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    夏naaa

    ここは墓場です。
    書き捨ても普通におきます。

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    夏naaa

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    バイト編。
    やっと高さこ小説を書けたのに、バイトの話がなかったら繋がらないなと思い、載せます…。
    最後のおわりかた納得がいってません。涙

    雑渡さんが寂しがってるところを書きたかった…。

    バイト編「え?バイト??」
    「はい!大学行く前にやってみたいバイトをしてみたくて!!」

    いさ子は目をキラキラさせ、やる気に満ちている。

    「実はもう面接して、平日週3日間やることになりました!」
    「え?私に断りもなく?!」
    「雑渡さんに言ったら絶対反対されると思ったんですもん!でも、もう決めたことなので断れないですからね!」

    得意気な顔をしてるいさ子とは対照的に絶望にも似た表情で落ち込んでる雑渡。

    (いさ子ちゃんはいいだろうけど)

    なにせ可愛い。そして、身体つきが大人になった。
    胸は14歳から確実に大きくなって、お尻も形がよくなった。
    ケーキを食べさせてる為太ってきた!と怒ってるが、多分発育が良くなったことも関係している。

    (バイト中は私が側にいてあげれない…。)

    いさ子がいくら気をつけても、周りの男どもはほっとかないだろう。
    なんだったら事件にまで発展するかもしれない…。
    (そんなの、堪えられない!!)
    なんとかしなければなるまい。
    雑渡は頭を抱えた。


    いさ子のバイトは喫茶店だった。
    雑渡の駅の一つ前にある、学生たちもあまり来ないであろう場所だ。

    (どうしてもお洒落な喫茶店で働いてみたかったんだよね…。)

    ワクワクしながら制服を受け取った
    いさ子はホールスタッフで働くことになる。

    木を基調とした店内で、椅子が一つ一つ違っており、珈琲が美味しいと言われているお店だ。
    デザートも人気で、グレープアイスを皿に乗せ食べるのだが、それがまた美味しい。
    端はパリパリに焼かれてるのだが、中身は柔らかくアイスにぴったりで、いさ子も食べて一目惚れし、働くならここだ!と決めた。 
    17~21時の4時間。
    後片付けもいれるとだいたい21時半。

    ユニフォームを着ると「ちょっと胸がきついかも…」
    と口にでてしまう。
    まぁエプロンで隠れるから大丈夫だろうと気にしないことにした。
    カジュアルで統一されており、初めてのバイトで自分がお洒落な店で働くのはとても嬉しかった。
    ポニーテールをほどき、下に結んでお団子にしてまとめた。
    その姿だけでも、高校生には見えず、大学生と言われても疑われないだろう。

    ホールに出て、先輩たちに挨拶をする。
    そのうちの一人がいさ子に話しかけてきた。
    「初めまして!今日から入った新人さんだよね?」
    「はい!善法寺いさ子と言います!よろしくお願いします。」
    「よろしくね。私が新人教育係りの山本シナと言います。わからないことあったら気軽に聞いて。」
    「はい。」

    (綺麗な人だなぁ。いい人そうで良かった。)
    いさ子はシナにまずはキッチン業務を教わり、メモを取りながら、ぎこちなくだが問題なくこなしていった。

    「覚えるの早いわね。助かるわ。」
    「シナさんが教えるのがお上手だからですよ。」

    うふふ上手ね。と笑い次はホールに注文をお願いと頼まれた。

    「なにかあったらすぐ助けるから、まずは慣れてね!」
    「わかりました。」
    「あそこのお客様が先ほど呼んでたからお願いね。」
    「はい!」

    いさ子は元気に返事をすると、早速注文をとりに指定された机へ向かう。

    「あ、あれ?尊奈門さん??」
    「や、やぁ…。」

    気まずそうに視線はいさ子に合わせずどもりながら挨拶をした。

    「え?お仕事は…?」
    「それが、無理やり休憩を取らされて…。」
    「あ、あぁ…ソウデスカ…。スイマセン。」
    「いや、いさ子ちゃんは悪くないだろ。」

    お互いに重いため息をついた。

    「とにかく、珈琲を一杯貰える?」
    「わかりました。えーと、どれでしょうか?」
    「え??」

    改めてメニューを開きみると、ズラッと珈琲の種類が記載されていた。

    「え??こんなにあるの?!」
    「はい…ここ、どの珈琲も美味しいみたいですよ。」
    「あぁ、そしたらここのブレンド飲んでみるよ。」
    「わか、あ。かしこまりました!」

