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    setsuna

    しがない文字書きです。
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    setsuna

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    3月9日開催
    🎍受Webオンリー「情炎道中」【展示作品】

    客なマイ×新造な武。
    身請けされるまでの話。

    「桜」の花言葉
    ・純潔
    ・精神愛

    #情炎道中
    #マイ武

    『おまえは美人ではないし、器用でもないけれど、誰よりもまっすぐな子だ』

    『ここに、この世界に染まらずに生きていきな』

    ---そして、幸せになるんだよ。

    面倒を見てくれていた花魁はそう言っていた。そして、武道が見世に出る前に身請けされ、この世界を去って行った。その時の花魁は普段の着飾った美しさではなく、自然のように美しく、幸せそうな笑顔は武道にとって一生忘れることはないだろう。それ程に美しくあった。それこそが武道が目指すものだと感じていた。

    「タケミっち」
    「へっ・・・?」
    宴席に呼ばれ、客の相手をするのが主な遊女の仕事だ。“遊女”とはいうが、武道も面倒を見てくれていた花魁も男だった。この花街にはそういう趣向の人間たちが訪れては夢を見るのだ。武道もまた夢を見せる側になり、つい先日禿から新造へと上がった。つまり客を取ることができるということだ。普段は宴席にその他大勢の一人として呼ばれることが多い武道だったが、ただ一人だけは違う【佐野万次郎】、通称マイキーと呼ばれる青年だけは違う。武道が禿の頃、当時彼の面倒を見ていた花魁の客と共に来ていたが、武道が新造となり見世に出ると聞いてすぐに彼の客になった。
    「心ここにあらずって感じ?」
    少しばかり不機嫌そうに万次郎が頬を膨らませる。少しばかり子供っぽいところがある青年だ。
    「マイキーくん、ごめん・・・」
    そこまで言葉に出した瞬間、武道は手で口を覆う。客相手に普段使っている言葉を使ってしまったからだ。
    「・・・いいよ、それくらい気安くなってくれたってことじゃん」
    気にした様子もなく、むしろ嬉しそうに万次郎は微笑むと、武道の肩を抱き寄せる。
    「オレの前で素のオマエでいろよ、その方が可愛いから」
    杯に入っている酒を一気に飲み干すと、武道の頬に頬を擦り寄せる。
    「ま、マイキーくん??」
    「で?何考えたの?」
    「いや、花魁が身請けされた日・・・のことを思い出して」
    「ふーん、そっか」
    万次郎ももちろん彼を知っている。身請けされた日、万次郎もその場にいたことを思い出す。
    「ただ俺もあんな風に笑っていられたらなって・・・好きな人に身請けされるのって嬉しいことだし」
    この世界にいて、間夫・・・つまり本命に身請けされるのは稀だ。それを二人の知る花魁は叶えたのだ。
    「タケミっちはさ、好きな奴いんの?」
    「え・・・そんな」
    万次郎の問いに武道は顔を真っ赤にし、抱き寄せている為、彼の鼓動を万次郎は近くに感じる。それが答えだと知ると万次郎は「そう」と抱き寄せていた腕を離すと、「タケミっちってまだ処女?」と視線を武道へと向けずに問いかける。
    「それは・・・」
    間違いなく処女だ。宴席に呼ばれるが、床を共にするようなことはない。声がかからないのだ。
    「タケミっちの初めて、オレにちょーだい」
    「へ・・・はい?」
    「そこらの知らねぇ野郎よりはいいだろ?」
    「それは・・・」
    思わず視線を逸らし、武道は地面へと向ける。武道には確かに想い人がいる。叶うか叶わないかはわからない。相手が何を考えているかがわからないのだ。すると、万次郎から小さく舌打ちをする音が聞こえた気がして、顔を上げる。
    「やっと顔上げた・・・今日は帰るけど、明日も来るから」
    それだけ言い残し、万次郎は部屋を出ていった。
    「マイキーくん・・・」
    武道が顔を上げた時に万次郎と目が合い、彼の瞳は悲しそうで、それでいて怒っているようにも見えた。そして今、出ていく時の万次郎の背中は少しだけ寂しそうだった。思わず、その背に手を伸ばしたが、声も手も届かない。

