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    夏naaa

    ここは墓場です。
    書き捨ても普通におきます。

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    夏naaa

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    女体いさ子シリーズ世界線のおじいちゃんずの話

    じいちゃんず「美味しいなここのコーヒーは。」

    お客はこのおじいさん一人だけ。
    銀色の長い白髪が似合うその人はコーヒーを飲んでそう呟いた。
    手挽きコーヒーミル (銅板ミル)で入れた物で、少々手間がかかるが深い香りが一層コーヒーの香りを強くしている。
    ガタイがいいのか少しぴったりしていて、ちょっとした仕草をするたびにライダースの特有の音が店内に響いて聞こえる。


    カタン

    と扉と閑古鳥が鳴いたのでついその音を見ると、
    茶髪のやわらかい髪が特徴のおじいさんが入ってきた。
    足が悪いようで杖をつている。
    椅子を引いて座ろうとしても力がうまく入らないのか後ろに下げれずもたついていたので、白髪のおじいさんが「どうぞ。」と椅子を引いて手を添えたが、杖をついたおじいさんはムッとした表情になった。

    「年寄りに年寄り扱いされるのは慣れないものでね。すまん。」

    嫌味だろうなとおじいさんは苦笑いをする。
    ゆっくり座ってそれに合わせて椅子を押し込んで座らせた。
    そのまま席に戻り、少し冷めたコーヒーをもう一度啜り少し外を眺めて「孫もあんな感じになるかなぁ。」と呟いた。




    「明日おじいちゃんがくるそうです。」
    「奇遇だね。私のじいさんもくるらしいんだ。」

    二人はそう言い合うとぐったりと肩を落とした。
    ことの発端はこうだ。

    いさ子のおじいさんは
    「孫娘のお婿さんに挨拶したい。」

    雑渡のおじいさんは
    「孫の嫁さんを見たい!」

    と似たような理由でお互いのおじいさんがこちらにくるらしい。

    「申し訳ないですが、私のおじいちゃんは私のことが、その、過保護かってくらい心配性なんです。失礼な態度をとったらすいません・・・。」
    「それに関しては大丈夫、私のじーさんもかなり大雑把でいさ子ちゃんに失礼な態度をとったらごめんね・・・。なるべく止めるけど・・・。」

    二人はハァ。とため息をついた。
    くる前から疲れる事を知っているから、今からとても憂鬱だ。



    土曜日。
    とにかく雑渡のアパートの住所を雑渡爺さんに送り、いさ子は近くの駅まで迎えに行くことにした。

    「帰りにケーキ買おうと思ってるのですが、おじいちゃん好きですか?」
    「基本何でも食べるよ。適当に買ってきてほしい。」
    「わかりました。」

    そうしていさ子は駅へ向かう。
    歩いてる途中で携帯が震えたので、見るといさ子爺さんからだった。

    「えきくのこーひーちなにいる」
    「ん?」

    よくわからず、思わず止まって一言一言口にだして二回ほど読むと「駅近くのコーヒー屋さん!」
    とやっと理解した!いさ子は珈琲屋さんへ急ぎ足で向かった。


    駅の近くにある珈琲屋さんは、大きい窓になっており、外から中を覗き込むことができた。
    いさ子のおじいさんの茶色の髪の毛が見えたので、早速店の中へはいる。
    閑古鳥が鳴き、いさ子のおじいさんともう一人のおじいさんが一緒に座っていた。

    「おじいちゃん?」
    「おお、いさ子。久しぶりだな。元気にしてたか?」

    目の前にいるおじいさんから振り返り、一変して和かな表情でいさ子に話しけた。
    相変わらずの変わり身の早さに少しため息をつく。
    おじいさんの周りにはタバコの煙が漂っていて、それのせいで光の筋がはっきりと浮かんでいる。
    店はその二人と店員さんしかいないので、声がよく響いいていた。
    歴史がありそうな店内で、歩く度に木が沈みミシミシと音が鳴る。

    「おじいちゃん、その方は?」

    いさ子が近づいて頭をさげると、長髪のおじいさんは目を見開いた。
    いさ子の顔をまじまじと見て何も言わないでいるのでいさ子は頭を傾げる。

    「お前さん、さっき話してた私の孫だよ。挨拶はないのか?」

    いさ子に話しかけた口調とは全く違う、鬱陶しいと思っているような声で返事を促した。

    「あ、ああ、すまん、いや、いやいや、あまりにも可愛くてついな。」

    そう言うと「どうも」と頭を下げてニコリと笑いかけられた。
    なんとなくその笑顔が雑渡に似ている。
    普段雑渡以外に「可愛い」と言われ慣れていないので、少し頬を赤らめ目線を横にずらし「そ、そんな可愛いだなんて…」と照れてしまう。
    それを見ていさ子爺さんは面白くないと思ったのだろう、「じゃあ行こうか。」
    と帰りを促した。

