に遭わされるのだから、自分だけが対象なら我慢する方がよっぽど楽だった。
     早く自室に帰ろうと膝の砂を払うと後ろから悲鳴が聞こえた。驚きで「ヒェッ」と声が漏れ出た。
     後を振り向くと、そこには倒れている男子生徒とその彼を踏んでいる者がいた。真紅の髪に同じ色をした無感情にも見える瞳ーカルパッチョ・ローヤンだ。緑色をしたローブの端が揺れている。倒れている男は気絶したようでぴくりとも動かない。
     動揺して声が出せない僕と同じく、取り巻きも口をパクパクと動かしやがて小さく掠れた声を出した。
    「…カルパッチョ・ローヤン」
     その声に何も答えず、カルパッチョは男子生徒達を見回すと一人一人に…何と飛び蹴りをかましていった。
     その動きがとても鮮やかだったので、カルパッチョって魔法だけじゃなくて接近戦も強いんだなぁ、内部進学一位は伊達じゃないなんて場違いにも思ってしまった。グループを薙ぎ倒したカルパッチョはボーッと見ていた僕を視線を合わせると、キュッと目を細めた。シンプルに恐すぎる。
     カルパッチョに射すくめられた僕は肩をビクリと震わせるだけだった。足が震えて動けないからだ。そんな僕をよそにカルパッチョは足元にあった頭を腹いせのように蹴るとこちらに向かってきた。
    「フィン・エイムズ」
    「……はい」
     助けてくれ。
     その思いと恐怖でいっぱいながらも何とか返答する。無言であったなら無視と捉えられて何をされるか分かったモノじゃない。そんな考えの元ようやく絞り出した声を聞いたカルパッチョはしかし、しばらく僕をじっと見つめると口を開いた。
    「君、どうしてやり返さないんだよ」
    「…へ?」
    「君の固有魔法は自分と相手を入れ替えるやつだろ。それを使えばわざわざ痛みなんて負わなかったのに」
     そう言った僕の顔は誰が見ても間抜け面だったと思う。カルパッチョの声は憮然としながらも心配するような響きを伴っていた。
     幻聴かな?その思いが表情に現れたのだろうカルパッチョが僕の頭を鷲掴んだ。
    「いたたたっ、いた、ごめんなさい、ごめんなさい。本当にすみませんでした」
    「何に謝ってるんだ」
    「分からないです」
    「は?」
    「すみません!すみません!どうして怒ってるのか分かんないけど!謝るからそれ以上力を込めないで!」
     僕の泣き言で少しは溜飲を下げたのかカルパッチョは鼻を鳴らして手を離した。
     その呆れた表情に何なのだと言いたくなるが黙っておいた。しかしそんな僕の賢明さも虚しく今度は両頬を片手でグッと掴まれる。挙句にグリグリと指を動かされた。頭よりも弱めの力だがそれでも痛い。
    「君、何でやり返さなかった。試験の時はあんなに僕に歯向かってきた癖に」
     苛立った声だ。きっとカルパッチョは僕が試験の時に逆らったのに自分よりも弱い人間にされっぱなしなのが気に食わなかったのだろうか。でも僕の中でそれの理由は明確だ。
    「…試験の時はマッシュ君も関わっていたから。でも、さっきのは僕だけが標的だったから。僕が耐えればすぐ終わるんだ。やり返した方が後で酷い目に遭うのはもう知ってる、から」
     何となく言い辛くて、僕は顔を動かせない代わりに視線を落とした。カルパッチョの目を見られなかった。どうしてか漠然と失望されたくないと思ってしまった。元々大した評価じゃないだろうに。
     居心地の悪い沈黙が続く。どうか早いところ僕に飽きてはくれないだろうか。このままではみっともなく泣いてしまいそうだ。
     鼻をすんと啜るとカルパッチョから少し慌てたように手を離して…僕を抱き込んだ。
     何が起こったんだ、という思考の隅でふわりと漂った香水が品があっていい香りで、それでいてカルパッチョに似合うなと薄ら思った。
