会いたい気持ち─again─ つっ、疲れたー。
ようやく今日の分の仕事が終わった。
要領が悪い私は今夜も残業になってしまった。
もうちょっとちゃんと仕事できるようにならないと、自分も大変だし、周りにも迷惑かけちゃうな。
私の仕事が終わるのを待ってくれていた課長に挨拶をして、申し訳なさに消え入りたくなる。
課長以上は残業代も出ないからと言って、ほとんどの課長がほぼ定時で退社するのに、直属の部下の出来が悪いせいで、うちの課長は今日も残業になってしまっている。
気にしなくていい。
ゆっくり確実に覚えたらいいから。
いつも優しく気を使ってくれるから、早く一人前になりたいのに。
「すみません、お先に失礼します。明日もよろしくお願いします。」
他の部署の電気はとうに消え、明かりはうちの部署だけ。エントランスですら、最低限の電気だけになっていた。
こんな時間じゃケーキは買えないな。
コンビニスイーツくらいなら買えると思うけど。
じわっ、と目の前が揺れる。
ちゃんとお祝いしてあげたかったな。
実くんのお誕生日。
そもそも今日は平日で、お互い普通にお仕事で、
明日もお仕事で。
週末にゆっくり会いマショって、
そん時にいっぱいお祝いして、って約束で。
普通に、私が一人で食べる夕ごはんなんだし
二月九日は、ニ(2)ク(9)の日で
別にパスタでもお肉でも好きなものを食べればいいんだけれど。
それでもやっぱり好きな人のお誕生日はちゃんとお祝いしてあげたかったな。
実くんは私のお誕生日、遅くなっても会いに来てくれたっけ。
私も、行っちゃおうかな
明日も仕事だけど、多分実くんもお仕事だけど。
実くんのおうちに着替えは何着か置いてあるし、明日少し早起きして、家を出たら会社だって間に合う。
何より私がどうしても今日会いたい。
実くんにぎゅっとして貰いたい。
このモヤモヤした気持ちもきっと消えてしまうから。
ダメな私のことも全部包んでくれる。
腕の中で甘やかされたら、きっと明日も頑張れる。
そして実くんにキスしたい。
彼が生まれてきてくれた、私と出会ってくれて、
私が彼に恋をして、彼が私を見つけてくれた、
それはきっと偶然なんかじゃない、運命だから。
タクシーを停めようと、手を上げた瞬間、手首を捕まれ、後ろに抱き寄せられた。
振り向かなくても分かる。
いい香り。
私を抱き締めるのは……。
「ゴメン、物分かりいいフリしたけど、やっぱダメでした。どうしても今日、会いたくて来ちゃった。あんたは?タクシー乗って俺ん家に行くところ?」
このスパダリ感‼️
会いたいと思った瞬間に会いに来てくれちゃう。
抱き締めて欲しいと願った瞬間に、叶えてくれちゃう。
「うん、うん、うん‼️会いに行くところだった。会いたかった‼️私もどーしても会いたかったよー、だから実くんに会えて嬉しい。
でもごめんなさーい、会えると思ってなかったから何にも用意してない。ご飯もケーキも。」
会えると分かっていても、準備…は何にも出来なかったかも知れないけれど。平日は仕事&残業&仕事……。
「美奈子が食べたい…とか言ったらベタだよな。」
耳元で囁かれて膝から崩れそうになる。
食べて欲しい…なんて思ってしまう。
実くんの大きな手で私の身体全部に触れて欲しい。
優しい舌でトロトロに溶かして欲しい。
一番近くのコンビニでパスタとケーキを買って二人で家に帰る。
なんの変哲もこだわりもないパスタとケーキ、でも二人で食べるならきっと一番美味しい。
おうちに着いたら一緒にお祝いをしよう、彼が生まれてきてくれた一年に一度の大切な今日を、二人でお祝いしよう。
彼のご希望の一番甘いデザートも食べて貰える瞬間を待ちわびているから❤️