    「え!いいの?お友達じゃあ・・・」
    「なに、さっき会ったばっかりのジーさんだよ。」
    「ええ?」

    杖を使って立ち上がろうとしていたので、慌てていさ子が椅子を引いてサポートをする。
    長髪の爺さんはその様子を見ても、コーヒーを飲んで落ち着いていた。

    「すいません、私のおじいちゃんが失礼なことされていませんでしたか?」
    「いや、大丈夫だよ。あの、つかぬ事を聞くんだが。」
    「はい?な「おい、いいから早く行くぞ。婿さん待ってるんだろ?」

    いつのまにかドアまで歩いて行こうと手を添えて開けようと踏ん張っている。

    「あ!待ってよ!お金は!?」
    「もう払ってる。」

    去り際に「ごめんなさい!すいません!行きますね!」といさ子が頭を下げて慌ただしく出て行ってしまった。
    それを眺めて最後のコーヒーを飲みつくすと「似てるなぁ。」と呟いて、静かにカップを
    置いて少しの間考え込んだ。


    「駅からだと10分くらいだけど大丈夫?」
    「別に構わない。」
    「あ、途中でケーキ屋さん行きたいんだけどいいかな?」
    「別にいいぞ。」

    ゆっくりいさ子爺さんと歩いて話をする。
    爺さんはいさ子の方を向いて、厳しい顔をして質問をする。

    「いさ子、本当に良かったのか?」
    「何が?」
    「結婚相手だよ、お前はまだ若い。あのバカにそそのかされて
    勝手に決められたんじゃないのか?」
    「い、いやそんな。大丈夫だよ。私の意思でもあるし…。
    それに、パパはちゃんと私が嫌だったら言うんだよって言ってくれてたよ。」
    「どうだか。あいつは昔から打算的なところがある。
    いさ子の事を考えたらそんな事しないだろ。親なんだから。」
    「うーん、でも、結果的には良かったよ。私雑渡さんの事大好きだから。」

    いさ子は改めて言葉にすると恥ずかしいのか、顔を真っ赤にした。
    爺さんは心は穏やかなはずだが、その雑渡と言う男に嫌悪感を抱く。
    何せかわいい孫娘で、世界で一番可愛いと思っているのだ、たとえ孫が好き
    だと言ってもどうしても許せない。
    (見定めてやる。)そう心に誓った。

    おじいさんの歩きだと、10分でつく所が20分程かかってしまい、更にケーキを買ってきたので更に時間が進んでしまった。
    アパートに着くと見慣れないバイクが駐車場の脇に止まっていた。
    バイクはハーレーダビッドソン。光に当たってキラキラと輝いてるが、その見た目はかなりゴツい。

    「見た事ないバイクがある…。」
    「なんだ?婿さんのやつか?」
    「ううん、見た事ない。別の階の友達さんとかのかなぁ?」

    そう言いながらアパートに入って雑渡の部屋のインターホンを鳴らした。
    出てきたのは先どの銀髪のおじいさんだった。

    「え!?」
    「あ?さっきのじぃさん?」
    「あ、やっぱり君だったのか。私の孫のお嫁さんは。」

    更に驚いて玄関で一瞬時が止まった。が、いさ子はハッと気付いて「雑渡さんは?」
    と聞くと「こぉだよ」とトイレから情けない声が聞こえてきた。



    「うう・・・まだ痛い・・。」
    「雑渡さん大丈夫ですか?」

    台所のシンクで水を飲んで具合悪そうにしてる雑渡の背中をさすりながら心配をするいさ子。
    説明をされたのは、「お土産を食べた」との事。

    「一体なにを食べたんです?」
    「それが…」
    「いや~、最近辛いものが好きでね。この町にくる前にお饅頭を買ったんだよ。これ。」

    フードパックに入っている3個の饅頭をいさ子達の前で見せる。

    「これ、結構有名な激辛饅頭らしくてね。みんなで食べて貰おうと思って。」
    「いさ子ちゃ、食べたら、だめだ。死ぬ…舌が痛い…」

    どうも、トイレにこもっていたのは吐き出していたかららしい。

    「食べる前に激辛だと言わなかったのですか?!」
    「大丈夫かと思って言わなかったんだよねぇ~。」

    いさ子は原因がわかり、慌てて冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注いで渡してあげた。
    「ありがとう」と雑渡が力なく言うとごくごくと飲む。

