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    qa18u8topia2d3l

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    大好きなコンビのターンです

    この次、花憐とトリオで終わるはず…

    https://poipiku.com/MyIllustListPcV.jsp
    の続き

    百剣 ニ しっかりと地を踏み締め、ゆっくりと歩いてくる足音に、彼はゆっくりとふり向いた。家というより小屋と呼ぶべき住まいに向かってくるその重い足音は、薄っぺらな靴を擦って歩くのとは違う。あれから何年も経ち、彼の暮らしも随分と良くなったものだが、それでもその重厚な足音はあまり馴染みがなくなったままだった。
    「やあ、こんにちは」
     師青玄がにこりと微笑むと、きまり悪そうに眉を寄せたまま、風信は小さく頭を下げた。
     明らかに愉快でない顔をしながら、手には酒甕をぶら下げ、礼すらしてくれるのだ、律儀だなあと師青玄はすこし可笑しくなった。
    「ねえ、私を『少君傾酒』と覚えていてくれるのはあなたたちくらいかも知れない」
     風信はぴくりと眉を動かし、ややあってから自分の手にぶら下がる酒甕に視線を遣ると、おもむろに師青玄に差し出した。
    「もちろん酒は変わらず好きですよ。ありがとう」
     師青玄は手を伸ばしてそれを受け取ると、仏頂面の風信を見上げた。
    「一緒に呑みます? まあ気の利いたつまみはないけどね。まさかこれをくれるためだけに来たってことはないでしょう? まあとにかく、狭いけれど入って入って」
     そう言って荒屋の中に風信を引っ張っていく。風信も張り合いなくとぼとぼと引き摺られるように続いた。
     師青玄が酒甕をつつましやかな台所に置き、薄い茣蓙を勧めると風信はゆっくりとそこに腰を下ろした。が、未だに困惑気味のどこまでも微妙な表情は変わらない。
    「そういえばここらにも新しく南陽殿ができるとか聞いたような。南陽将軍、君も忙しいでしょうに。どうしたんだ? まあ、言いたくなければいいけどね。やっぱり酒でも呑もうか。ちょっと待って……」
     そう言って、座りかけたところを立ち上がろうとした師青玄を、風信は膝に置いた手をすこし浮かせて制した。
    「……あなたの顔が見たいと思っただけだ」
     師青玄は数度ぱちぱちと瞬きして、ぷっ、と堪えきれず噴き出した。
    「それ、口説き文句みたいだよ。はい、やっぱり酒を呑もう。待ってて」
     苦い顔の風信を横目に、師青玄はやはり立ち上がって大きさの違う茶杯から比較的きれいなものを選んで戻った。受け取ったばかりの酒の蓋を開け、とぷとぷと注いでひとつを風信のほうに寄せる。
     それから自分のものをひとくち含んで、ゆっくりと味わってから手を下ろした。
    「それで? 太子殿下となにかあったのか?」
     未だ茶杯に手を伸ばさない風信は、師青玄の言葉に瞠目した。それを目にして師青玄は満足げに微笑む。
    「正解? 私を訪ねるのは妥当だね! 親友なんだから。……いやまあ、正直君たちが立て続けに訪ねてきたら、彼のことかと気づいたよ」
     風信はその言葉に眉を顰めた。ふと、荒屋の中にもうひとつ、上等な見栄えの酒甕があることに気づく。
    「……慕情か」
    「ええ。他に誰か神官が来なかったかと訊かれたけど、もしかして彼は君を探していたのかな」
     風信は考えたくもないというようにいっそう表情を暗くしてゆるく首をふった。
     相変わらずの様子に師青玄の唇には自然と苦笑いが浮かんでくる。きゅっと唇を結んでそれを収めて、師青玄は再び口を開いた。
    「まあ、とにかく。太子殿下は大丈夫でしょうと言っておこう。君が私に会いに来た理由は……憶測だけど、落ちぶれた元神官の姿が気になった、のではないかな? というか、来てみて気づいたから、ずっと気まずそうな顔をしているんでしょう。どう? 私、なかなか名推理じゃないか?」
     師青玄が戯けたように覗き込むと、風信はもう何度目になるか、眉を顰め、視線を落とした。
    「……すまない」
    「真意はどうであれ、知り合いが来てくれるのは嬉しいから気にしないで。それに玄真将軍はもうちょっとあからさまだったよ! まあ、彼もあれで優しいところもあるみたいだし、悪い人ではないんだけど」
     そう言って笑いながら、今度は勢いよく師青玄が酒杯を呷ると、風信は遂に重く口を開いた。
    「……太子殿下が貶謫された後、俺たちが袂を分かったのは知っているだろう……わ貶謫された後の生活は、ひどいものだった。神性を失くしただけでなく、仙楽国が敗北し滅びたことでまるで戦犯で、隠れ逃げ延びることで精一杯だった」
     風信が語るのに、師青玄も静かに耳を傾ける。
    「……俺は彼の侍従だったが、十四の頃から一緒だったから、友人とか兄弟のような気持ちも少なからずあっただろう。それなのに、俺は去ることを選んだ。それから、自分がいちばん彼のことをわかっているつもりだったのに、ちっともそんなことはなかったと思い知らされてばかりだ。当時も俺の気づかないうちにひどいめに遭っていて、なのにずっと知らせないままだった。俺は彼がつらい時に、どれほどひどいことをしたか。そんな相手を、本当に許すことができるのか? また友人のようにだなんて、虫が良すぎるだろう。俺はそんなの、まだ受け入れることができない。……あなたは、……いや、いい」
     風信の話すことは、とくに後半は、師青玄の心をちくちくと刺した。彼は彼自身のことを話しているというのに、師青玄も思い当たることばかりで、共感を禁じ得ない。
    「それが経緯ってわけか。……そうだね、私ともわけが違うし、なんとも。でも、とにかく、太子殿下は大丈夫でしょう。私も彼に過去どんなことがあったのか全部は知らないけれど、彼は隠したいのではなくて、きっともうどうでもいいんだよ。南陽将軍、君がまた新しく、心地よい友人関係を築けたなら、それは私にも勇気をくれると思う」
     へへ、と軽い笑い声を立てる師青玄を、風信は険しい表情のままじっと見た。それから小さく息を吐き、手をつけていない茶杯を師青玄へと押し戻す。
    「……また寄る」
     ゆっくり立ち上がる風信を追うように、師青玄も立ち上がった。
    「ええ、ぜひ!」
     にこやかな表情を浮かべた師青玄は、重い足取りの風信の背に手をふりながら心の中で彼を鼓舞した。




