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    komaki_etc

    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    モブと援交してた春名が別れを切り出す

    ネバーランド「もしもし、オッサン? 仕事だった? だよな、お疲れ様。オレも今バイト終わったとこ。はは、流石に疲れてるだろ。そうじゃなくて。飯? 飯は正直行きたいけど……いや、違う。ちゃんと言いたいことあるんだ。このまま電話してていい? サンキュ。
     あのさ。……もう、こういうの、やめにしないか、って。……こういうの。……そう。会って、セックスして、金もらって。オッサンだってそんな高級とりじゃないだろ? はは、ごめんごめん。いや、今までたくさん助けてもらってたよ、そりゃ。だけどオレ、あの金つかってねーんだ。そ。母ちゃんに渡してたんだけどさ。1円も使われてなかった。封筒が引き出しの中に詰まってたの、見ちゃったんだよな。マジで手つけてねえの。それ見てオレ、なんか泣きそうになっちゃってさ。
     ……ていうか、まあこんな話はどうでもいいんだよ。オッサン、アイドルとか興味あったっけ? ねーよな、そうだよな。……オレたち、趣味の話すらしたことなかったんだな。それで……うん、いや、違うんだ。オレ、アイドルなんだ。隠してたわけじゃ……いや、隠してたか。オレがアイドルだって知ってたら、オッサン抱かなかったろ? そういうこと。うん、騙してたみたいで悪い。
     だからさ、これ以上は……話が早いの、オッサン仕事できる人なんだなって思うよ。ありがとな。写真撮ったりしてねーよな? だよな、いつもいきなりはじめてたもんな。そんなプレイすることなかったな。今思えばしておけばよかったか? なんつってな!あはは……。し終わったあとの、オッサンの話きくの、あったかくて、好きだったぜ。オレ、オッサンのこと何にも知らないけど、あったかいってことだけは知ってる。
     なあオッサン。オレのことは綺麗さっぱり忘れて、真っ当な人生、歩んでくれよな。誰でもいいって手当たり次第に釣ってたらいつか地雷引くぜ? ほどほどにな。
     オレも……頑張って、忘れるからさ。でも、嫌だったからじゃないぜ。嫌な思い出にはしない。オッサンには救われてたんだ。だから……、感謝してる。
     ありがとな、オッサン。電話でごめん。会ったら、恋しくなると思ってさ。最後のわがまま、きいてくれよな。うん。うん。身体に気をつけて、ってのはお互い様だな。うん、頑張るよ。頑張る。だから……うん。さよならだ。さよなら、オッサン。元気でな……。じゃあ」


    「いらっしゃい!」
     威勢のいい声が反響する。会社の昼休み、適当に入ったラーメン屋で醤油ラーメンの食券を買う。
    「固さは」
    「普通でお願いします」
     淡々と、流れ作業。ここには俺の個が存在しなくて済む。俺の存在意義について考える必要もないというわけだ。
     昨晩の春名からの電話が、ずっと頭から離れない、寂しさを押し殺したような声。震えていたのは、寒かったからか。共に見上げていた夜空が最後。俺はこれから、夜空を見上げるたびにどうしようもなく切なくなるのだろう。
    「醤油ラーメン、お待ち」
     運ばれてきたどんぶりを目の前に移動させた時、カウンターの向こう、部屋の隅の天井にぶら下がっている小さなテレビから、軽快な音楽が溢れ出した。
    「こんちゃーっす! High×Jokerでーす!」
    「……え!?」
     俺が思わず立ち上がったことを自覚したのは、三秒後のことだった。画面の中に、見慣れたオレンジ色の頭が見えたのだ。
    「若里春名、十八歳! みんなより年上だけど高校生です!」
     ワハハ、観客席の笑い声がする。その向こうで、春名は、ふっきれたような、さっぱりした顔でそこに立っていた。
    「ハルナ、今日なんか違う?」
     緑の頭の青年が聞く。俺もテレビ越しに感じていた。いつもと雰囲気が違う。
    「んー……いい思い出ができた、ってとこかな」
    「なんスかそれ!? オレたち聞いてないっす!」
    「大切な人と別れたんだよ。だから、頑張ってるとこ見せなきゃいけない」
    「大切な人ですか」
     生放送なのか。春名がそこにいる。春名は、俺の知ってる春名は、こんなに朗らかに笑っていたか。
    「おーいオッサン、見てるか〜?」
     春名は突然カメラに手を振り出して、あわてて共演者が止める。俺は立ち尽くしたまま、溢れ出る涙を止めることができなかった。
    「おいアンタ、大丈夫かい」
     隣の客の声に気付き、いやあびっくりして、娘が好きなんですよアレ、だなんて適当な嘘で誤魔化す。麺が伸びてしまっただろうか、あわてて汁を掬って飲めば、喉に染みるしょっぱさだった。
    「これからも応援してくれよな」
     春名の声がする。ああ、応援していくよ。煌めく彼のその先を。街中のちっぽけな俺なんかを見つけてくれてありがとう。ラーメンは腹一杯に俺を満たして、そろそろ休憩時間も終わる。
    「High×Jokerでした〜!」
     笑顔の彼らをしっかり目に焼き付け、店を出た。足取りはもう、頼りなくない。彼の未来は明るい。それを知ることができたのは、本当に幸いなことだ。
     明るい空を見上げて、もうひとつだけ、涙をこぼす。二度と会えない彼を思って。
    「オッサン!」
     彼の明るい笑顔を、これからはどうか、大勢に届けてくれますように。
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