    「激辛は人によっては危ないので、今後は言って下さい!」
    「すまんすまん。あはは。」

    「なにがあははだ。」
    額の血管が浮き出ていて、確実に怒っている。

    「おい、お客がきてるのにお茶の一つもないのか。」
    「おじいちゃん!!」

    椅子に座ってるいさ子の爺さんはタバコを吹かしてその様子を楽しんでいるようだ。

    「今雑渡さん大変なんだから!」
    「辛いだけで死にゃーしないよ。」

    ふっと小馬鹿にしたような笑いをして横を向いた。
    二人は爺さんたちに苦戦する予感しかない。


    爺さん達には二人用のソファーに座ってもらい、雑渡といさ子は床に座る。
    先程いさ子が入れた紅茶を二人にだして、いさ子の爺さんと買ったケーキを二人の前に置いた。
    いさ子の爺さんは携帯灰皿にタバコをいれて、さっそくケーキを食べたが、雑渡爺さんは手をつけず話し出した。

    「いやぁ、先程は悪かった。美味しいと思ったんだが。」
    「全然美味しくなかったし、なんなら死ぬと思った。」
    「辛いのが苦手だったんだな。すまんな。」
    「苦手とかの話じゃない。」

    まだ舌がヒリヒリしていて温かい飲み物は飲めないので水を飲んだ。

    「しかし、先程聞いてた話でもしかして昆奈門じゃないか?って思ってたがやはりそうだったなぁ。」
    「なんで言わなかったんだ?」
    「もしかしたら違うかなとも思って。それに楽しそうに話してたから水を差すのも悪いかと。」
    「…」

    いさ子の爺さんは苛立ちを感じ紅茶をすする。
    別に楽しくはなかったのだが、他人に自分の事情を話せたのがほんの少しだけ嬉しかった。
    二度と会うことはないだろうと思っていらん事を話してはないか?と
    おぼろ気ながらも思いだそうとしたが、もうすでに記憶が曖昧だ。

    「いやいや、昆奈門のお嫁さんがこんなに可愛いとは、良かったな。」
    「可愛いのは当たり前だろ、それにワシは認めてない。」
    「まぁ、本人達が決めた事だからな。あんたが認めなくても問題ないだろ。」

    ケラケラ笑っていさ子爺さんの背中を一発だけ叩いた、その衝撃で食べていたケーキが変なところに入ってむせた。
    雑渡といさ子はそんな二人を見て案外うまく気が合うのではと思えて心が明るくなる。
    けほっと咳を一つして、いさ子爺さんが話し出した。

    「いさ子の事が心配で来ただけだ。なにか変なことでもしてみろ。絶対許さんからな。」

    キッと雑渡を睨んで、我慢ならないのか身体が震えている。
    そのまま残ったケーキを一口で食べてしまい、荒々しく机に食器を置いた。

    「変なことってなに?」
    といさ子が聞くと
    「変なことは変なことだ!!まだお前は17歳なんだぞ!そんな歳から手を出すのは碌なやつじゃない!」

    いさ子はその言葉を聞いて怒ろうとしたが、「聞き捨てならないなぁ」と先に雑渡爺さんが口を出した。

    「確かに昆奈門はいさ子ちゃんよりはだいぶ年上だが、そこら辺の男よりもしっかりしてるだろ。
    そんなろくな大人に育ててはいないはずだぞ。」
    「じゃかしい!まだまだ若いのにもうこんな年からお婿さん迎えて可哀想だとは思わんのか?!」
    「思わないなぁ~、本人達が良ければそれでいいんじゃないの?」
    「お前は鬼か??だいたいそれを受けるお前もお前だ!」

    雑渡の方に指を向けて歯茎を剥き出して怒る。
    雑渡は冷静にどうしたもんかと考えようとするといさ子が抱きついてきた。

    「おじいちゃん!雑渡さんは最初から私を受け入れた訳じゃないよ!それにそんな言い方酷いよ!私は雑渡さんがいいの!」

    いさ子はおじいちゃんのわからず屋!と横を向いた。
    それを見ていさ子爺さんはショックをうけ項垂れがっくりと肩を落とす。
    空振りに終わった事が少し可哀想に思って雑渡爺さんが肩に手を置いたが払われてしまった。
    雑渡はいさ子の嬉しい言葉を聞いて幸せ感じていたが、現実に戻らないといけないと首を振り、いさ子爺さんに話しかける。