     短く、雷鳴の轟きが風信の耳に届いた。
     間もなく急な雨が降り出すことを恐れてか、南陽廟の中に数人がなだれ込んでくる。
     神台の後ろで休んでいた風信は、供物のまだ真新しい林檎に伸ばしかけた手を渋々引っ込めた。神官というものは食事を必要としなくとも、時折食べたくなるような好物なのだ。すこしでも自分を鼓舞しようと思ったのにという気持ちが半分、おそらく的中する予想に対する気持ちが半分、で風信は小さくため息を漏らす。
     神台の前の灯籠の灯りが揺らめいた。
     廟の中にそれを気に留める者はいないだろう。風信は招かれざる来訪者に、鋭い視線を向けた。
    「公務を放り出して逃げ隠れて、結構なご身分だな?」
     遠慮の欠片もなく、衣の裾をはためかせて慕情は南陽廟を突き進む。
    「……必要な指示はしている」
     風信は苦くそう返した。 
     お前はこんなところでなにをやっているんだとか、えらく暇そうだなとか、言ってやりたいことは山ほど思いつくが、我が身をふり返れば言葉にできない。
     慕情は高圧的に鼻で笑い、視線を逸らすように廟の中を見回した。
    「謝憐から追うように言われた。私はそれだけだ。お前が逃げ続ける限り私も合わせる顔がないんだ、いい加減早く腹を括れ」
     風信の噛み締めた奥歯がぎり、と鳴る。数年前なら殴っていたかもしれないが、いまはもうすこし冷静だ。
    「……お前がなにをしたかは知らない。謝憐は話さないだろうから、私は知ることもないのかもしれないが、お前にとっては許し難いことなんだろう。……私があの時離れたことは、間違っていたとはいまも思っていない。思ってはいないが、苦労を、共にしなかったことは……」
     慕情は歯切れ悪く、結局最後までは言わなかった。風信は逸らされたその横顔をしばらくじっと眺めてしまう。
     そのうちに、慕情はふいと風信に背を向けた。外套がふわりと舞ってまた灯りが揺れた。
    「慕情」
     風信は慌ててその去りそうな背中を呼んだ。呼んでしまった、が正しいかもしれない。
    「……菩薺観に行く。……お前も来い」
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