    メモをして一礼をし、早速キッチンの中に人に伝える。
    その間にシナが、珈琲を頼まれた時に用意する物をトレーに乗せて、「今度珈琲を頼まれたらここにこれとこれを。」と説明をしてくれた。

    珈琲が出来てたので、「よろしく」と珈琲ビーカーが置かれ、いさ子が珈琲カップに入れる。
    カップも各々違うものが置かれているため、視覚的にも楽しい。
    丁度カップに入る量なので全て入れて尊奈門に運んでいった。

    「お待たせしました。」

    まだ不馴れで片手でトレーを持つのが難しくガタガタ揺れてしまう。
    思わず尊奈門が大丈夫か?と聞いてしまうほど不安定だ。
    するとシナがスッと横に現れて耳打ちをする。

    「そういう時は、机の端において片手で置くと良いわよ。」
    「は、はい!」

    アドバイス通りやるとスムーズにカップを置くことができた。
    いさ子は、心でやったー!と喜んだ。
    尊奈門もほっと肩をおろした。




    「で?いさ子ちゃんの写真は????」
    「撮るわけないじゃないですか!!!店内でそんな恥ずかしいこと!!!!」

    尊奈門が怒りながら答えた。

    「だいたい!なんで俺が行くんですか!!雑渡さんが行けば良かったでしょ?!」
    「私この仕事終わらせないといけなかったからさー」
    「それ俺の仕事ですからね??なに言ってんすか?!」
    「だってさー!!さすがに初日で私が行ったらいさ子ちゃんになんて言われるか!!それか嫌われちゃうかもだし!!」
    「だからってね…。いさ子ちゃんもあきれてましたよ!」
    「えぇ、別に嫌ったりはしてないんだよね?セーフ。」
    「なにがセーフだ。」
    「あと、いさ子ちゃんの制服姿どうだったの?返答によっては目を潰すけど。」
    「なに怖いことさらっと言ってんですか?止めて下さいよ。」

    全くと疲れた様子で、腕組みをして思い出す。

    「いさ子ちゃん、大人っぽかったですよ。高校生には見えませんでした。」
    「ねぇ、どこを見て大人っぽかったの??」
    「いや、雰囲気ですよ!雰囲気!!目に指を突こうとしないで下さい!!!」

    必死に抵抗する尊奈門に、少し苛立ちを見せる雑渡を見て、山本が口を挟んだ。

    「昆辞めろ。お前が無理やり行かせたんだろ。」
    「そうだけどさぁ。」
    「明日はお前が行けばいいだろ。
    この時期はそんなに忙しくないだろうが。」
    「うーん。行きたいのは山々なんだけど。」
    「いさ子ちゃんの制服姿は可愛かったですよ。」
    「まじで潰すよ?」
    「だからお前が行けば済む話だろう!尊奈門に当たるな!」

    正論を言われ、むっと黙った雑渡だった。




    「雑渡さん!尊奈門さんに無理やり行かせましたね?!」
    「だって、心配だったんだよ。」
    「もう!今度は雑渡さんが来てください!!」
    「え?いいの?」
    「人に迷惑かけるくらいならそれでいいです!!
    いつも心配って、子供じゃあるまいし心配しすぎです!では!」
    「あ、いさ子ちゃ、切れちゃった…」


    バイトが終わって電話がかかってきたみたいで、急いで電話を取るも怒られてしまった。
    丁度仕事が終わった雑渡がはぁとため息をついて携帯の待ち受けを眺める。
    眺めてる写真はいさ子と一緒に撮った写真だ。

    「なんで私に言ってくれなかったの?」

    そこが一番寂しいと思う原因だった。
    確かに反対していたかもしれない。しかし、言わないで自分で決めて報告された事が一番悲しかった。



    「あぁ、修学旅行ねぇ。」
    「はい!それもありますが、えーと、さっき言ってた婚約者の誕生日が近いので、今回は良いものをあげたくて…。」
    「健気ねぇ。」

    バイトの帰りにシナと一緒に話ながら帰っていた。

    「今電話してた人でしょ?」
    「そうなんです。心配性なのはわかるんですけど今日も部下の人を使って、店に偵察みたいに無理矢理行かせたみたいで…。」
    「あら、可愛いでしょ。それくらいなら。」
    「えぇ?シナさんはそう思うんですか?」

