シャワー 土砂降りが、浴室から聞こえてくる。
ファングは、僕を抱いた後、僕が寝てからシャワーを浴びる。気を遣ってるのか、一人になりたいのか、ナニカを洗い流したいのかは分からない。聞く気もない。僕は、寝たふりをしてそれを待つ。
「起きてたのか」
「んーん。寝てたよ」
「嘘つけ」
彼には何でもお見通し。それでも僕は嘘をつく。枕の下に忍び込ませていたチョコレートを食べながら、ファングに腕を伸ばした。
「一人で寂しかった」
「嘘つけ」
ビターなキスをひとつ。せっかく綺麗になったファングの唇をぺろりと舐めて汚す。
「ファングは? 寂しくなかった?」
「バカ言え、たかがシャワーくらいで」
「だって、シャワーの音って、なんだか物悲しいじゃない」
ちゅ、と舌を吸いながら、彼のまぶたをなぞった。眼帯のされていない肌は、酷く白くて人形みたいだ。
「……鎮魂歌」
「あ?」
「ほら、ターゲットの返り血を流す時、その人の存在も忘れるでしょ」
「いちいち覚えてたらこんな仕事できねーからな」
「だから、シャワーの音が悲しく聞こえるのかもしれない。僕らの代わりに泣いてるみたいで」
「……オマエ、そんなにロマンチストだったか?」
チョコはすっかり溶けて、僕らの口は空っぽになった。その隙間を唾液で埋めていく。シーツの皺が生暖かい。
「ふふ、僕はリアリストだよ」
じゃなきゃ、こんな仕事やってらんない。そうでしょ、ファング。
「……オマエもシャワー浴びてこい」
「そうだね、その前に」
ファングのうなじの匂いをたっぷりと嗅ぐ。ああ、安心するなあ。僕は生きている。シャワーでも、彼のこの匂いは消せない。僕だけが知ってる匂い。
「もう一回戦、どう?」
忌々し気に歪められる眉毛を見て、そりゃそんな顔にもなるよな、と笑う。彼はたった今シャワーを浴び終えたばかりなのだから。
「冗談だよ」
鎮魂歌。僕らの血の騒ぎをも。死んだら、どこに行くのだろう。知ったことではない。殺したら次に行くだけだ。
「ね、キスして」
ファングの荒々しい舌が口内を犯す。僕はそれを恍惚としながら受け止める。生きているって、こういうことだ。