    武道の想い人、それは万次郎だ。初めて会った時の印象は怖い、だった。彼は兄と一緒に姿を見せた。元々年が近いこともあり、武道の話し相手にと連れてきたのだ。
    『オマエ誰』
    『武道でありんす』
    まだ使い慣れない言葉に緊張しながら言葉にすれば、興味がないように『ふーん』と返ってきた。
    『えと・・・万次郎様は何かしたいことは・・・』
    『なんで、オマエみたいな芋くせぇ奴がここにいんの?』
    『芋?!』
    『うん、だって可愛くねぇしさ』
    可愛くないという自覚は武道の中にもあった。本来ならば、花魁の元で学べるわけがなかった。もっと格下の遊女屋で働くことになるだろう。
    『わっちが気に入ったんでありんすよ』
    会話を聞いていた花魁が顔を覗かせる。
    『武道は美人じゃありんせん、でも真っ直ぐで可愛い子。万次郎様、きっと好きになりんすよ』
    『そうかなー』
    花魁が助け舟を出してくれなければ、泣き崩れていたかもしれない。自分にまったく興味も優しくもないのだ。すると、客で来ていた万次郎の兄が笑い出す。
    『マンジロー素直にならねぇと嫌われるぞ』
    その言葉に花魁は持っていた扇子で口を隠した。それと同時に万次郎の顔も赤くなる。
    『あの、万次郎様・・・友達になってくれなんし』
    武道も顔を赤くしながら返せば、彼は頷いた。それから彼は兄と共に足繁く通っては二人で遊んだり、話したりとしていた。その中で彼は素直ではないこと、でも優しい人だと言うことを知ることになる。新造になった時も武道が怖がるだろうと万次郎の提案もあり、彼以外の客とは二人っきりにはなることはなかった。

    「伝えられないよな・・・」
    まだ年季は明けない。ようやく客を取れる立場になったとはいえ駆け出しであり、客は万次郎だけだ。年季が明けるまでどれだけかかるかわからない。
    「きっとマイキーくんにはいい人がいるよな・・・」
    お世辞抜きで万次郎の容姿は整っている。男でも女でも放っておくわけがない。
    『タケミっちの初めて、オレにちょーだい』
    先程の万次郎の言葉が頭に浮かぶ。ここは客に夢を見せる場所、しかし夢を見るのはこちらも同じだ。
    「好きな人に貰ってもらえるならいいよな」
    想いを通わずとも体だけでも繋がることができたなら幸せだろうと武道は頷いた。

    ※※※

    【初恋】だった。
    それは確かに万次郎の一目惚れだった。兄が花魁に入れあげているのは知っていた。一人では見世にいけない兄に無理やり連れられてきたある日、万次郎は武道を“見つけた”。
    『いやだよぉ、帰りたいよぉ』
    見世の裏から声が聞こえた為、万次郎は覗き込めば、万次郎と年はそう変わらない少年がそこにいた。大きな瞳、青い・・・まるで空のような瞳からポロポロと涙を流している。この花街に連れこられるのは大体が親に売られたか、借金のカタに連れてこられたかのいずれかだろうと子供ながら知っている。彼もまたそうなのだろう。普段ならば関係ないと目を逸らすが、今回は違う。その瞳から目を離せず立ち尽くしていた。それは兄に呼ばれるまでずっと、その少年がいなくなっても尚、万次郎は立ち尽くしていた。
    『マンジロー、どうした?』
    『なんでもねぇよ』
    自分がどんな顔をしているのだろう、それはわからない。ただ顔が熱かった。胸が苦しかった。それと同時に必ず先ほどの少年を手に入れたいという願望が胸を満たしていった。

    「明日・・・」
    まだ互いに知らぬ頃の願いが目の前にあることの優越感と高揚感に万次郎の顔には笑みが浮かぶ。武道が他の誰かを想っていたとしても彼のは“初めて”の相手は万次郎であることには変わりはなく、事実として武道の中に残るのだ。それがこの上なく幸せに感じていた。
    「タケミっち・・・愛してる」

    ※※※

    翌日になり、武道は胸が高鳴るのを感じていた。朝起きた瞬間も習い事をしている時も、今夜万次郎に捧げることができることに思い描いていれば、胸が高鳴らないわけがない。
    「マイキーくん、いつ来るんだろ・・・」
    日が傾いたが、今だ万次郎の姿はない。彼はマイペースなところがあるが、武道と会いに来る時間は決まっている。まだその時間ではない。
    「武道、まだ万次郎様が来る時間まで時間があるから手伝ってくれないか?」
    「え・・・」
    楼主に言われてしまえば従わないわけにはいかないと武道は「はい!」と大きな声で返す。浮かれているのがわかりやすい。

