豚に反吐 ターゲットの男の息遣いと、自分の革靴の音。暗い室内でも、相手の輪郭は逃さない。
「それ以上近付くと、う、撃つぞ!」
震える手で狙われても、何の緊張感も起きない。壁際に追い詰められたターゲットは、最後の手段とばかりに懐から銃を取り出した。そんな物、今ここで出されたとて、脅しにもならない。撃ち慣れていませんと自己紹介しているようなものじゃないか。
「安全装置つけっぱなしだぞ。普段から練習しとけ」
「えっ」
激しく動揺した男の手元が泳ぐ。その隙を突いて心の臓を貫いた。発砲音が無機質な部屋にこだまする。細い硝煙が墓標のように揺蕩った。
「リボルバー式の銃に安全装置なんか付いてるわけねーだろ、バーカ」
豚に真珠だ。真珠なんて綺麗なものでもない、反吐だ。豚に反吐。海に沈めた後、コイツも豚のように食用になる。肥えた魚の多い海を想像して、やはり反吐が出た。一つになった呼吸音は、やがて跡形もなく消えていく。