プリーズKissミー!朱桜司、十六歳。最近恋人が出来ました。恋人は眉目秀麗と言う言葉が似合い、口が悪くたまに手が出るけれど、努力家で不器用で、そしてとても優しい人だ。
「ほら、かさくんついてるよ」
「あっ、言ってくだされば自分でとりますのに」
「ははっ、子供みたいだねぇ」
「むぅ……司は子供ではありません!」
「うん、かさくんは恋人だもんねぇ」
そう言って目の前で美しく微笑むその人は、ただの後輩だった頃には見られなかった顔をしていて、司は自分の顔が熱くなっていくのが分かった。恋人になってからは度々こういう顔を見せてくれたりと愛されていると感じる。傍から見たら順風満帆なことだろう。実際、順風満帆だし不満なんて無いと言いたい所なのだが……司には一つだけ不満があった。
「瀬名先輩がKissしてくれません」
ここはいつの間にかKnightsの溜まり場になっていたスタジオ通称セナハウス。大体放課後用がない時は、皆がここに集まるようになってしまった。寒い日だったからかこたつの温もりを求めてレオもスタジオにおり、モデルの仕事が入っているという泉以外が集まっていた時の事だ。これ幸いとばかりに、司が急に話を切り出した。
「……え?」
「ですから瀬名先輩がKissして下さらないのです」
自己陶酔していた嵐が聞き間違いかと思ったのか鏡から顔を上げて聞き返してくれたので、司は同じ言葉を繰り返した。
「え〜と司ちゃん、もうちょっと詳しく教えてくれる?」
「瀬名先輩とお付き合いをさせて頂いて二ヶ月が経ちました。手を繋ぐのとhugはしましたがKissを一向にして下さらないのです。Internetで調べましたところ平均的なお付き合いを始めてからKissをするまでは約一ヶ月だと聞きます。ですが私たちは二ヶ月経っております。」
「う〜ん、でもペースは人それぞれだし誤差じゃない?」
嵐がそう言って宥めようとするが司はそれで納得しなかった。
「確かに、私もそう思いました……でもさり気なくそんな雰囲気になった時もわざと逸らされているような気がして……」
「うぅ〜ん」
泉の司への溺愛ぶりを知っていればそんなことは無いと知っていると分かるが、肝心の当人がそれに気づいていないものだからどうしたものかと嵐は思う。そこにKnightsの参謀、朔間凛月がこたつの中からもぞもぞと出てきた。
「つまりス〜ちゃんは、セッちゃんとちゅーしたい訳でしょ?」
「凛月先輩、起きてらしたのですね。」
「おい〜っす、なんか面白そうな事になってんねぇ」
「面白がらないでください」
「まぁまぁ、で? セッちゃんがちゅーしてくれないの?」
「そうです! 一度そういう雰囲気になったと思うのですが上手くかわされて……もしかしてそういう雰囲気になったと、私の勘違いだったのでしょうか……」
「司ちゃん……」
今まで意気揚々と話をしていた司だったがそう考えて、しゅんと萎れてしまった。憧れて背中を追ってきたその気持ちは、いつの間にか恋という名前がつけられるようになって、諦めようとしたこの気持ちを奇跡的に泉が拾い上げてくれて、恋人という肩書きをくれた。その肩書きだけでいいと、傍に置いていてくれるだけでいいとそう思っていたのに段々欲が出てきてしまった。もっともっとと、その先を望んでしまうのだ。
「う〜ん、じゃあこういうのはどう?」
そう言って凛月が提案した作戦に藁にも縋る思いで司は、飛びついた。