蒼い瞳に幸せを 「今日はコーヒー?紅茶?」
「うーん、コーヒーにしようかな」
「おっけー、お砂糖はいつも通り?」
「ちょっと多めで」
軽く会話を交わしながら、分担して朝食の支度をする、なんてことの無い朝の一瞬。
貴方の好みはコーヒー。お砂糖多め、ミルクも多め。
スクランブルエッグはやや固めで、酸味の強いヨーグルトはちょっと苦手。
トーストやシリアルではなく、クロワッサンだといつもより機嫌が良くなる。
そんな好みを把握するほど、私達は同じ時を刻んだ。
そして、今のこんな光景は奇跡に等しいのだということを日々噛み締める。
少し前には考えられなかった平穏の中、私達は生きている。
コーヒーの湯気と匂いを五感に感じながら、光の射す窓の外を見やる。
今日は雲ひとつない快晴のようだった。
朝のキラキラと新しく生まれた世界を照らす青。
昼の生命の息吹を感じる、活力の溢れる碧。
夜の静寂と寂しさと冷たさを孕んだ蒼。
今日も空は、貴方の瞳の色をしている。
背後に愛しい人の気配を感じ、そっと腹部に腕を回される。
どうやら、私がぼうっとしている間に、彼の準備は終わっていたらしい。
「早く、こいとの分も食べちゃうよ」
子供のように悪戯っぽく笑うその顔は、あまりにもただの人間で。
無法者として名を馳せたアウトロー等と、誰が見破ることが出来るだろう。
いつからそんな顔をしてくれるようになったのかな。
私と出会った頃の貴方は、もっと壁があった。
笑っているようで心の底からは笑っていない、張り付けたような笑顔が、屈託のない笑みに変わった。
探り探り警戒する目線は、真っ直ぐに私を見てくれるようになった。
それが嬉しくて愛しくて、思ったまま「愛してるよ」と言い終わるのが早いか、唇に感じる自分のそれとは違う感触と温もり。
真っ直ぐに見つめて、はにかむ綺麗な青が眼前にあった。
貴方の瞳の中の空を、呼吸が触れるほどの距離で見つめられるのは、世界でたった一人だけでいい。