    信じられないと言った様子でシナに聞いてみる。
    シナはうーんと少し考え答えた。 

    「もしいさ子ちゃんの事が信用してなかったら制限すると思うの。」
    「制限ですか?」
    「そう。「束縛」していさ子ちゃんの動きを制限することによって安心したいって思うんじゃないかな?」
    「うーん。」

    確かに「嫉妬」はよくするが、「束縛」でいさ子の事を押さえたことがなかった。
    結果的には許してくれ、それに対して心配するが、制限はしたことはない。

    「確かに…」
    「いさ子ちゃんの事が可愛くて仕方ないのね。」

    そういう事なのかもと妙に納得した。
    駅につくと、シナは「じゃあ私はここで。」と駅に入らずいさ子を見送る。

    「え?!駅に入らないんですか?!」
    「私、この近くに住んでるのよ。」
    「そんな、私の為に一緒に歩いてくれたんですか…?」
    「いつもの帰り道だから気にしないで、こっちの方が近いのよ。」

    再度シナにお礼を言うと、また明日よろしくねと去って行ってしまった。
    シナの背中を見て、女性の強さを感じかっこいいとつい口から漏られしまう。

    「明日も頑張らないと。」

    シナのようにかっこよくはできないだろうが、近づく為に頑張ろうと意気込んで帰っていった。




    「昨日はどうだったの?」
    「スッゴク楽しかった!!」

    いさ子と仙子が朝の教室で話をしていた。

    「それにね、私に教えてくれる人が女性なんだけどかっこいいの!!!!シナさんって言うんだけど!」
    「へー?」
    「もう美人だし、優しいし完璧な人なの!!私もシナさんみたくなりたい!!」

    初めて人を見て「こうなりたい」と
    言っているいさ子に驚きながらも小さい拍手を送る。

    「とりあえず、カツラと下着は絶対買いたいから頑張る!」
    「そうね、私も頑張る。」

    二人で改めて目標を言い合いモチベーションをあげた。


    学校が終わりバイトに向かうと、
    駅の中にある服屋さんを色々見ながら歩いていく、するとあるメンズ服のディスプレイが目にはいった。
    「これ可愛いなぁ。」
    それは柄シャツで、雑渡が着ないであろう派手なプリントをされていた、眺めて雑渡がきた所を想像してみる。
    「似合うと思うけどなぁ。」
    服は好みがあるもんね、とプレゼント候補からは外すことにした。




    「あら、お疲れ様。早いわね。」
    「お疲れ様です!ちょっと昨日の復習したくて。」
    「それは、こちらとしてもありがたいわ。でも、まだ時間じゃないから休憩室に居てね。」
    「はい!」

    シナに言われて休憩室に入ろうとすると、男がでてきた。

    「あ、すいません!」
    「…いや。急に出てきてすまん。」

    ぼそりと呟くような声で謝られたので「こちらこそ」と返した。
    いさ子は昨日キッチンにいた人だと思い出し自己紹介をする。

    「キッチンの人達には挨拶できなかったですよね。昨日入ったいさ子って言います。よろしくお願いします。」
    「…中在家長次だ。よろしく。」

    そう言うとそのまま行ってしまった。
    がたいの良さでは雑渡といい勝負だ。

    「ここの正社員かな?」


    時間がきたのでホールに行き、準備をする。
    席にある紙ナプキンの補充、調味料などの管理、机を消毒、玄関の掃除など細かいチェックをしていく。

    (雑渡さんはまだ来てないな。)

    昨日少し言いすぎたかもしれない。そう思うと少し心が痛くなる。

    「いらっしゃいませ。」

    シナが言うので続けていらっしゃいませと振り返る。

    「あ!いたいた。」
    「あ、左近!」

    一つ下の後輩が店に入ってきた。
    嬉そうにドアの近くの席に座りいさ子を眺めている。
    シナに「知り合い?」と聞かれ正直に「後輩です。」と答えた。

    「そしたら、任せたいけどいい?」
    「もちろんですよ!」

    そういうと、お水を用意して席に持っていく。
    左近は仙子の後輩でもあるので、きっと仙子に聞いてやってきたのだろう。


    「いさ子先輩ここでバイトしてるって聞いて早速来ちゃいました。」
    「来てくれてありがとう。昨日から入ったばかりだから、ぎこちないと思うけど。」
    「先輩、ここで不運発揮しないでくださいね。」
    「嫌なこと言うなぁ・・・。」