    「泣くなよ、僕が虐めているみたいだろ」
     カルパッチョはまるで慰めるように僕の背中をぽんぽんと叩いた。痛みの分からない彼の精一杯の気遣いだろうか、恐る恐るといった手つきだ。その優しさが思わず沁みて、とうとう僕の目から涙が溢れてしまった。我ながら惨めで、止めようと必死に拭う甲斐なくやがて嗚咽まで出てきてしまった。本当に、みっともなくて情けない。
     それでも何とか泣き止もうと目を擦り続けていると、手首を掴まれた。視線を上げるとカルパッチョは困惑した表情をしている。
    「君は、人の為にじゃないと歯向かえないのか」
    「…?」
    「じゃあ僕が代わりに歯向かってやる。君の為に」
     思わず涙が止まってしまった。何を言っているんだろうか、カルパッチョ・ローヤン。頭でもぶつけたのだろうか。
    「何だよ、君の為にやってやるって言ってるんだから感謝の一つ位してみたらどうなんだ」
    「あ、はい。ありがとう?」
     疑問系になった。いや誰だってそうなる。正直にカルパッチョが何を言っているか理解出来ない。いや言語自体は聞き取れるのだけど、言っている意味が把握出来ない。怖い。
     そんな僕を気にもせず満足そうにすると僕の腕を引いて歩き出した。アドラ寮の方向だ。
    「カルパッチョ?」
    「折角だからアドラまで送る」
     そう言ったきり無言で僕の腕を引いたまま歩みを進める。
     廊下に二人分の靴音が響く。さっきまでと同じく静かなのに、何故か嫌な気分にならない。それどころか過ごしやすいとすら感じている。カルパッチョの行動はよく理解不能な事ばかりだけど、それでも僕の事を思いやってくれているのだけは分かる。訳が分からなくても嬉しい。
     やがてアドラ寮の入口に着くとカルパッチョは僕の腕を離した。
    「それじゃあ」
     カルパッチョは踵を返す。後ろ姿に慌てて声をかける。
    「ありがとう、カルパッチョ」
     何も言わないままカルパッチョは進んで、やがて見えなくなった。多分オルカ寮に帰ったのだろう。
     自室に帰ると、急に体が重くなりベッドに倒れ込んだ。色々な事が短時間で詰め込まれて疲れてしまった。そのままぼんやりと寝転がっていると奥の方でガチャリと扉を開く音が聞こえる。マッシュ君が帰ってきた。トタトタと寝室の方に足音が聞こえたかと思うとドアが開かれる。珍しく疲労困憊と言ったマッシュ君におかえりと返したかったが、とてつもない眠気で出来なかった。
    「フィン君、大丈夫?」
     返事をしないと、あと制服を着替えないといけないな、なんて考えながらも襲いくる睡魔に抗えず目を閉じた。
     明日からどうなるんだろうか。

     次の日の朝、気を張った割にはカルパッチョは何もしては来なかった。それどころか姿も見なかった。何故なんだろう。マッシュ君達が近くにいて僕が何もされなかったからか、それとも一日で僕に飽きたのか。どちらもありそうで、そのどちらでもない可能性がある。内部進学一位の思考回路を読み解くのは落ちこぼれにとって中々厳しい。
     図らずもその考えの答え合わせをする機会はすぐに訪れた。
     昼休みに飲み物を用意するのを忘れた僕は一人購買へ向かった。昨日の僕の様子が変だったのでマッシュ君は気遣わしげについてきてくれようとしたが、断った。マッシュ君に悪い気がしたのと、たがだか飲み物を買うだけだと楽観的に考えていたのもあった。それが悪かった。
     昨日カルパッチョに散々な扱いを受けた男子生徒達と遭遇してしまった。僕は彼らに引きずられるように空き教室に連れ込まれた。僕を壁際に追いやると彼らはカルパッチョにやり返せない鬱憤をぶつけるように口々僕を罵った。一瞬言い返そうとしたが、口を閉じる。僕が我慢すればいいのだ。
