桜『おまえは美人ではないし、器用でもないけれど、誰よりもまっすぐな子だ』
『ここに、この世界に染まらずに生きていきな』
---そして、幸せになるんだよ。
面倒を見てくれていた花魁はそう言っていた。そして、武道が見世に出る前に身請けされ、この世界を去って行った。その時の花魁は普段の着飾った美しさではなく、自然のように美しく、幸せそうな笑顔は武道にとって一生忘れることはないだろう。それ程に美しくあった。それこそが武道が目指すものだと感じていた。
「タケミっち」
「へっ・・・?」
宴席に呼ばれ、客の相手をするのが主な遊女の仕事だ。“遊女”とはいうが、武道も面倒を見てくれていた花魁も男だった。この花街にはそういう趣向の人間たちが訪れては夢を見るのだ。武道もまた夢を見せる側になり、つい先日禿から新造へと上がった。つまり客を取ることができるということだ。普段は宴席にその他大勢の一人として呼ばれることが多い武道だったが、ただ一人だけは違う【佐野万次郎】、通称マイキーと呼ばれる青年だけは違う。武道が禿の頃、当時彼の面倒を見ていた花魁の客と共に来ていたが、武道が新造となり見世に出ると聞いてすぐに彼の客になった。
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