    あははと苦笑いで答えた。
    実は、昨日不運とはいかないが、何度か失敗している。
    しかし、まだお客さんに不運は及んでいないので、まだホールで様子見という状況だ。

    「いさ子先輩!私、これ食べたいです!。」

    指を指して注文をする。頼んだ物はデザートのクレープだ。
    メモをして、プラスする物、飲み物を聞いてキッチンへ戻って行く。
    キッチンへ先ほどの注文を長次に聞こえるように言うと「もそ」と返事が来た。
    シナがその間にトレーに用意するものを教えていく。
    すると「ガシャン」と音がした。シナが急いでホールへ向かい、いさ子もシナに続いてホールへ向かった。
    行くとそこには左近が一人の男性に謝り倒していた。
    その男性にいさ子は見覚えがあった。

    「あ、高坂さん?」

    みると高坂が着て居るスーツのズボンに水がかかっているようだ。
    シナがタオルで拭いていて、左近もふきながら謝っている。
    タオルをもう一枚持ってこようとしたが、一人いない事に気づいた。
    (あれ?雑渡さんは?)


    「本当に、本当にすいません。」
    左近は高坂に深々謝っている。高坂はもう大丈夫だよと言ってるがなかなか謝るのをやめてくれない。
    どうして水がかかったのか。
    左近が水を飲もうとコップを持つ際に、距離を間違えたらしくそのまま落下。
    運の悪いことに来店した高坂のズボンにかかった。とのことだった。
    「もう、大丈夫だって。水だから。」
    「それでも、そのスーツっ」高いのでは?と言いたいが我慢した。
    お金のことを言うのは少し失礼なことかと思ったからだ。とにかく「すいませんでした。」
    と言うので精一杯だった。

    「そうしたら、ちょっと付き合ってよ。」
    「え?」
    「付き添いで一緒に来た人が、途中で帰っちゃってね。一緒に食べてくれない?」
    「あ、え?私でいいんですか?」
    「男一人で居るよりは、女性と一緒にいる方が自然だろ?
    水をかけられたお詫びとしては十分だよ。」

    そう言うと立ち上がって椅子を引いて促した。
    左近は今までそんな対応されたことがなく、「えええ!?」と顔を真っ赤に染める。
    無言で頷いで、座っていた席に急いで荷物を取りに行く。
    高坂がそれを見て(小動物みたいだなぁ)と斬新な気持ちを感じていた。

    「あれ?そっちに座ったの?」
    「は、はい・・・。」
    なぜか下を向いて真っ赤になっている左近を見て謎が深まる。
    持って来たデザートを左近の前に置き、高坂がシナに頼んだ珈琲も一緒に置いた。
    すると高坂が話しかけた。

    「いさ子ちゃん、ごめん、雑渡さん途中まで一緒だったんだけど、途中で「やっぱ仕事する」って戻っちゃったんだ。
    俺はそのまま店に行けって言われて来たんだけど。」
    「え!?いさ子先輩とお知り合いだったんですか!?」

    左近が下を向いていた顔をいさ子に向ける、真っ赤な顔はそのままだが思わぬ「知り合い同士」と言う
    事にびっくりしたらしい。

    「えっと、そうだね、高坂さんは私の婚約者の部下に当たる人だよ。でも、そうでしたか、残念です。」

    少し落ち込んで居ると左近が「忙しい方なんですね。」と相槌を打つ。
    すると高坂がそれに対して笑いながら左近に伝える。

    「今の時期はそんなに忙しくないよ。あの人、なんか知らないけど落ち込んでるみたいで。」

    いさ子はドキリと心臓が鳴った。やはり電話の件で落ち込んで居るのでは?と嫌な汗がジワリと浮かぶ。
    「いさ子先輩?」
    何も言わないで立ちすくんでるいさ子を心配して声をかけた、いさ子は「で、ではごゆっくり。」と急ぎ足でその場を後にする。
    戻りながらも鼓動が落ち着かない。傷つけてしまったかもしれない、もしそうなら嫌われるかもしれないと考えがよぎった。
    いさ子は今まで考えたことがなかった。それは一番に自分の事を考えてくれてた人が「来ない」と言う事実に不安が押し寄せたからだ。



