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    北村Pの漣タケ狂い

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    性癖パネルトラップ1

    #天道輝
    tendoFai

    花吐き病の輝 きっかけは朝のコーヒーだった。なんか胸につかえるな、と思って二、三度咳をすると、なにか平べったいモノが口の中に張り付く。ぺっと吐き出してみれば、それは黄色い花びらだった。タンポポのような、細長い花。刺身でも食ったか? 菊の花が小さく添えらえていることがあるけれど、あれを実際に口に入れたことはないなあ。そもそも、昨日は刺身を食っていないし。
     料理のなにかトッピングに混じっていたのでは、ということにして、とりあえずその場は落ち着いた。コーヒーが美味しく飲めれば、それでいいのだ。
     昼過ぎから、なぜか胸のつかえが取れなくなる。こほこほと目立たないように咳をしてみると、今度は白い小さなひらひらした花弁が落ちてくる。カスミソウではないのか? さすがにそんな花食ったことないぞ。言い訳が出来ずに頭を悩ませつつ、でも人前ではまだ咳を我慢することができた。誰も俺の足元に散らばる花弁など気にしない。
     次の日。嘔吐したくて、でもできなくて、という状態が続いていた。体調も悪くないし、あたるようなものも食べていないのに、ずっと呼吸がしづらい。ゲホ、ゲホと大きく咳き込んで、やっと口内にソレは現れた。
     口の中から出てきたのは、おおきなクロッカスだった。紫色のそれは芳醇な香りを纏ったままポトリと床に落ち、おれは食道をせり上がってきたときの不快感から解放された喜びで、そのクロッカスを拾い上げた。口から出てきたなんて、手品好きな桜庭だってきっとびっくりするだろう。翼からは味について聞かれるに違いない。俺は家の戸棚の中にあった、お菓子の缶やリボンを捨てられずにとっている引き出しのなかから、黄色いリボンを取り出した。

    「じゃーん! プロデューサー、プレゼントだぜ」
    「え、わ、私に……?」
     プロデューサーは突然のことに驚愕してくれたようで、俺としてはサプライズ大成功! と意気込んでいたが、どうやら桜庭は違ったようだ。
    「クロッカスは冬の花だ。今は常夏じゃないか。造花なんじゃないのか」
    「おい、変な疑い方するなー。これは昨日、俺が吐いたんだよ、正真正銘作りものじゃない」
    「……吐いた?」
    「……あ」
     うっかり口を滑らせてしまった。気持ち悪いと思われただろうか。俺は慌てて挽回しようとプロデューサーの方へ向き直る。手品でとかなんとか言いようはいくらでもある、そう思っていたのに――
    「馬鹿者!! 今すぐそれを捨てろ!!」
     桜庭が聞いたことのない声で怒鳴り上げた。俺も翼もビビッてしまい動けずにいたら、同じくきょとんとしたプロデューサーの手にビニール袋を被せ、袋ごと花をもぎ取り奪った。
    「なんてことするんだよ! それはプロデューサーに……」
    「君がやっている行為はバイオテロだ。花吐き病で検索してみろ」
     桜庭は何重にもビニール袋を巻いて縛り、ゴミ箱の奥底に捨て、プロデューサーには手を洗いに行くよう命じていた。
     花吐き病。そんな病気があるなんて知らなかった、というのが率直な感想だ。
     検索すると、見たことのない症状の数々がヒットする。片思いを拗らせると罹患するとか、吐いた花を他人が触れると感染するとか。
    「つまり今、君はプロデューサーに感染させてしまったんだ。意図的に」
    「そんな……そんなつもりは」
    「わざとじゃないのは、わかってますよ、みんな。輝さんも、薫さんも落ち着いて」
     事態を把握していないプロデューサーがおずおずと帰ってきたので、事の顛末を話し、謝った。プロデューサーは自分が感染してしまった件については全く気にしていない、と明るく答えてくれたが、強がりだった場合、俺たちがなんとかせねばならない。
    「……今日、仕事後、残れるか」
    「はい、大丈夫ですよ」
     仕事と言っても、ミーティングだけだ。終わり次第夕飯に誘われていたが、今はプロデューサーと二人きりになりたい。
     二人に心配されながらもミーティングはつつがなく進行し、終わったのは夜二十時だった。二人を見送り、俺とプロデューサーは屋上に行く。誰もいない、風の強いところ。
    「あの、輝さん。私、何も気にしてませんから」
     髪を掻き上げながら爽やかに微笑むプロデューサーは、どこかさっぱりした言い方をした。
    「でも、俺のせいで花を吐いたら……」
     今こうして喋っている間にも、俺の唇からは赤い花びらが零れては宙に舞っている。
     プロデューサーは事態を深刻に受けとめていないんじゃないか。そう思ったとき、彼は殊更明るい笑顔で、
    「私、アセクシャルなんです」と言った。
    「好きと言う感情が、湧かないんですよ。アイドルのプロデュースに、持って来いでしょう」
    「……え」
    「ですから、私は片思いを拗らせて、花を吐くということはありえません。ご心配ありがとうございます」
     夏の夜空は孤独だ。墨汁を溶かしたようなとっぷりした黒のなかで、小さな星がちらちらと輝いている。街々はまだまだ元気に起きていて、下を見れば人工的な明るさで満ちていた。俺たちは今、その境目にいる。
    「なので、まずは天道さんの気持ちの整理をしていきましょう。気持ちが落ち着けば、症状も抑えられるかもしれない」
    「…………アンタだよ」
    「え?」
     ゲホッ、ゴホ、おえ。俺は胸元からせり上がってくる圧迫感を何とか上へ上へ引き出して、喉元で爆発させた。色とりどりのアスターが辺りに散らばった。花言葉なんて知らない。
    「俺は、アンタが……ガハッ」
    「その先は、言わない方がいいかもしれませんね」
     プロデューサーは、地面に散らばった花を素手で掻き集めながら遠い目をした。どこかで花火でもやっているのだろうか。どーん、と音が聞こえる気がする。
    「輝さん。私はあなたを、お仕事仲間として、大好きですよ。アイドルとして全力で日々輝いているあなたが」
     これで両思いになれませんか。そう切なそうに呟いて、プロデューサーは、帰っていった。
     残された俺は、げほ、と何かの塊を吐いたけれど、それが何なのかはわからない。
     ああ、俺は白銀の百合を吐くことはないんだなあ。溢れる花びらに噎せ返りながら俺は少し泣いた。
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