    楼主に頼まれたのは荷物の運び入れだった。雇われている若い衆がやるのだが、今は使いに出ているらしく不在のため、まだ新造で客の付いていない武道を呼んだのだ。
    「これ終わるか、万次郎様来たら終わらせていいから」
    「はい!」
    “遊女”とはいえ男だ。力がないわけではない。言われた通りに荷物を運び入れていれば、「武道さん」と声が聞こえた。ゆっくりと振り返れば、そこには使いに出ているはずの若い衆の一人が立っていた。彼は武道が禿だった頃より以前、ここに来たばかりの頃からいる青年だ。話したことはあまりなかったはずだ。
    「どう・・・なにかありんしたか?」
    「武道さん、武道さん武道さん武道さん」
    名前を繰り返し呼ばれ続け、武道の表情は曇っていく。彼は何を言いたいのかわからないのだ。
    「ここから逃げよう」
    「え」
    「俺が武道さんを幸せにするから、逃げよう」
    腕を捕まれ、武道を引き摺るようにして、男は歩き始める。突然のことに声が出ず、武道は口をパクパクと、まるで金魚のように動かすしかなかった。しかし遊女と若い衆の恋愛はご法度であり、知られてしまえば、どちらも罰せられる事は知っているはずのことだ。ようやく正気に戻り、声をあげようとして瞬間、「タケミっち」と聞き覚えのある声が聞こえた。声も当然のことながら、その呼び方をするのは一人しかいない。すぐに振り返ると、そこには待ち人である万次郎の姿があった。
    「どこに行くの?」
    「オレと約束してたよな?」
    「それがオマエの好きな奴なの?」
    返答をする間もなく続けられる問いに武道は万次郎が怒っているのだと気づいた。
    「マイキーくん・・・」
    「絶対ぇに渡さねぇ・・・」
    武道の声は聞こえていないようで万次郎は唸るように呟くと、武道の腕を掴んでいる男を蹴り飛ばす。
    「殺さねぇよ・・・でも楼主には伝えとくから、死んだ方がマシだって目に合うかもな」
    にっこりと満面の笑みを浮かべるとすぐに武道の腕を掴んだ。
    「タケミっち、おいで」
    「あ、はい・・・」
    満面の笑みを浮かべているのに関わらず伝わってくる怒気に武道は全身を震わせていた。

    ※※※

    部屋に通されると、万次郎はそのまま武道を布団の上へと放り投げる。受身が取れなかった為、武道はそのまま布団へとうつ伏せに倒れ込むことになった。
    「マイ・・・」
    「“万次郎様”だろ、タケミっち」
    オレは客だよ、と冷たい口調で告げられ、思わず息を飲む。今まで聞いたことが無いほどに冷たい声に背中をぶるりと震わせれば、「は!」と万次郎が笑うような声が聞こえた。
    「あれがタケミっちの間夫?残念だったね、オレに見つかっちゃってさ」
    「マ、万次郎様・・・彼は」
    武道が想っているのは万次郎だ。それを告げたいのに、武道が言葉を発しようとした瞬間、後ろから顔を捕まれ、そのまま万次郎は武道の唇へと噛み付くように口づけ、何度も何度も角度を変えながら、まるで味わうように繰り返した。接吻にも慣れていない武道は息の仕方も分からず、唇が離れる頃には意識を失いそうになっていた。
    「まだまだこれからだろ、タケミっち♡」
    身体を仰向けにされ、組み敷くように万次郎は武道に覆い被さろうとした瞬間、「まんじろう、さま」と武道の口から漏れた小さな声が聞こえ、万次郎は思わず手を止めてしまう。
    「聞いて、くれなんし・・・お、わっちが好いているのは万次郎様でありんす」
    「は?え?」
    「うそじゃありんせん・・・万次郎さまをお慕いして・・・」
    「ほんと・・・?」
    力が抜けたように万次郎は武道の上から降り、彼の横に座り込んだが、すぐに「タケミっち、ごめん」と武道を抱き起こし、抱きしめる。
    「万次郎さま?」
    「マイキーでいい、マイキーって呼んでよ・・・タケミっち」
    もう一度、“ごめん”と呟けば、武道は首を横に降る。
    「マイキーくん・・・」
    「うん・・・早とちりしてごめん」
    「大丈夫ですよ」
    「タケミっち・・・好き」
    本当の好きな人と同じ想いでいられることがどれほど幸せなのか、自分の面倒を見てくれていた花魁がどれだけ幸せだったのか、武道は身に染みて理解した。
    「タケミっちの初めてが貰えたら、それでよかったけどさ・・・オレ欲張りだから、オマエの人生全部ほしい」
    「それって・・・」
    「楼主とはオマエが禿の頃から話ついてんの」
    “身請けさせてよ”と万次郎は微笑むと、武道の手を握る。すると、「マイキーくん・・・」と震える声で彼の名を呼ぶと、武道の瞳から涙がポロポロと溢れ出した。それは、万次郎が武道を初めて見た日と同じくらい、いやそれ以上に愛らしく見えた。万次郎はその溢れ出ている涙を掬うように拭いながら、武道の瞼に口付けた。

