尋ね人「お久しぶり。元気だった？」
「お前こそ変わりないな。昆。」

平日に雑渡の元に一人の男が現れた。
今の季節はそろそろ雪が降りそうで、風が吹くと肌に刺すような感覚になる。
火傷の跡が少しひりつく。

他の人たちは仕事でいなかったので、堂々と二人で話していた。
接待室で男にお茶を出し、雑渡も座る。

「昆、お前嫁さん貰ったんだって？」
「あぁ。可愛い嫁さんだよ。」
「良かったな。心配してたんだ。」
「ずっと心配ばっかしてるじゃん。」

男はふふっと笑いお茶をとり、息をかけ冷ましてから飲んだ。
机の上に手土産のお煎餅の袋から、雑渡は一枚開けてバリッと音を出して食べると、
口の中でお醤油の濃い味が広がって美味しい、お茶で飲むこみ話を続ける。

「足の具合はどお？」
「この季節になると軋むが、まぁ、大丈夫だ。普通に歩ける。」
「良かった。」
「尊奈門はどうだ？しっかり仕事やってるか？」
「大丈夫だよ。仕事が早くて助かる。」
「そうか、ならいいんだ。」
「何か他に用事があって来たの？」
「これ、早いが結婚祝いで受け取ってくれ。」

男の着ていたスーツの懐から立派なご祝儀袋を出し、雑渡の前に置いた。
雑渡はしばらくその袋を眺めて頭が混乱している。

「あのさ、まだ結婚しないんだよね・・・。」
「え？まだなのか？」
「え？話どこまで聞いてるの？相手は学生だからまだ結婚しないんだよね。」
「え？？学生？？？」

男と雑渡はしばらく見つめあってどういう状況なのかわからず黙ってしまった。
雑渡が一通り説明をすると男は「はぁ」とため息をついて肩を落とす。

「あいつ、そんな詳しく言わなくてな。大事な所を聞こうとするといつも忙しいからって
話を中断するんだ。本当に仕事はしっかりやってるのか？」
「仕事とプライベートは違うからね。」
「そうかもしれんが・・・、そうか相手は学生か。昆は、その、あれか？ロリ」
「ロリコンじゃないから、違う。辞めて。」
「そ、そうか。まぁ、人それぞれだもんな？」
「いやその言い方やめてくんない？すごい嫌なんだけど・・・。」

男は苦笑いをして、お茶をもう一度啜る。
飲み終わると、肩の力を抜いて雑渡の顔を眺め何か言いたそうにしていたので、
「何？」と雑渡が訪ねた。

「いや、良かったな。本当におめでとう。」

その言葉は心底安心したような声色だった。
「だからまだ結婚はしないって。」と言うと首を横に振る。

「いい人に会えたみたいで、俺は嬉しい。」

お茶に入ってる水面に映ってる自分の顔に視線を移した。
雑渡は男のその様子をみて、別に何も傷つくことを言われた訳ではないが、切なさを感じる。
そんな事を感じるのが嫌でつい

「私の心配ばかりしないで、たまには尊の心配した方がいいんじゃない？」

と声をかけた。
ニヤリと口の端をいやらしく笑い、男はハッと雑渡をみて大笑いする。
それを見て雑渡は一緒に静かに笑った。
するとドアが開いて何人か部屋に入って来たので、「尊は居る？」と声をかける。

「はい？」

とドアから尊奈門が顔を出し男を見ると、げっ！と声を出した。

「親父、くるなら連絡しろよ。」
「お前な！！中途半端に俺に説明するな！恥かいたろ！」
「え？なに？それご祝儀袋？」
「尊、お前お父さんにしっかり説明しないとダメだろ。」
「え？」

会話をしていると、山本、高坂も入り久しぶり会えた事を喜んだ。
部屋の中は外よりも暖かくなった。