    「あの、私も生半可な気持ちでいさ子ちゃんを受け入れた訳じゃないんです。私もいさ子ちゃん以外は考えられません。」
    「・・・」
    「今は許してもらわなくていいです、いずれ許して頂ければ」
    「うるさい。」

    口を結んで今度はいさ子爺さんが横を向いた。
    認めたくないようだが、いさ子の言葉に多少とも考えたようだ。
    雑渡はもどかしいと思いながらもいさ子の身体をそっと離した。

    「・・・思ったより仲良く暮らしてるんだな。」
    「じーさんうるさい。」

    恥ずかしいので手で顔を隠し、一つため息をつく。
    そのタイミングでいさ子のじいさんはボソリと呟いた。

    「ばあさんが生きていれば、私も納得できたかもしれんな。」
    「え?」

    その言葉に反応したのは雑渡爺さんだった。
    顔から表情がなくなり、いさ子爺さんの肩に両手を乗せ身体を自身に向け
    「亡くなったのか??」と再度確認をとる。
    いさ子爺さんはびっくりしたが、「あ、あぁ。」と素っ頓狂な答えをしてしまう。
    「そうか。もう、亡くなったのか。」
    自分に言い聞かせるように繰り返し、手に力が入らなくなったのか掴んだ手をズルズルとおろした。

    「お前さん、私の婆さんの事知ってるのか?」

    はっ!とまた目に生気が戻って顔を上げて「いや、知らないよ。」
    そう答えたが明らかに何か知っている態度だ。

    「なんだ?婆さんとあんたは何か知り合いか?」
    「いや…いさ子さんが私の知り合いにそっくりだったものだから。」
    「いさ子が?」「いさ子ちゃんが?」「私が?」

    それぞれの驚いた反応を見て、薄笑いをする。
    しかし、それ以上は言いたくなかったのか「まぁ、気にしないでくれ。
    似てるだけって話だ。」とそこで紅茶を飲んだ。
    もうそれ以上は踏み込めないなと雑渡は感じて話を変えた。

    「じーさんこの後どうするの?」
    「とりあえず、また別の場所へ行こうと思う。今度は海を渡りたいと思ってる。」
    「海?」
    「おおう。楽しそうだろ?場所は決めてないがな。」

    豪快に笑うところを見ると心底楽しそうだ。

    「出て行く前に父さん母さんにも会ってよ。心配してたよ。」
    「大丈夫だろ。なんも連絡ないなら無事って事だと伝えてあるしなぁ。」
    「またそんな事言って、じーさんの連絡先知ってるの、私しかいないから母さんから何かある度にじーさんは?って連絡くるから行ってくれ。」
    「うーん。」

    余程気が乗らないのか悩んでいたが、悩むのはあまり好きではないようで
    「おたくは?この後どうするんだ?」
    といさ子爺さんに話を振った。
    急に振られて「は?」としか返せない。代わりにいさ子がその答えを言う。

    「今日は雑渡さんが私の実家まで送って行くんですよ。」
    「そうなのか!なぁ、私のバイクで家まで送ってやろうか?」
    いさ子爺さんの顔を見て笑いながらそう伝えた。

    いさ子は「え!?」と驚いてきっと爺さんは「そんなものに乗るか!」と
    怒るだろうと思って見たが、思いの外ワクワクした顔つきにびっくりした。
    目は少年のように輝いているが、当の本人は「そんな危ない物は乗れない。」
    と控えに言っている。
    しかし、確実に「乗りたい」と言う顔を横にして、雑渡爺さんには見えないようにしてそわそわと身体を揺らす。

    「嫌じゃなかったら乗ってけ。ちゃんと二人乗りができるやつだ。安全運転で送ってやる。」

    ちらっと顔を向けていさ子爺さんは「そんなに言うなら。」と了承した。
    それにいさ子が更にびっくりする。あんなに自転車も嫌がってたおじいちゃんがまさかバイクに乗るとは・・・。
    雑渡といさ子は顔を見合わせた。

    そこからいさ子実家の道を地図で説明し、「またいつか。」と言う事で話がついた。
    シーシーバーにつけている荷物からヘルメットを出して
    いさ子爺さんに被せてやると、自分が先にバイクに乗り、いさ子爺さんをシートに雑渡がサポートして乗せた。

