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    どぐされ女

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    どぐされ女

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    フラガミのちょいすけべなやつ

     背中がひりつく。真新しい引っ掻き傷が外気に触れて脈打つ。下半身にベッタリとまとわりつく湿った感触の不愉快さが、自己嫌悪を呼び起こしてくる。自棄酒を浴びた翌日特有の足の覚束なさと、脳みその不確かさが意識を覚醒させる。最悪な朝だ。
    吐き出した息から立ち上る酒精の気配が、昨夜の記憶を引っ張り出して、目の前に突き付けてくる。
    頭を抱えながら起き上がると、傍らで上機嫌にいびきをかく男がいた。口の端が切れているが、そんなことは気にも留めずにいる。
    「……クズ野郎」
    悪態を吐いて、脇腹を蹴飛ばす。返事はない。



     「やっと来やがったな負け犬野郎!さっさとこっち座れ、今日こそ身ぐるみ剥いでやらぁ!」
    そう息巻いて声をあげるのはフラウロスだ。やたらと元気な彼に呆れ、ガミジンは彼が言う通りフラウロスの前に腰を下ろした。
    「こっち来て早々絡まれるなんて災難やなぁ、コイツ、さっきまでメフィストにカモにされとって不機嫌やねん」
    カスピエルが声を潜めて話し掛けてきた。どうりで、今日はいつもよりもイライラした調子だと思った。ガミジンは目の前でカードを切るフラウロスを眺めつつ納得した。
    「別に、いつもの事だろ。コイツがカードでごねるなんてよ」
    「せやな、まあはよ負かしてトドメさしたろ」
    「へっ!言ってろクソどもがよ!」
    ゲームが始まると、普段よりも気が荒いフラウロスはあっという間に負け、賭けられるものを失ってしまった。
    「クソが!!今回の分はツケとけ!!」
    「ちょお!払わんとどこ行くねん!」
    「下の鏡んとこだよ!憂さ晴らししねぇとやってられるか!」
    走り去る背中を眺めながら、カスピエルとガミジンは荒らされたテーブルを簡単に片付け、飲み直した。
    「……ほんま乱暴やなぁ」
    「全くだな、負ける癖に律儀に挑んできやがって、とんでもねえバカだぜ」
    「ははは、言うやんか。けど、ジブンも大概やん」
    「あ?何がだよ」
    「良いだけ八つ当たりされるのわかっとるのに律儀に相手したるやん、いい迷惑と違うんか?」
    「……カモがいりゃ付き合うだろ」
    「フラウロスがちゃんと金払うことなんかないやんか、言い訳して逃げてくし」
    グラスを置き、ガミジンは険しい目でカスピエルを睨んだ。
    「カスピエル、何が言いてえ」
    「……フラウロスに貸しでもあるんかなって思って、な」
    「テメェ、俺があの野郎の手を借りるほど困ってるように見えんのか?」
    「や、全く」
    「じゃあそれが答えだ」
    そう答えて立ち上がろうとするガミジンの裾を掴み、カスピエルは言い募る。
    「ちょお待たんかい!まだ話終わってへんて」
    「俺からは話すこともねえよ」
    「聞きたいんはこれだけやって、ジブン、なんでフラウロスとよう話すん?ウマが合うわけやないやろ?理由がわからんのや」
    「……アイツは踏み込んで来ねえからだよ。どうでもいい話して、カードやって酒飲んでるだけだ。妙に詮索されるよりマシなんだよ」
    「……せやな、理由聞いたらなんかわかるわ。引き留めて悪かったな」
    「ああ、じゃあな」
    カスピエルと別れ、ガミジンは自室へと引き上げた。数ヵ月ぶりに入ったせいか、埃の臭いが漂っていた。鎖帷子を外し、衣服をゆるめて腰掛けると、持ち込んだ酒を一人で口にし、寝台に横になった。
     先ほどのカスピエルの問いが、酒精と共に頭を巡る。なぜフラウロスとつるむのか。本当の答えはもっと複雑だ。
    フラウロスは、こちらに干渉してこない、同情もしない、そして、眺めているとなかった未来を思ってしまう、フラウロスのように、何者にも囚われずに自由に居られたら、と。どこかでそれを望んで、それを拒んでいる。自分には出来ない振る舞いを、ただぼんやりと眺めている。それを、憧れと呼ぶにはあまりにも醜いと理解していた。

