三忍数ある晴れた春の日のこと。
山桜が美しく咲き、ハラハラと散っていくのが美しい季節だった。
数馬は15歳になり、保健委員長を勤めていた。
伊作はタソガレへ、左近、伏木蔵、乱太郎が後輩になりよく動いてくれている。
後からきた後輩たちも良い子だが、不運気質で相変わらず「不運委員会」と言われていた。
今日は数馬が当番で、忍術学園の塀から少し出てる桜を廊下から眺めて、そろそろやってくるであろう人達を待ちながらお茶をすする。
ガタン
(来た来た)
身体を少し後ろにずらして天井を見るとタソガレ忍者の椎良が天井から顔をひょっこり出して数馬を見つめて「曲者だよ。」と声に出した。
「お待ちしておりましたよ。」
ささ、他のお二人もどうぞ。
とても美味しいお茶を淹れたんです。
次々に物音を立てずに3忍が降りてくる。
風炉(ふろ)の側でお茶を淹れ、3忍に置いていく。
ゆっくりと飲んで一息ついた椎良と五条。
唯一、一人反屋だけ「あっち!」と舌を出して冷ましている。
「猫舌なのに無理して飲むなよ。」
椎良がやれやれと顔をしかめてたしなめた。
五条が少し眉を潜めてずずずとお茶をすする。
「大丈夫ですか?火傷しましたか?」
数馬は心配で近くまで寄って、反屋の顔を掴んで出された舌をまじまじと見て、火傷してない事を確認すると安心してため息を少し。
「良かった。火傷してないですね。」
笑顔で笑いかける数馬を見て、舌をしまい頬が赤くなる反屋。
それを見て後の二人がムーっとした。
数馬が何かを出しに3忍に背を向けた瞬間に、反屋がどや顔を二人に向けた。
((お前後で覚えてろよ。))
矢羽で二人から怒られてもなんのその。
涼しい顔して(へぇへぇ)と余裕の表情をする反屋。
そんなやり取りを知らない数馬がまた3人の元へ戻ってきた際には、普通の表情に戻していた。
「数馬?これは?」
思わず五条が数馬の手元にある印籠(いんろう)の事を聞いた。
「ガマの花粉を炒った物です。」
「ガマってあの蒲?」
「はい。僕もあまり詳しくないのですが。火傷に効くそうですよ。
伊作先輩に聞いて作っておいたんです。」
へぇ?3忍がその印籠に釘付けになる。
五条が口を開いた。
「組頭の為の薬って事だね?」
「そうです。なかなか取りに行けないと嘆いてましたので。なのでこれを伊作先輩に届けて下さい。」
数馬が伊作の喜ぶ顔を想像するだけで嬉しくてくすぐったそうに笑った。
その様子を3人が微笑ましいとホワホワ。
幸せなオーラが部屋全体を包む。
椎良が先に現実に戻って「そうだ。」と懐に手を入れて印籠を数馬の前に差し出した。
「これは??」
「伊作くんに頼まれたんだ。」
椎良が急に数馬の顔に近づいてきたので、数馬は真っ赤になる。
そんな様子でも遠慮なく椎良は数馬に近づいてきたのでぎゅっと目を瞑る。
(こ、こんな所で!)
キスをされる!と思ってたいたが、
そのまま耳へ移動した気配があり、薄目を開けて「へ?」と嘆いた。
椎良の表情が見えないが、後の二人の形相は凄まじい。殺気だっている。
椎良が数馬の耳元へたどり着いて話しかけた。
その声はいつもの優しい口調ではなく、
数馬を惑わす際に出す低く艶のある声で囁く。
「伊作くんが、特別に調合した潤滑剤だって。
一気に3人相手する数馬の事を心配してたよ?」
「ひっ!」
数馬が背中からぞくぞくと寒気が這ってくる感覚に少しのけ反る。
また数馬の顔の前に戻って、数馬の空いている手を持ってきて、手のひらに印籠を握らせた。
「はい。使う時が楽しみだね。」
「も、もう!からかわないで下さい!!」
真っ赤になって思わず後ろに下がると、椎良の左右の腕に反屋と五条が掴んで無理やり後ろに下がらせる。
ズルズル引きずられても椎良の表情は幸せそうな笑顔だ。
数馬の反応を見て楽しんでいるのだろう。
数馬はそんな様子を見て「まったく!」とからかわれた事にへの字の口で怒っていた。
手のひらに握らされた印籠を確認するが、いつの間にか数馬が持ってきた印籠はなかった。
「あれ?!」
「大丈夫だよ数馬。」
五条が数馬の印籠を見せて安心させる。
数馬は怒っていた事など忘れ、丸い目を更にまたまん丸くして驚いた。
いつの間にとっていったのか?
気づかなかった、さすがプロの忍者。
「ちゃんと伊作くんに届けるよ。」
五条が懐にゴソッと入れて、ポンポンと叩いて任せろとジェスチャーをする。
「ありがとうございます。お願いします。」
数馬が頭を下げて再度お願いをする。
それをみて、今度は3忍とも笑顔で頷いた。
引きずられていた椎良が立ち上がりでは、行くか。
と声をかけるのを合図に先ほどきた天井の下へ行く。
その際に、それぞれ一人ずつ数馬の元へ行き頬にキスを送り、「では、また。」と言い天井へまた戻っていく。
最後に五条が数馬に頬をキスを落として、数馬の顔を自分に向けて唇にキスをする。
「また。」
と言うと唇を愛おしそうに指の腹で撫でて、数馬の返事を聞かずに行ってしまう。
天井はゴトっと音を立てると、いつもの形になって何事もなかったような静けさが戻った。
「また、早く来て下さいね。」
春の暖かさではなく、自身の暑さがしっかりとわかってしまうほど火照ってしまった。
数馬の言葉の返事をする者は誰もいない。
ただ、春の風が吹き抜けていく。