    左近と高坂が帰り際に少し揉めていた。どうも左近がトイレに行ってる間に会計をしてしまったらしい。
    二人が店に出て外で会話をして居る。

    「自分の分は自分で払うのに!これだとお詫びにならないじゃないですか!」
    「まぁまぁ、楽しかったからそのお礼だよ。」
    「そんな、本当はこちらが支払わないといけないのに。」
    「あ、そしたら連絡先教えてよ。そしたらお礼になるよ?俺にとっては。」
    「・・・へ?」

    思わぬ言葉に左近は動きが止まる。
    そしてまた真っ赤な薔薇が咲いたように今度は全身が赤くなっていくのだった。


    「はぁ、結局行けなかった…。」

    雑渡は落ち込んでいた。途中でいさ子の反応が怖くて戻ってしまった。
    「いつも心配って、子供じゃあるまいし心配しすぎです!」
    その言葉通りだった。自分でもわかっては居るがどうしても嫌な方へ考えてしまう。
    思えば、14歳の頃から一緒にいて常に”何か”に怯えて居るような気がする。
    出会った頃も、自分の中にある黒い感情に驚いたが年々大きくなって行くような気がした。
    トドメは「言ってくれなかったことが寂しい。」だなんて我ながら子供みたいで滑稽だ。

    「はぁあ、いさ子ちゃんになんて言おう。」

    戻って来た高坂にどうだったか聞くと「自分で行かなかったのだから教えませんよ。」
    とすっぱり言われてしまった。
    そして、終始ニヤニヤして居る高坂にイライラして八つ当たりをして、また山本に怒られてしまいずっと気分が晴れずに居る。
    家についてドアに鍵を差し込んで回ると「あれ?」鍵がかかっていなかった。
    もしかして、鍵をかけずに出かけたか?と思い、ドアを開けると部屋に明かりがついていた。
    居間につながるドアがガチャと開いて「お帰りなさい。」といさ子がお出迎えをする。

    「え!?いさ子ちゃん!?」
    「今日は遅かったですね〜、仕事忙しくないって高坂さんから聞きましたけど。」
    「え?あ、うん。そうなんだけど…その服?」

    いさ子が着て居るのは雑渡の服だ。
    少しぶかぶかだが、胸の部分で裾がいい感じの長さになって居る。
    いやその前に「いさ子ちゃんの服があるじゃない。」
    そう言うと、目線をずらして「雑渡さんの服を着たかったんです。」と口を尖らせて言われ、
    雑渡は心で(俺の嫁可愛すぎない・・・?)と頭を抱えて呟いた。

    「とりあえず、早く入ってください。」
    「あ、あぁ。」

    とにかく部屋に入り、スーツを脱いだ。
    いさ子はハンガーを持ち、雑渡からスーツを受け取ってハンガーにかけた。
    「あ、ありがとう。」
    「いいえ。」
    なんだが、ちょっと新婚っぽいぞ。そう思うとニヤニヤしてしまうので、顔に力を入れて我慢する。
    しかし、いさ子は真顔でスーツにブラシをかける。
    その様子に一瞬にして真顔になり、「これはもしかして」と思い聞いてみる。

    「あの、いさ子ちゃん?」
    「はい?」
    「もしかして怒ってる?」

    スーツをクローゼットにかけて閉めると、動きが止まった。
    「? いさ子ちゃん?」
    何も言わないいさ子に不安を感じ話かけると、勢いよく振り返るいさ子の目が涙目だ。
    びっくりして一瞬ひるむと

    「怒っているのは、雑渡さんの方ではないですか!?」

    と言われてしまった。

    「え?え!?なんで!??」
    「だって、今日来てくれなかったじゃないですか!」
    「あ、いや。それはこっちの事情で。」
    「高坂さんが「落ち込んでいる」って言ってましたよ!」
    「(陣左!あの野郎!)ほんとに大丈夫怒ってないよ。」
    「じゃあ、なんで今日来てくれなかったんですか?」

    うっと止まった。(確信を突きに来たな・・・)
    まだ自分の中で説明がうまくできずに考えていたのに、今説明しろと言われても言えない。
    いや、わかってはいる。いるが、(言えるわけない・・・。)
    大の大人がそんな幼稚じみたことでいじけて行かなかったなんて言いたくない。
    説明ではなく言い訳を頭がぐるぐる回っていて、どう言えばいいか悩んでしまう。
    いさ子は、なかなか言わない雑渡に沈んだ表情をした。