     どのくらい時間が経ったのだろうか。乱暴にドアを叩く音でガミジンは目を覚ました。この音には覚えがあった。彼は大きなため息をついて起き上がり、ドアを思い切り開けた。急に開いたドアに驚いてよろけたのはフラウロスだった。
    「うおっ!ガミジン、テメェ急に開けんな!危ねえだろうが!!」
    「なら毎度毎度大音立ててここに来るんじゃねえよ」
    いつの頃からか、フラウロスはガミジンの部屋に転がり込むようになった。理由は様々あるが、そのひとつは、フラウロスの部屋は彼が悪さをしないよう、フォカロルやウァレフォルなどの見張りや仕切り役たちの部屋に隣接しているため、のびのびと過ごせないのだと言う。
    その為にフラウロスはホールで飲む気分でない時はたまにガミジンの部屋に現れるようになった。手土産もなく、身一つか、自分のための酒を携えてくる。
    「たく、散らかすんじゃねえぞ。ここもあんま戻ってこねえんだからな」
    「へっ、心配すんな。テメェが使ってねえ時は俺が使ってるからよ」
    「勝手に巣にしてんじゃねえ」
    軽口を叩きながらガミジンは備え付きの椅子に腰掛け、フラウロスはベッドを陣取る。いつの間にやらこれが彼らの定位置になっていた。
    「ムカつくぜ、メフィストの野郎……今度アイツの酒隠してやる」
    「隠すか盗るかしかねえのかよ、テメェ……しかもこないだは俺のボトルも隠しやがったろ。ガキみてえな真似すんな」
    「知らねーな」
    会話が途切れ、それぞれ武器の手入れや酒を飲んで過ごしていると、ガミジンが沈黙を破った。
    「……テメェ、今日負けっぱなしだったんだろ?」
    「ああ?蒸し返す気かテメェ!ツケにしろって言ったろうが!」
    「そうじゃねえよ……」
    「じゃあなんだよ!」
    「……一回切りだが、賭けをしてやる。それで俺に勝ちゃ一つだけ言うこと聞いてやって良いぜ」
    「はぁ?なんだそれ……おい何企んでやがる、らしくねーぞテメェ」
    「そりゃ俺が一番わかってんだよ。まあ、なんだ。ウダウダウダウダずっといじけてられるのもムカつくからな、ちと付き合ってやろうと思ってんだよ。んで、どうすんだ?やるか?」
    「そう言われて引き下がるやつが居るかよ!乗った!!ただし、何を要求されても断んなよテメェ!」
    「テメェが勝ったらな」
    そう言うとガミジンは財布からゴルド貨を取り出して掲げ、フラウロスにそれを放った。
    「コイツを弾いて出た面が裏か表か賭ける。チャンスは一回きり、良いな?」
    「おー、それで良いぜ」
    フラウロスはそれがなんの仕掛けもない貨幣であると認め、ガミジンに弾いて寄越す。
    ガミジンは天井に向けて金貨を弾き、落ちてきたそれを手の甲に受けて掌で隠すと、フラウロスに顎で示した。
    「テメェから選びな、裏か表か」
    「……表!」
    「一応変えるチャンスもやる」
    「いらねえ、テメェは裏だ」
    「わかってる」
    そう答え、ガミジンが掌を離すと、コインの面は表だった。
    「……マジかよ、勝ったぜ!!へっ、ざまあ見ろ!」
    「ハッ、良かったな……んでお望みはなんだよ」
    「……よし、尻貸せ負け犬野郎」
    「…………あ?」
    言われた言葉の意味が分からず、ガミジンは思わず聞き返した。久々の勝利に湧いたついでに頭が涌いたのか?
    「尻貸せって言ってんだよ」
    「……テメェ、言ってる意味わかってんのか?いや、わかってて言ってたとしてその意図がわかんねえ……」
    「あ?テメェの尻でぬ……」
    「ああクソ言うんじゃねえ!!気色わりぃこと言ってんじゃねえよ!!」
    ガミジンが頭を抱えると、フラウロスは苛立ちを隠さずに襟首を掴んで顔を近付けた。
    「テメェ、言ったことは守れよ。今さら待ったが通じると思うんじゃねえぞ」
    フラウロスは自分のツケやワガママは通す割りに、他人の不正に厳しい。その上、機嫌が悪いとフラウロスはどこまでも暴力的になる。断る方が骨が折れるだろう。
    「……チッ、わかったよ」
    ガミジンは、今日ほど自分の行いを後悔した事はなかった。



