お題箱より 歌声/褒美【歌声】
その鼻歌に、慕情は驚愕の眼差しでふり向いた。
その主は、まるで気づかぬようにーーいや、気づいて鼻歌をやめ、視線を寄越したが、心当たりは皆無といったように呆けた表情をしている。
「お前……」
「? なんだ?」
慕情は取り合うのをやめ、ため息を吐いた。
腹の底に響くようなその低い声は悪くないのに。
「このあと、玄真殿に来い」
「え? あ、ああ、……わかった」
風信は眉を顰め訝しんだ後、大きくまばたきをし、期待と疑惑が入り混じったような表情で慕情を見ている。
慕情はそれを見て我に返らないこともないが、揶揄するような気持ちで唇に笑みを浮かべた。
**
慕情の細く長い指先が、古琴の弦をはじく。
睨むような視線を浴びて、風信は喉を震わせた。
2683