    「雑渡さん、私の事嫌いになりましたか?」
    「え??なんでそうなる!?」
    「昨日の電話で傷ついて、嫌いになったんじゃないですか?」
    「そんな、そんなことで嫌いになんかならないよ。」

    とりあえずいさ子の頭を撫でていさ子の言葉を否定するが、とうとう涙をボロボロと落としてしまう。
    慌ててティッシュを持って来ていさ子の顔を拭いてあげ、こんな事で泣かせるつもりなんてなかった雑渡は、ハァっとため息をついて観念して正直に言うことにした。

    「ごめんね、本当はいさ子ちゃんがバイトの事を私に内緒にしてた事が、その、寂しくて…。」
    「へ?」

    いさ子は顔を雑渡に向けると、まだ泣きやめなくて目が濡れて居る。
    その目に雑渡は、もういいかと思い続けて話した。

    「いさ子ちゃんが、バイトをしたいって相談してくれなかった事が寂しかったの。
    まぁ、もちろんいさ子ちゃんから怒られたことも効いたけど。寂しくてちょっと拗ねてた、かも?」
    「そうだったんですか…。」

    恥かしくて認めれず疑問形で言ってしまった。
    いさ子はだんだん顔を緩ませて、「よかった。」と一言。

    「私、雑渡さんに嫌われる事なんて今まで考えたことなくて、もし嫌われたらと思ったら怖くて。」
    「ごめんね不安にさせて、そんなことで嫌わないから大丈夫だよ。」
    「私の方こそごめんなさい。ちゃんと言えばよかったですね。あと言い過ぎました。」

    やっといつものいさ子の表情になって安心した。
    (そんな事で心配してくれるなんて、嬉しいな。)
    自分と同じくらいに気にしてくれていたことにこの上ない喜びを感じ、いさ子に抱きついた。
    それに多少とも驚いたが、いさ子もそれに応えるように抱きつき返す。
    いさ子は、上目遣いで雑渡に聞いた。

    「今日は、しないんですか?」
    「え?」

    それはしたい・・・したいが・・・。

    「今日は辞めとく。明日も早いしね・・・。」
    「そう、ですか・・・。」

    少し残念そうにするいさ子に、身体の芯が熱くなるのを感じたが我慢をする。
    (ここは、大人だから…。)
    更にぎゅうっと抱きついて熱をそれで発散させる。
    いさ子もそれに安心したのか雑渡の胸の中で幸せを噛み締め身を委ねた。




    「んで、仲直りしたの?」
    「はい、すいません・・・。」

    バイト先でシナに相談していたので報告をした。
    昨日はいさ子が小さい失敗をして、シナがどうしたのか?と聞くといさ子の相談され、
    「話し合った方がいい。」とアドバイスをもらった。その日のうちに行ったのはシナのおかげだ。

    「よかったわね。解決して。」
    「ありがとうございます。助かりました。」

    シナはいいのよ、今日も頑張ってね。と言い仕事に戻った。
    (本当にいい人だし、出会って間もない私の話しを聞いてくれるなんて本当優しい。)
    いさ子は今度こそ失敗しない!と気合をいれる。すると店内のドアから怖ず怖ず雑渡が顔を出してきた。

    「いらっしゃいませ。」

    いさ子が喜びを隠せないような声で話しかけた。
    ビクッと肩を揺らして、いさ子に「一名でお願いします…。」と静かに呟く。
    奥からシナが「いらっしゃいませ。」と声をかけると、雑渡は「え?」と声を出し、
    それに気づいて、シナも「あら?」と気づき近づいてきた。

    「雑渡さん?」
    「あ、やっぱり山本さん?お久しぶりですね?」

    二人はびっくりして店員と客と言う立場を忘れて普通に話していた。
    いさ子もびっくりして「え!?お知り合いなんですか!?」と聞くと二人はいさ子を見て頷く。

    「父さんの取引会社の娘さんだよ。」
    「へ!?」
    「何度か会ったことが会って、この怪我をしてから会ったことなかったんだけど。」
    「まさか、いさ子ちゃんの婚約者が雑渡さんだなんて…。」

