ガーベラ 人類にあまねく降りかかる、幸運も不幸も。
「この花は知ってるぜ。ガーベラ」
「正解」
一本だけラッピングしてもらうのは、花束を作るよりもなんだか気恥ずかしかった。
「キミは花言葉なんて気にするタチだったか?」
「あんまり。でもピッタリだ」
ダンデが花言葉を知ってるのも意外だったが、まあ花束くらいいくつも貰ってるんだろうと察した。コイツを慕っている奴が、わざわざ花言葉とセットでプレゼントしたこともあるだろう。
「神秘・崇高美」
「似合ってる」
「……あんまり、嬉しくない」
「言うと思った」
ははは、と軽快に笑ったつもりだったが、思ったより声は乾いていた。
「本心?」
「本心」
まあ、ひまわりのほうが似合うんだろうけど、花屋に並ぶにはまだ早かった。ダンデの横から手を伸ばし、ラッピングのリボンを解く。
「プレゼントはオレさま~、の方が嬉しかったか?」
「……そうかもな」
ダンデの髪を手で数度梳き、束にしてリボンで留めてみた。豊かな紫が手の中で踊る。
「……これじゃあ、人前に立てないぜ」
「いいよ。あと十五分ある」
ガーベラをダンデの髪に差す。鮮やかな、太陽を喜ぶ花。コイツの長いまつ毛に影が落ちる。
「せっかくラッピングしてもらったのに?」
「このあと、どうせ大量の薔薇を貰うだろ。オレさまはコレでいいの」
そっと彼を抱きしめた。身体を締め付けるタキシードは窮屈で、早く脱いでしまいたい、脱がせてしまいたいと思った。
「……帰ったら、花瓶に差すよ」
「花束は?」
「母がどうにかする」
大切そうに髪から花を引き抜き、そっと香りをかぐ。オレさまはリボンを解いた。本当はそのままにしたかったけれど、それは彼の「本来の姿」ではないから、人前に晒すわけにはいかない。
「……そろそろ、行かなくちゃな」
「エスコートしようか?」
「いらないさ。いつだって一人で立ってるだろ」
コンコン、と控室がノックされる。タイムリミットだ。額にキスをして、お互いの背広を直す。
「いってらっしゃい」
「キミもだろ。一緒に行こう」
ダンデの後ろに付いていきながら、リボンを解いた後の髪を眺めた。王者のたてがみが揺れていた。オレさまは来賓席へ、彼は名前を呼ばれてから壇上へ。「本来の姿」になったダンデは、やはり崇高美という言葉がとてもよく似合った。
司会者から花束を受け取る彼の、勝気な笑みを眺める。本心? きっと本心だ。一本だけのプレゼントじゃ、やっぱり味気なかったか。ポケットの中のリボンをそっと握りしめる。これだけで彼を繋ぎ留められたらいいのに。オレさまだけに微笑めばいいのに。
人類にあまねく降りかかる、幸運も不幸も。全部まとめて、包んでリボンを巻けば、それは花束になる。百本の薔薇より、一本のガーベラを花瓶に差してくれる彼の金色の瞳が、嬉しそうに会場中を見渡した。