    「……さっさと済ませろよ」
    「そりゃテメェ次第だっての」
    下半身に何も纏わずベッドに寝転び、ガミジンは枕に顎を乗せ、人知れず羞恥心に悶えていた。
    (……何やってんだ、俺)
    同じ軍団の仲間内で、憂さ晴らしに付き合うだけのつもりが下の世話を手伝わされることになるとは思わなかった。意識を遠くへやろうとしている最中、尻を掴まれガミジンは小さく唸った。
    「クズ野郎、何触ってやがる!!」
    「あ?鶏ガラだなーって思ってよ……あのやたらブカブカした服着てんのあれか?痩せてんの隠してんのか?」
    「……ありゃああいう服なんだよ……」
    「ふーん」
    興味なさげに相槌を打ちながら、フラウロスはグニグニとガミジンの尻を揉む。そのこそばゆい感触に堪えられず、ガミジンは枕に口をつけて悲鳴を逃がした。
    (……フラウロスの野郎、あとで蹴ってやる)
    ようやく尻から手を離されたかと思いきや、フラウロスが思い切り背中にのし掛かってきた。重い。その上、尻に硬いものが当たっている感触がある。あまりにも生々しくて気持ちが悪い。
    「テメェ……乗るな、重いんだよ」
    「こうしねえと擦れねんだもん、仕方ねえだろ」
    いくらか機嫌が治り、くだけた話し方でフラウロスが言葉を返す。丁度耳元に口が近付く位置だ。
    「んじゃ、動かすぜ」
    そう宣告すると、フラウロスはゆるゆると腰を動かした。硬いものが肌の鋭敏なところを擦り上げ、往復していく感触、そして他人の肌の温度はあまりに未知で、ガミジンは奇妙な感覚に襲われた。腹の奥が熱くなって、酷く悩ましい。
    「んー……あんま気持ちよくねえな」
    「……じゃあ、止めりゃいいだろ」
    「まーな、けど、赤くなってるテメェ見てたら少しは腹癒せになるぜ。もうちょっと遊んでやらぁ」
    「……クズ野郎」
    「へっ、負け犬はキャンキャン泣いてろ」
    そう言い捨て、フラウロスは速度を上げた。ガミジンは先ほどよりもずっと熱く肌をなぜる硬く脈打つ感触を意識し、不快感に襲われた。ずっと肌を撫で続け、時折敏感な所を思い切り抉る感覚が不愉快で仕方がないのに、自分のものも勃起していた。フラウロスが動く度、背面で擦られ、下ではシーツに擦り上げられ、じわじわと弱い刺激が陰茎を転がしてくる。認めたくはない快感が背筋を這い上がるのを感じ、ガミジンは息苦しくなった。
    (最低だ、こんなんで……)
    フラウロスの吐息が耳元で聞こえ、背中に体温を感じた。他人の体温がこんなに煩わしいとは思わなかった。背中越しにドクドクと聞こえる脈と、肌に感じる脈がそれぞれ熱を持って、身体に熱を与える。
    「……なんだよ、テメェ蕩けてんじゃねえか」
    (……テメェもそうだろうが)
    フラウロスがそう言って笑った。気づけば彼も額に汗をかき、顎までそれを伝わせている。
    それきり会話が途切れると、二人はそれぞれの快感と熱に身をゆだね、沈黙が下りた。
    部屋の中、二人分の吐息が熱を帯び、やがて絶頂が訪れた。先に果てたのはガミジンだった。
    「……くぁっ、出るっ!!」
    フラウロスはそう呟くと、射精した。ガミジンの背中に精を出し、その熱さにガミジンは顔をしかめた。自分自身も絶頂したあとで、身体がままならない。
    呼吸を整えながら、フラウロスはガミジンに囁いた。
    「……まだ、動けんだろテメェ」
    ニヤっと笑いながら、フラウロスはまだ足りないと言う顔でガミジンの腰を撫でた。
    「……勝手にしろ」
    ガミジンは、こいつはこんな風に誘うんだな。と要らぬことを考えながら、されるがままフラウロスに身体を委ねた。何も考えたくなかった。
    この辺りからのことは、ガミジンもフラウロスもよく覚えていない。ただ、はっきりと言えるのは二人とも快楽に身を委ねていた。ただそれだけだった。
    異物感と未知の快感で頭を掻き乱されながら、ガミジンは知らず知らずフラウロスの首に片腕を回していた。フラウロスもまた、ガミジンの中に陰茎を捩じ込みながら、彼の腰を抱いていた。普段の乱雑さとはかけ離れた丁重さで、抱かれ、抱いた。
    ただただ、快感を貪るのに一番よい形を探していた。
    言葉にすらならない喘ぎ声と、煽ることすら忘れた快感の声が交ざり合って、明け方の前にふっつりと途切れた。



    薄れた昨夜の記憶を手繰りながら、ガミジンは口内の感触に眉根を寄せた。自分のものではない、他人の唾液の味がした。
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