    3人で驚いて変な間が空いた。



    雑渡が席について、シナが目の前で座り話していた。
    運ばれた珈琲はそのまま手をつけていない。

    「いや、ほんとお久しぶりですね。ここ山本さんの会社なんですか?」
    「えぇ、エリアマネージャーして勉強してるの。もう少ししたらまた別の店舗へ移動するのよ。」
    「そうでしたか、お父さんはお元気で?」
    「えぇ、相変わらず。」

    二人で話してるのをキッチンで覗いて見ているいさ子。
    自分が知らない雑渡を知ってるのが心がモヤモヤしている。

    「すいません。注文をお願いします。」
    「あ!いま行きます!」

    お客さんの注文を聞きに行くが、会話が気になりあまり集中できない。
    間違えないように繰り返し注文を確認しキッチンへ伝えに行く。
    トレーにその注文された物を乗せていき、メモを見て確認をする。
    それでもやはり二人の事が気になり、ちらっとホールを見てしまう。

    (雑渡さんが楽しそうに話してるのはいい事なのにな。)

    シナに対しても悪い感情などはない、しかしどうもモヤモヤする。
    コツンと頭に何かあたり、見ると長次だった。わざわざキッチンから出ている事に驚いた。

    「え!?何かありましたか??」
    「…仕事中は集中しろ、それでなくても失敗してるだろ。」
    「あ、す、すいません。」

    その言葉通りで、働いてる間に失敗しているのだから集中しなくてはならない。
    声色も言葉も心にぐさりと刺さり少し泣きそうになってしまう。
    すると長次が頭に乗せていた物の正体をいさ子に差し出した。
    小さい小皿にクレープでメニューには載ってないデザートが乗っている。

    「え?これ。」
    「ちょっと試作を作って見たから食べてくれ。」
    「いいんですか?」

    頷いて小皿をいさ子の目の前にやり、受け取るのを確認するとキッチンへ戻ってしまった。
    注文をもらってるので急いで食べると、試作にしては美味しくて頬が落ちそうになる。

    「スッゴク美味しいです!」
    「…」

    長次はそれを見ても真顔のままだったが、どことなく雰囲気が嬉しそうで、キッチンの奥に引っ込んだ。
    いさ子は改めて集中しよう!と心に決めて、出来た料理を運んだ。




    いさ子が料理を運んでるのをハラハラしながら見てる雑渡を見て、シナがふふと笑う。

    「なにか?」
    「いえ、昔よりもだいぶ穏やかな表情になりましたね。」
    「そう見えるならいさ子ちゃんのおかげですね。」
    「でしょうね。いさ子ちゃんがここにきて職場が明るくなりましたもの。」
    「そうでしょうとも。」
    「いさ子ちゃんの話だと雑渡さんだいぶ変わりましたね。」
    「…火傷の跡でだいぶ人間関係も変わりました。」
    「そうですね…、噂で色々聞いてましたよ。大変でしたね。」
    「大変だったけど、今は幸せにやってますよ。」
    「そのようで安心しました。あ、また父がお世話になると思うので、よろしくとお父様にお伝え下さい。」
    「わかりました。」

    シナは一礼してキッチンに戻っていった。
    雑渡は昔のシナの面影を見て、懐かしく思う。
    (あの人も大きくなったなぁ。)
    運んでもらった珈琲を飲むと、美味しくてつい珈琲を眺める。


    「雑渡さんとお知り合いだったなんて、しかもエリアマネージャーだったんですか?」
    「えぇ、後で説明しようとしてそのままにしてたの。ごめんね。」
    「いいえ!大丈夫です!」

    いさ子はどうもそわそわしてるので、シナがどうしたの?と聞く。

    「あの、雑渡さんとはどういう関係なんですか?」
    「え?」
    「あ!さっきの話しはわかったのですが、その、親しそうに話してたので。」
    「(あぁ、なるほど。)そんないさ子ちゃんが心配する事はないわよ。」
    「心配は、してないのですが。」
    「嘘が下手ね。」
    「ええ?そうですか?」
    「うん。正直でいいと思うわよ。
    でも本当になにもないの。」
    「そう、ですか…」

    とりあえずは安心していいのかな?
    と思いまた仕事に戻った。が、
    いさ子は雑渡の心配は「嫉妬」なのではないか?と疑問が浮かんだ。
    シナに対してのモヤモヤが消えてはない。
    どうにもこの考えは拭えないのだった。
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