    いさ子は「大丈夫ですか?」と不安そうに雑渡爺さんに言うと、にこりと笑う。
    その顔はもう雑渡の笑い顔だった。

    「大丈夫だよ。旅の途中で何回か人を乗せたことがあるんでな。」
    「そうですか…」

    本当は止めたかったが、本人が乗りたい(とは言葉にだしてないが)のをわざわざ止めるのも悪い気がした。
    実際に乗らせてみると、ヘルメットをかぶって目元しか見えないが、横から見ても期待している目をしていて、楽しいのだろう。
    なんにせよ、"楽しい"と思えてくれるのが嬉しい。
    5歳からの記憶で、いさ子の前では笑顔を何度か見たが、他の人には全く笑わない人になっていた。

    「じーさん気をつけてな。いさ子ちゃんの両親によろしく」
    「おう。」
    「お願いします。」
    雑渡爺さんがいさ子の顔をじっと眺めて、懐かしむような表情をし、
    ごく自然にバイクグローブのはめた手でいさ子の顔をくいっと上げて覗きこんだ。
    その光景を見て、いさ子爺さんは背中を、雑渡は胸元を叩いて阻止をする。
    「うぐ」と苦しそうに前のめりになり痛みに耐えた。

    「なにやってんだじじぃ。」
    「いさ子になにしてんだ。」
    「二人とも…息がピッタリだな…」

    苦しそうに言う雑渡爺さんを、いさ子は慌てて「二人とも!」と注意をした。

    痛みが柔いできたのでバイクにエンジンをかけ、「じゃーな!」と挨拶をしてバイクに乗り二人は去っていった。
    「嵐のような人たちでしたね…。」
    「そう言えばじーさん。激辛饅頭持って行ったんだろうか・・・。」
    キッチンへ戻り見ると、フードパックに3つの饅頭がそのまま置いてあり、雑渡は「もう無理・・・。捨てていい?」といさ子に許しを得た。



    「父さんバイクで乗ってきた大丈夫だったの!?」
    「お義父さん足大丈夫なんですか!?」

    実家に着くと驚きながらもいさ子の両親が出迎えてくれ、降りる際にパパさんがサポートをしてゆっくり降りて、ヘルメットを取った。
    その顔は今まで見た中で爽やかな顔で、「楽しかった。」と笑い、満足げだ。
    両親はその顔を久しぶりにみて少し泣きそうになる。

    「楽しそうでよかったよ。」

    雑渡爺さんも降りて背伸びをして体操をする。
    ママさんはお礼を言って爺さんを連れて家に入って行った。

    「いやぁ、ありがとうございました。父のあんな顔見るのは久しぶりです。よかったら家に上がりませんか?」
    雑渡爺さんは体格がでかく、パパさんを見下ろしてある事を聞いた。
    「善法寺さん。爺さんから聞いたんだが、婆さんが亡くなったんだって?」
    「え?ええ。」
    パパさんは何が言いたいのかわからず困惑して答える。
    「その婆さんはーってあだ名で呼ばれてなかったか?」
    「え!?」
    パパさんは驚いて目を見開いた。
    「その名前は、親しい友人や、家族の中でしか呼ばなかった名前です。なぜ知ってるのですか?」
    「やはりか、うーん今でいう元彼ってやつだよ。」
    「え??」
    キョトンとして雑渡爺さんを眺める。
    「まさかここで会うとは思わなかった・・・。」
    「え?え?まさかそんなことって。」
    「あるんだなぁ、私も驚いてるよ。」

    二人は苦笑いした。パパさんはお母さんの話を思い出した。
    『今のお父さんと会う前にもう一人結婚の話が出た人がいたの。でもね、その人女遊びが激しくて嫌になって自分からフったのよ。いい男だったんだけどね~。』その話の人がこの人だったとは・・・。
    「とりあえず、線香あげても?」
    「あ、あぁ、いいですよ。母も喜びます。」
    喜ぶのか本当のところはわからないけど、とりあえずは父親を運んでくれ、あんな楽しそうに笑う顔にしてくれた恩人として見ることにした。そして、ふと思い出したことを口にする。

    「もしかして、あなたの名前はーって言いませんか?」
    「え?そうだけど?」
    「やっぱり・・・実は、介護していてよく頻繁に間違って呼ばれていた名前なんです。」
    「え?そうなの??爺さん嫌じゃなかった?」
    「ええと、友達かなんかの名前だと思ってたみたいでそんなに気に留めてなかったみたいです。」
    「そうか、それならいいが・・・。」
    「父もまさか元彼の名前だとは思わなかったんでしょうね。もう亡くなってだいぶ時間も経ってるので忘れてるとは思います。・・・これはここだけの秘密にしましょう。」
    「だな。」

    二人は共通の秘密を持って家に入って行った。
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