    ※※※

    万次郎が事前に楼主と話していた事もあり、武道の身請けの話は滞りなく進み、あっという間に花街を去る日になっていた。
    「武道、あんたは幸せもんだな」
    楼主は噛み締めるように呟くと武道の手を包み込むように握った。
    「うちの見世は遊女の仕事とはいえ、できる限り尊重はしているが、綺麗なまま身請けされるのはお前くらいだ」
    その言葉に武道は頬を紅く染めながら俯けば、楼主は「そうか」と頷いた。言葉にせずとも気づいたようだ。
    「タケミっち!」
    楼主と武道が話しているところに万次郎は嬉しそうな笑みを携えて歩み寄ってきた。
    「マ、万次郎さま」
    普段通りに呼びそうになった名前を息と一緒に飲み込むと、「あとでたくさん呼んでくれよ」と万次郎は武道の額へとそっと口づける。
    「タケミっち、行こっか」
    「万次郎様、わっちはどんな顔を・・・」
    憧れていた花魁のように笑えているだろうか、自然に微笑んでいるだろうか。
    「可愛いよ」
    そう言葉にすると、万次郎は武道の手を引き歩き出す。この街での想い出は花魁と万次郎がいる。花魁が去った後は万次郎だけだったな、と空を見上げてみる。
    「マイキーくん・・・俺、幸せです」
    「うん」
    ゆっくりと歩みを進めていれば、花街の入り口を指す門の前へと差し掛かる。まだ門をくぐっていないが、気持ちが溢れてしまった。
    「タケミっちはこれからもオレだけに愛される」
    「はい、末永く末永くよろしくお願い申し上げます」
    門をくぐれば、花街ではなく、武道の知らぬ世界。そこを万次郎と生きていくことがまるで夢のようだと武道の頬を涙が伝う。
    「泣き虫だなー」
    万次郎の手が、指が武道の頬を撫でると、「タケミっち、こちらこそ末永くよろしくね」と今度は肩を抱き寄せれば、万次郎の温もりを直に感じ取れ、それは万次郎も同じことだ。これから共に生きていくものの温もりだ。
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    setsuna

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    🎍受Webオンリー「情炎道中」【展示作品】

    客なマイ×新造な武。
    身請けされるまでの話。

    「桜」の花言葉
    ・純潔
    ・精神愛
    『おまえは美人ではないし、器用でもないけれど、誰よりもまっすぐな子だ』

    『ここに、この世界に染まらずに生きていきな』

    ---そして、幸せになるんだよ。

    面倒を見てくれていた花魁はそう言っていた。そして、武道が見世に出る前に身請けされ、この世界を去って行った。その時の花魁は普段の着飾った美しさではなく、自然のように美しく、幸せそうな笑顔は武道にとって一生忘れることはないだろう。それ程に美しくあった。それこそが武道が目指すものだと感じていた。

    「タケミっち」
    「へっ・・・?」
    宴席に呼ばれ、客の相手をするのが主な遊女の仕事だ。“遊女”とはいうが、武道も面倒を見てくれていた花魁も男だった。この花街にはそういう趣向の人間たちが訪れては夢を見るのだ。武道もまた夢を見せる側になり、つい先日禿から新造へと上がった。つまり客を取ることができるということだ。普段は宴席にその他大勢の一人として呼ばれることが多い武道だったが、ただ一人だけは違う【佐野万次郎】、通称マイキーと呼ばれる青年だけは違う。武道が禿の頃、当時彼の面倒を見ていた花魁の客と共に来ていたが、武道が新造となり見世に出ると聞いてすぐに彼の客になった。
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    客なマイ×新造な武。
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    「桜」の花言葉
    ・純潔
    ・精神愛
    『おまえは美人ではないし、器用でもないけれど、誰よりもまっすぐな子だ』

    『ここに、この世界に染まらずに生きていきな』

    ---そして、幸せになるんだよ。

    面倒を見てくれていた花魁はそう言っていた。そして、武道が見世に出る前に身請けされ、この世界を去って行った。その時の花魁は普段の着飾った美しさではなく、自然のように美しく、幸せそうな笑顔は武道にとって一生忘れることはないだろう。それ程に美しくあった。それこそが武道が目指すものだと感じていた。

    「タケミっち」
    「へっ・・・?」
    宴席に呼ばれ、客の相手をするのが主な遊女の仕事だ。“遊女”とはいうが、武道も面倒を見てくれていた花魁も男だった。この花街にはそういう趣向の人間たちが訪れては夢を見るのだ。武道もまた夢を見せる側になり、つい先日禿から新造へと上がった。つまり客を取ることができるということだ。普段は宴席にその他大勢の一人として呼ばれることが多い武道だったが、ただ一人だけは違う【佐野万次郎】、通称マイキーと呼ばれる青年だけは違う。武道が禿の頃、当時彼の面倒を見ていた花魁の客と共に来ていたが、武道が新造となり見世に出ると聞いてすぐに彼の客になった。
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