     そう思って無抵抗でいる僕に良い気になったのか、杖を取り出して呪文を唱える。頭のすぐ横に点った火に小さく悲鳴を上げた。それに気をよくしたらしい彼らは思い思いに魔法を使ってきた。直接身体を傷つけはしないが、スレスレを攻撃されるのは恐怖だった。いつ彼らが気の迷いをおこして僕を直接攻撃するかも分からない。
     逃げようとすると目の前に衝撃が訪れる。僕はただ身を竦めて彼らが去っていくのを待った。笑いながらリーダー格の男が杖を見せつけるように振った。周りの取り巻きはそれはまずいだろと茶化すように言う。止める気などさらさらない口振りだ。
     いよいよ僕に杖を突きつけ呪文を口にしようとした時。ダダダと誰かが走ってきたかと思えば目の前の男が吹っ飛んだ。
     昨日のように男を踏みつけているのはカルパッチョだ。男を見下ろす眼は無機質ながらどこか苛立った様子だ。しかし、まさか本当にカルパッチョが来てくれるなんて、と驚く僕を他所にカルパッチョは残りに視線を向けた。見られた彼は狼狽した様子で言い募る。
    「な、なんでお前がエイムズを庇うんだよ!お前だってコイツの事嫌ってただろ!」
     カルパッチョは首を傾けこきと鳴らすとまた跳び蹴りをかましていった。逃げる間も無かったのだろう数秒後経った頃に立っているのは僕とカルパッチョだけになった。
     彼は僕の方に向き直ると杖を振った。焦げ臭さが消えている。見るとチリチリになってしまった髪先が元に戻っていた。この魔法、たしか上の学年で習うようなものではなかったか。
     思考を他所に飛ばしていると不意に声がかかる。
    「おい、フィン」
    「はい」
    「なんでしょうか」
    「僕に何かないのか」
     カルパッチョが何か言いたげにこちらを見る。小さい子どもが褒めて欲しいと期待するような目だ。…なんか可愛い。なんだ、なんなんだカルパッチョ・ローヤン。僕はいつの間にかチャームにでもかけられたのだろうか。
    「ありがとうカルパッチョ、さっきのすごく恐かったから。助かったよ」
     思わず頭を撫でてしまった。あんまりに可愛くて手が勝手に。まずい、怒るだろうか。カルパッチョはぱちくりと瞬きをしたが、僕が手を止めると目をギッと眇めた。
    「ヒュオァ、すみませんすみません。調子乗りまし」
    「なに手を止めてるんだ。もっと僕に感謝を込めろ」
    「はぇ」
     むしろお代わりを要求されてしまった。撫でを再開する。カルパッチョは僅かに身を屈めて目を閉じた。まるで猫のようだ。試験の時あんなに恐ろしい存在だったあのカルパッチョが。
     それにしても。
    「何で飛び蹴りなの?」
    「なんとなく。魔法でもいいけど、雑魚へのハンデ代わりに」
    「はゎ…」
     人が飛ぶようなあの威力でハンデのつもりでいらっしゃったのか。何ということだろう、シンプルに恐怖以外の何者でもない。やっぱ恐怖の大王だわ。何が猫ちゃんだよ、間を取っても獰猛なライオンですね彼は。
    「楽しかった?」
    「え」
    「あいつらを吹っ飛ばしてやったろ。あの無様な姿を見て少しは楽しめたかって聞いてるんだ」
    「え、いや」
     楽しくなんてなかった、と言う前に逡巡した。彼らが吹き飛んだ時別に楽しくはなかった。それは確かだ。それでも、彼らから守ってくれたカルパッチョを見て嬉しいと、カルパッチョの軽快な姿に胸がすくようだと思いはしなかっただろうか。
    「カルパッチョがアイツらを蹴っ飛ばしてくれた時、すっごくスカッとした!すごく嬉しかった!」
     思った!嬉しくって胸がすいて仕方なかった!
