大学生萩松
(付き合ってないやつ)
「なーんで持ってるの?」
「ちょっといいトコ見てみたい!」
安っぽいコールが響くのはよくあるチェーンの居酒屋の一室で、目の前には大学生御用達の3,500円飲み放題コース。
萩原と松田が気まぐれに参加するフットサルサークルの飲み会。
どうせ飲み放だしと次から次へ、誰のという訳ではないグラスが次から次へと運ばれてくる。
手近なグラスに手を付けつつ、順に回ってくるコールに応えること暫く。たまにふら〜っと参加してはレギュラーを差し置き活躍してマネージャーやその友人の女子学生から黄色い声をあげられる萩原と松田はコールが回ってくるペースも他と比べると早かった。そう、彼らは完全に出来上がっている。
「飲ーんで!飲んで飲んで!」
萩原に何度目か分からないコールがかかる中、松田は手と膝をつき、ずるずると移動する。
赤い顔でグラスに手を掛けた萩原の元まで辿り着くと、胡座をかくその膝に乗り上げ首に両腕を回した。そして首を傾げ渾身の、
「のんで?」
萩原にダイレクトアタックだ。
一気にグラスを煽り空にして見せた萩原が叫ぶ。
「くっそ、かっわいいな!」
ここまでは飲み会ではよく見られる光景で。また次のターゲットを見つけてはコールがかかり皆の視線はそちらに向く。
「なあ、はぎ、ちゅ〜しようぜ?」
「あ?まじで?」
「おお、まじまじ。すっげーやつ。」
「いいねえ、じんぺーちゃんのコト骨抜きにしちゃうぜ?」
「んふっ、ちゅ、やってみろよ」
ん、ちゅ、ぺろ、んはぁっ、じゅ、くちゅ…
公衆の面前では聞くことのない水音に、コールが終わった連中が気づき始める。
「おい!萩原と松田がちゅーしてんぞ!」
「まじかよおい、盛るのは解散してからにしろ〜」
野次は飛ぶが所詮皆酔っ払いだ。けらけら笑うだけで誰も止めにも入らない。
飲み会のたびにキスを見せつけられれば人間慣れるもので、慣れとは恐ろしい。
「はぎわらー!そろそろやっちゃえよ!」
「まつだー!今日こそ萩原の腰抜かしてやれ!」
「おお!お前らしっかり見ておけ」
「きゃーじんぺーちゃんに襲われちゃう〜」
すっかり飲み会の風物詩となり、周りから催促されるまでとなった。
どちらからともなくちゅっちゅ始める時もあれば、今日のようにまわりに囃し立てられ松田が萩原にのし掛かる日もある。
警察学校での生活にも慣れてきて、今日はいつもの五人で飲みに出た。
明日は休日という事もあり、久々の飲酒に加え普段より早いペースでグラスを空ける彼らは既にアルコールが回っている。
「なあ、じんぺーちゃん」
「ああ」
今まで五人で教科や実技、趣味の事など他愛もない話をしていたのだが、急に萩原と松田が目配せをする。どんな芸でもするのかと三人が意識を向ける。
「はぁっ、ん、ちゅ、ひさしぶりだな…」
「じゅ、くちゅ…やっぱじんぺーちゃんとちゅ〜しなきゃ飲んだ気がしねえよ」
意味がわからない。何でコイツらは五人で飲みにきてキスをするのか。幼馴染で仲は良いと思っていたが、もしかして付き合っていたのか…?
翌朝(といっても昼前だったが)廊下ですれ違った松田に「萩原と付き合ってるのか」と尋ねれば「?」を浮かべ「何言ってるんだこいつ」という目を向けられなおのこと意味が分からない。意味が分からないまま今後飲み会の度に繰り返される萩原と松田のキス。