原神BADENDルート………長い、余りにも永く感じる様な旅路だった。
妹を探すために始めたこの旅路、得た物も大きかったけれど、失った物もまた数え切れないほどだった。
仲の良かった友人、信頼していた仲間達、最高の相棒だと思っていた小さな精霊
全てを失って、俺は此処にただ1人で立っている。
……だけど、それももうすぐ終わる。
空の光が届かないほどに暗い大地、所々に焚かれている蒼白い炎がボンヤリと道を照らす中、石造りの冷たい道を身体を引き摺りながら歩みを進める。
俺のゆっくりとした歩みを見守るようにアビスの魔術師が周囲をクルクルと回っているけれど、特に攻撃の意思は感じないからそのままにさせておく。
そもそも相手にする必要すらないんだ。だって彼らは妹の遣いの者たちなんだから。
ノロノロと重い身体を引き摺って、石の道を超えた俺の目の前には荘厳な、しかしてとても冷たい空気を纏う静謐な城が佇んでいた。
満身創痍の俺の姿を見た門番をしていただろうアビスの詠唱者は手馴れた様子で扉の鎖を外し、俺を中へ招き入れる。
《ようこそ、七神統べる世界を旅し、その汚濁を目にした者よ。》
《我等は貴殿の同志である。我等は貴殿を歓迎する。》
《先へ進め、新たな「神」の座を頂く者よ。そこに貴殿を待つお方がいる。》
《貴殿の求めていたお方がそこに居る。》
彼等が何を話しかけているのかは、ほとんど分からなかった。
重厚な音を響かせて重々しく開かれた扉を潜り、恐らく玉座に通じているだろう清廉とした冷たい廊下を進めば道中見かけた扉よりも数倍豪奢な扉の目の前まで辿り着く。
力の入らない両腕を持ち上げ、扉に手をかけ全体重を持って押し開いた。
ギギィと重たい音を立てながら開いた先に見えたのは今まで通ってきた場所とは違い、光に包まれている部屋だった。
いや、部屋自体は他の場所と変わらない空気をしているんだろう。寒色で統一され、冷たい空気を纏う玉座だった。
けれどその部屋にいた彼女によって、俺の目には一気に光が溢れるように見えたんだ。
蛍だ。蛍がいる。
ずっとずっと探し求めて、1度は見えることが出来たのにまた離れ離れになって、永い旅をして、ようやく、ここであえた。
たいせつな、おれのいもうと。
「ようやく逢えたね。お兄ちゃん。」
「ほ……たる………。」
柔らかく微笑む妹が、俺を迎えてくれる。
ずっと張り詰めていた緊張が一気に緩むのを感じて、力の入らない体がそのまま地面に崩れ落ちてしまった。
震える背にそっと触れる暖かな掌、顔を上げればずうっと探していた妹がこんなにも近くに!
「お兄ちゃん、今まで本当にお疲れ様。永い、永い旅路だったよね。沢山の残酷さを目にしてきたよね。分かるよ、私もそうだったもの。」
「もう大丈夫だよお兄ちゃん。すっごくすっごく頑張ったんだよね。」
「ほた……る……。」
「お兄ちゃん、もうがんばらなくてもいいんだよ。私はずっとお兄ちゃんのそばに居るよ。」
「うぁ………蛍………!」
ギュウと蛍が俺の頭を抱きしめて、解けた俺の髪を優しく掬いながら囁くように語りかける。
俺はもう、がんばらなくてもいいのかな。
もう、やすんでもいいのかな。
「やすんでもいいんだよ。」
そっか、そっか…。もうやすんでも、いいんだ。
ただいま、ほたる。
「うん。おかえり、お兄ちゃん。」
「後は私に任せて、ゆっくり休んでね。」