     そんな万感の思いを笑顔で口に出した。そんな僕を見るとカルパッチョはぱちりと瞬きを一つ。そして微笑う。
    「そうか」
     カルパッチョってこんな風に笑うんだ。

     それからも僕が一人で何かしらに絡まれているとカルパッチョが飛び蹴りをしてくれる。人間の時は勿論、この前は課題の為に森に入って森サソリに遭遇してしまった時も跳び蹴りで撃退した。驚きを通り越してもはや無になった。カルパッチョは蹴った後にすぐ帰る事もあるが、その場に留まる事もあり。留まった時にお茶なんかに誘うと素直についてきた。その内に何もなくとも遊びに行ったりとちょっとずつ僕達は仲が良くなった、と言えるかもしれない。
     そんな日々が続く中で僕はふと疑問に思った。
     カルパッチョはどうしてここまでしてくれるんだろう。

    「知らなかったのか」
     カルパッチョは面を食らったような顔をする。確かに今更感は否めない。でもここで理由をはっきりさせないと後々になってとんでもない事になる、絶対になる。
     人知れず僕が絶対に聞くぞと覚悟を決めている間にもカルパッチョは視線を彷徨かせている。改めて見ても顔が良い男だ。僕がやれば不審なだけの行為もサマになってしまう。そういうところはずるいと思う。
     カルパッチョがふとこちらに目を向けた。真っ直ぐに見据えられた僕は思わず姿勢を正した。
    「フィンが、君が悲しそうにするから」
    「僕が?」
    「そうだ。僕はフィンが好きなんだ。だから君に悲しい顔をして欲しくなかった」
     馬鹿みたいに口を開けてしまった。カルパッチョが僕を好き?そんな事あるのか。この国から魔法が無くなる可能性の方がよっぽど現実的じゃないか。だってあのカルパッチョ・ローヤンだよ。今こんなにフランクだけどマジで試験の時ビビり散らしてたから。
    「ごめん、迷惑だった。忘れていい」
    「ま、待って!」
     踵を返そうとするカルパッチョの手首を掴んだ。このままカルパッチョをいなくならせてしまったら、もうこうして話せなくなると思った。
    「迷惑なんかじゃないよ。その、それって、友達として、僕が好きなの?」
    「違う。僕は君に恋愛感情を抱いている」
    「そうなんだ…でも、僕は君に好きになってもらえる要素なかったと思うんだけど…」
    「僕も君みたいな貧弱で弱い雑魚好きになるなんて我ながらどうかしていると分かっている」
    「好きな人に対するものとは思えないほどひどい罵倒だ…」
    「でも好きなんだよ。試験の後から気になって、見ていたら気がつくと好きになった。君がザコ共に絡まれているのを見るとイラつくし、なんか悲しくなる。痛みを感じないはずなのに、心臓が鷲掴みにされるような感覚がする」
    「カルパッチョ…」
    「フィンは」
    「え」
    「君は僕の事、どう思ってるんだ」
     僕がカルパッチョをどう思ってるか。そういえばそんなの考えても見なかったかもしれない。試験の直後ならいざ知らず。ある程度やり取りを交わした今は割と好印象だ。それでも、そういった意味で僕はカルパッチョを好きなのか。
     最初にアイツらを倒してくれた時、驚いたけど助けてもらえて嬉しかった。その次に助けてくれた時も。それを伝えた時の笑顔はそれはもうカッコよくて綺麗だと思って。
     あれ。
     考えてたら、なんだか胸がドキドキしてきた。あれ、あれ。え、まさか。
    「フィン、顔が赤くなってる。どこか体調が悪いのか」
    「ヒェッ!」
     そう言われれば意識が顔に集中する。鏡を見なくたって分かる。顔に全体温が集まったかのように熱いんだから、きっと真っ赤になってるんだ。
    「フィン」
     顔を両手で挟まれて上げられる。僕と違ってそばかすもニキビもない綺麗な肌に、少し怖いけれどぱっちりとした瞳。どこからどう見ようとイケメンな顔が、僕を真っ直ぐに見ている。いつもは無機質な眼が、今はどことなく揺れているような気がする。よく見ると、手も僅かに震えていた。
