暗証番号「オマエ、スマホ鳴ってるぞ」
控室で汗を拭いながら、机の振動がどこから来るものかあたりを見回した。答えはアイツの鏡台の前。
「プロデューサーから仕事の話かもしれないだろ。きちんと確認しとけ」
「るせーな。オレ様はねみーんだよ」
椅子を三つ繋げて寝転がるアイツは、こちらを一瞥もせずに机の上を指差した。俺の椅子も取られたままだ。
「チビが返信しとけ」
「な……」
いくらなんでも怠惰すぎるだろう。しかし、俺や円城寺さんのLINKに「ついで」で自分の要件を書くこともままあるコイツにとって、自分のスマホというものはやはり煩わしいものなのかもしれない。
「……触るからな」
「いいっつってんだろ」
急ぎの連絡なら早くコイツに知らせないといけない。俺は仕方なくコイツのスマホを手に取った。
「オイ、暗証番号あるじゃないか。流石にこれは自分で入れろ」
「チビの誕生日」
「……え」
横向きに寝転がっているアイツの表情は、こちらから見えない。俺は自分が聞き間違いしたのかと思い、しばしその場を動けなかった。
「……今、なんて」
「自分の誕生日はヤメロって下僕に言われたんだよ」
そうだとしても、そうだとしても俺に、他人に暗証番号を伝えちゃいけないだろ。
俺の誕生日を入力してみる。1221。スマホは簡単にロックを外す。
「……オマエ、なかなか恥ずかしいことしてるな」
「るっせーなバーカ!思いつかなかったんだよ!」
相変わらずこちらを見ようともしないアイツの耳が少し赤い気がしたけれど、それには気づかないふりをする。LINKを開くと、そこにはやはりプロデューサーからのメッセージが入っていた。
「……オマエのスマホ、これからいくらでも見れるぞ。俺」
「……勝手にしろ」
俺の暗証番号も、実はアイツの誕生日にしていることは秘密だ。