     カルパッチョも不安なんだって気がついた時、僕の中でストンと何かが落ちたようだった。
     顔はそのままに僕はカルパッチョの腕を掴んだ。カルパッチョは身体を一瞬びくりとさせたけれど、それでも僕を離すことはなかった。
    「カルパッチョ、僕、君のことが好き、みたいだ」
     カルパッチョは呆然としたように目を見開いた。数秒経った後に、噛み締めるように破顔した。
     あの時のようで、それ以上に美しい笑顔だった。

     あれからもカルパッチョは僕が一人で絡まれていると飛び蹴りをする。
     最初の時も凄かったが回数を重ねていく内に洗礼されていったのか綺麗なフォームでスムーズに対象を撃破していく。多少は魔法でどうこうしているんだろうけれど、素の身体能力も高い。同じモヤシ体型でも僕とカルパッチョでは天と地どころか宇宙とマントル位には差がある。いっそ悔しい気持ちすら湧かせないのは流石内部進学一位といったところなのだろう。
     そんな僕達の関係は、あまり変わっていないようで少しだけ変化したところもある。
     僕とカルパッチョはお付き合いを始めた。それからは二人で遊びに行ったり、時々つっかえてしまった勉強を教えてくれたりもする。話す機会も随分と増えた。
     カルパッチョはああ見えて優しくて、先生から言われた資料を運んでる僕を見つけると手伝ってくれたりもするのだ。
     それから、周りが誰もいない時にはキス、をすることもある。それ以上は僕があんまりに恥ずかしがるので出来ない。それでもカルパッチョはそれでも良いんだと言ってくれる。僕にとってきっと勿体無い恋人だけど、カルパッチョが僕がいいと言うならそれで良いんだ。
     前からいじめっ子達が現れる。そうして一言二言僕にからかいの言葉をかける。何度繰り返しても慣れない。やっぱり悲しい気持ちにはなる。それでも深く傷つくことがないのは、偏に優しくて、強くて、綺麗な恋人のお陰だ。
     ああ、今日もかっこいい飛び蹴りだ。

    僕が悲しんでいる時に飛び蹴りをしてくれる恋人の話
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    katkontou

    DOODLEよく分からないパチョフィン
    悲しい目にあった時に飛び蹴りをする彼の話 寮に帰ろうと放課後の廊下を歩く。マッシュ君は近くにいない。今日行われた抜き打ちテストでひどい点数を取ってしまったらしく、とうとう補習へと引き摺られてしまったのだ。
     一人で帰るのが久しぶりな気がするな、と思いながら足を動かしていると目の前から男子生徒三人が話しながら対面から来るのが見えた。彼らの顔に見覚えがある。内部進学組だ。リーダーの男は粗暴で取り巻き達もあまりいい人柄とは言えず。……彼らと顔を合わせた事もあったがいい思い出はない。
     嫌な予感がしたけれど、迂回するにはだいぶ引き返さなければいけない。仕方なく視線を下に向けながら僕は空気だと言い聞かせて歩く。
     彼らとすれ違った瞬間に右足に何かがぶつかって転んでしまった。グループのリーダーらしき人物がこちらを見て嘲笑う。どうやら足をかけられたのだ。膝に痛みを感じながら立つと、彼らはクスクスと笑いながら歩いて行った。その姿を見て昔を思い出す。マッシュ君達と友達になっていない頃、弱くて言い返す事もやり返す事も出来ない自分はこういう目によく遭っていた。マッシュ君達がいる時にはされなくても、こうして一人になった時はこうした小さな嫌がらせはまだある。それでも我慢しているのは、偏に反抗した時に生意気だとひどい仕打ちを受けたから。言い返したりすのにもやっとなのに、大変な目に遭わされるのだから、自分だけが対象なら我慢する方がよっぽど楽だった。
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